若禿(志賀島ツーリングⅡ)
※この小説は私の独り善がりの物語であり、フィクションです。登場する個人・団体名はすべて架空のものです。どうぞご了承下さい。
俺は徐にカーコンポに手を伸ばす。
You've broken my heart 雨の高速で 車を飛び出したの Parking Area
「荻野目ちゃん私大好き!」
「おうそりゃ良かったぜよ」
オープンの車高の高い四駆の助手席に良い女を乗せて、傍目も気にせず我が物顔で走る快感は言葉では言い表せない。それも全く同じ車種の車、四台つるんで。顰蹙買おうがお構いなしだ。俺らはまだ若かった。車体の色は赤が俺と宮川さん、白が古庄さんと廣井さんだ。
ルートは遠賀町までは国道3号線。調子よく右車線から遅い車をパスしながら突っ走っていたが、黒崎の街中で、追い越し車線をちんたら走るフェスティバが俺の行く手を遮る。
――嘗めやがって!
俺はフェスティバのリヤバンパーぎりぎりに着けて煽り捲る。
「退かんかこの大衆車が!」
名倉が乗っているから相当強気だ。弱い俺は見せられない。車会社に勤めていることなど頭から飛んでいる。あとでそいつに追い込み掛けられて店に乗り込まれたら大事して、コメツキバッタの如くひたすら頭下げ捲るしかないのに。
いつも俺がパジェロ四台の先頭を切って道を開拓している格好だ。フェスティバが車を真横にして、車線を塞いで止まった。
『ありゃついに堪忍袋の緒が切れたかいな。追い越し車線ちんたら走っとるてめぇが悪いんじゃ』と俺は一向に気にしない。名倉は気にしているようだが。車線を塞がれたらしょうがない。一応車を止めた。
ドライバーは、パンチパーマの若い、見るからに柄の悪い奴だ。ドアをばたんと勢いよく閉めて降りてきた。パジェロはオープンエアだから、勿論、運転席、助手席の窓ガラスも全開にしていた。
「おりゃ、俺を誰やと思うとるんじゃ!俺は頃末の人間なんじゃ!嘗めとったら殺すぞ」
まぁ俺も北九州に住んで10年、水巻町の頃末が柄の悪いことくらいは知っていた。ちらっと名倉の方に視線を向けるとさすがに青くなっている。さてどうするかいなと思案する間もなく、頃末の奴、溜飲が下がったかのように毅然とフェスティバに戻った。大方、同じ仕様のパジェロが三台つるんでいることに気付いてビビったかいな。宮川さん・古庄さん・廣井さんの三台、俺の停止に合わせて間を置かず後ろに列なっていた。
――何じゃこの根性無しが!吠えてみただけか!
俺は考え直すことなく変わらず煽ってやる。フェスティバの奴、ぴゅっと横道に逸れて消えて行きやがった。この3号線、遠賀川を越えると路肩が広くなる。俺は車を停めて休憩モードに入る。
「どうや、パジェロで走ると爽快やろ?」
「うん。でもちょっと怖かった」と舌を出す名倉。
「何や、頃末の奴のことかいな?」
「うん」と彼女。
「なんてことねぇぜ。ぐちゃぐちゃ言うんならあのまま公道バトルすればええだけのことや。スクラップにしたるぜフェスティバの野郎!」と息巻く俺はあくまでも強気だ。追いついてきた三台が俺の後ろに止まった。
車を降りてきた廣井さん、「まさかまた煽るとは思わんやったよ。YMRさんやることがえげつない。フェスティバ堪らんで逃げて行ったみてぇやん」
「言うに事欠いて、頃末の人間や殺すぞはないですよ」と俺。
廣井さん、「名倉さん怖かったやろ?」
「うん。でもこのパジェロに乗ってたら何か気が大きくなるね」
ちょっとやり過ぎたかなとも思ってたが、「そやろそやろ」と俺は満更でもない。




