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俺とやっくり  作者: クスクリ
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若禿(大谷渓谷Ⅰ)

 俺ら四駆乗りのツーリング場所は、近場から、北九州の平尾台雪中行軍、添田町の英彦山深倉峡雪中行軍、岡垣町の三里松原海岸、福岡市の奈多海岸、福津市の津屋崎海岸、そして大分県玖珠町の大谷渓谷。特に一枚岩の浅瀬を走る大谷渓谷は楽しかった。車高の高い四駆で川の中を走る醍醐味は女子を連れて行けば大受けで、俺に対する好感度が上がること間違いなし。


 若禿の身の程知らずが、今度はここに名倉を誘おうと企てた。名倉の後に新人の女性営業が入社してきた。その子の名前は中野真理、背がすらっと高く、モデル体型の美女だった。

 逸話だが、MBの曽根営業所(閉店)にトヨタディーラーから転職してきた営業マン、柿木さん(既婚。後、俺と同じ販売三課)が居たが、彼女を誘って玉砕したらしい。

 彼女も、俺が営業から帰って自販機の前で休憩していたらよく話し掛けてくれるようになった。禿なのに。試しに言ってみた。

「俺が誘ったら付いて来るんか?」

「うんいいよ」とは軽く答えてくれたが、「YMRさんは私に何もせん安全牌やから」って、「どげな意味かいな?」


 休憩していた俺の横に、いつもの如く名倉が寄って来た。俺はこれ幸いとばかり、「どうや?志賀島楽しかったやろうが」

「うん最高やった。車であんなふかふかの砂の上走れるなんて想像もしとらんやったよ。それにあのごつごつの長い急な砂の坂、スリル満点やったね。廣井さんYMRさんに比べたらまだまだやね。坂の途中で上がれんようになっとったもん」

「ところで名倉、廣井さんが何で四駆に乗るようになったか話したかいな?」

「聞いてないよ」と、口を突き出す名倉。

「廣井さん紹介してくれたんは古庄さんが連れて行ってくれた門司のハンズや。何か楽器をやっとるみてぇで、それを運べる車が欲しかったみたいなん。ほいでパジェロ(械式ウインチ標準装備の2500ディーゼルメタルトップバンXL)売ったんよ。下取りは古いゴルフでパジェロで悪路走るつもりなんて全くなかった廣井さんやったんやが、砂浜走りたい言うもんやから岡垣の三里松原海岸に連れて行ったんや」

「ちゃんと走れたん?」

「埋まった」

 名倉がぷっと吹きだす。

「ほいで数日して廣井さんが思い詰めたごたる顔で俺ばショールームに訪ねて来たんや」

「思い詰めた顔?廣井さんが…何かおかしい」

「ああ、俺が乗っとるガソリンのスポーツターボが欲しいげな。そのときもうガソリンのスポーツターボは絶版になっとってディーゼルしかなかったんや。それ説明したら相当がっかりしとった」

「それで待ちに待って買ったんが今のスーパースポーツ(初代パジェロキャンパストップ。L141G)やったんやね。納得」

「でもMBには俺もムカついたでよ」

「どして?」と、きょとんとする名倉。

「俺が今乗っとるスポーツターボ、ディーゼルやろ。本当は俺もスーパースポーツめっちゃ欲しかったわ。俺がこの車買ったん去年の末やん。5月、四国のレースから帰って来たらMBから営業にマイナーチェンジの案内が来とったんじゃ。見て俺は目が点になったね。幌には絶対載らんって思うとった3000V6ば積んでスーパースポーツげな。俺ガソリン絶版っていうけんディーゼル買ったんに。本気でこの車売って買い替えようって思うたけんな。ばって今はディーゼルでよかったって思い直したわ」

「どして?」

 俺ははにかんで、「まぁ名倉も助手席に乗せられたしのぉ。何ちゅうてもディーゼルは燃料安いし燃費がええわ」

 名倉、若干顔を赤く染める。


 で、「ねぇYMRさん今度はいつ乗せてくれんの?」ときた。思惑通りだ。俺はしてやったりとばかりににやっと笑うと、「四駆でしか行けねぇとっておきの場所があるんや」

「ねぇどこどこ?教えて教えて」

 嬉しい反応だ。俺は勿体ぶる。

「知りたい!知りたい!」と名倉は期待をいっぱいに込めた瞳で俺を見つめる。

「大分県の玖珠町にある大谷渓谷や。川の中を走るんや。ほいで途中に中洲があるけんそこでみんなでビールかっくらいながら焼肉パーティーじゃ!(今だったら飲酒運転で完全アウト!)」

 名倉は目を輝かせてその場でばたばたと足踏みする。

「行きたい!行きたい!絶対に行きたい!」

「分かった。連れてっちゃる」

「あっ、この前は奈美ちゃん連れていったばってん今度は中野真理誘っちゃろ思う。名倉から言うてくれや」

「がってん承知の助よぉ」

「そのギャグ古いでよぉ。女の子には似合わんぞ」

「つい出ちゃった。嬉しかったけん」と名倉が舌を出す。

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