表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺とやっくり  作者: クスクリ
14/26

13話 ドリフトとカウンター

 俺はラリーは嫌いだ。一台一台タイムを測って競うなどという小賢しい競技は俺の性に合わない。それに弱いモノコックボディの乗用車で何でわざわざ壊れるような走り方をするのか分からない。どうせやるならぶつかり合いの競技だ。

 自称ラリー屋は言う、「やからアンダーガードやスキットプレート、スポット溶接増しして車体強化や足回り強化するんやないか」

 俺には大枚叩いてそこまでする意味が分からない。


 MBはラリーの評判で社名を上げて来た会社だから、ギャラン・ランサー・ミラージュなどラリーをやることを前提に車を開発してきた。前の項でも述べたが、ランサーターボに国産車で初のインタークーラーが装着されてパワーアップしたときなど、自称ラリー屋の客が結構店頭にやってきた。

 社員にも自称ラリー屋が数人居た。MBに勤めているのにAE86に乗ってラリーに出ていた小迫や二代目ギャランΣターボGTに乗る鍛冶など。

 俺は入社して直ぐ、40代の、西日本スズキからの転職組、印西がマネージャーをやる二階の訪問販売三課に配属された。俺の入社時、店頭販売はまだ重要視されてなく、訪販のセールスマンが適当に店頭客を拾って販売していた。その筆頭が印西だ。だが、そろそろ店頭販売に力を入れるべきだとの指摘で、専属の課として販売三課が一階のショールームに下りて、店頭販売三課となった。


 この頃、整備や部品の者が数人、営業に回されて、配属されるまでの営業研修の名目で仮の所属として店頭販売三課に配転された。自称ラリー屋の鍛冶も然り。奴は俺の四つ下だが、入社二年目だから全くの新人の俺より会社慣れしている。その鍛冶がインタークーラー仕様ではなくただのターボランサーに乗る俺に余裕たっぷりに言う。

「木村さんもランサーに乗っちゃるならラリーには興味あるんやないですか。俺の車でダート走りに行きましょうよ」

「ダートって何処にあるん?」

「平尾台に千仏鍾乳洞ってあるでしょ。そこに続く道がダートなんですよ」

 けっ!何で俺が興味ねぇラリーごっこに付き合わなならんのかとは思ったが、車を滑らせて走るダート走行にちょっとは興味があったし、三流高校卒の低脳でも一応俺より先輩なのは確かだから、この会社で長くやって行く上でも付き合ってやった方が得かなと思うに至る。

 自称ラリー屋はどうして自分の車に他人を乗せたがるのか?GNW建設の後田も大工も。そんなに自分の腕をひけらかしたいのか、ビビらせたいのか。大した腕でもないのに。だから俺はラリー屋が嫌いだ。まぁ、そういう俺もパジェロでの悪路走行に嵌まって何人か助手席に乗せてしまった。


 確か平尾台に登ったのはこのときが初めてだったと思う。鍛冶は、車一台分の舗装路から千仏鍾乳洞への下りのダートに入った途端、小刻みに忙しなくステアリングを切り始めた。そして、タイトなコーナーではサイドブレーキを引いて後輪をロックさせて車を回転させる。俺にしたら、初めて見るドリフト走行必須のテクニックだった。ちょっと感動したかも。目から鱗の体験だった。

 MBディーラーに入社して車両販売に携わるからには、自社の扱い商品を購入するのは義務だ。だから、どうせ買うなら名の売れた車をとの考えで手に入れたランサーターボだったが、ラリーと言う称号が付くからにはある程度ドリフトもできねばと思い直した。


 ランサーターボインタークーラーを見に一見の客が来店する。その中に森本兄弟も居た。兄貴は西港にあるMBフォークリフトを扱う会社に勤めていて、家は弁天町の粗末なトタン葺きの家だった。店頭販売担当だから、ランサーインタークーラーターボを買って貰おうと何回か訪ねるうちに親しくなった。

 結局新車を売り込むことはできなかったが、「木村さん俺ジャパンターボ手に入れたんよ。今から店に行くわ」

「そりゃいいですね。よかったら運転させて下さい」

「ああいいよ。6気筒ターボんパワー確かめてみて」

 スカイラインジャパン2000GTターボ2ドアハードトップ、スポンサーの日産が西部警察の黒岩軍団の車両として提供し、抜群の人気があった車だ。このスカイラインジャパン、初めて所有している身近な奴を見たのは、大学時代の鳥巣の鉄道宿舎でだった。そいつの名前は辻晃、猪町の御堂住宅に住んでいた頃の幼馴染で、引っ越し先の松浦市今福から鳥巣の木村家を訪ねて来た。


 乗った感じ、1800CC4気筒ターボのランサーとどれ程のパワーの差があるのか興味津々だ。当時6気筒エンジンを持っていたのは日産とトヨタだけだ。それも直6、国産車にはまだV6エンジンは無い。アメ車は伝統のV8エンジンが主流だった。

 ――これがL型6気筒か!踏んでから加速に移るまでの時間差が豪く大きい。何!直6ターボって大したことないやないか。こいならランサーターボの方がよっぽと速いわ。

「木村さんどげん?」

「さすがV6ターボですね。ランサーたぁ比べもんになりませんよ」と俺は心にもないお世辞を言わざるをえない。森本兄貴は気を良くする。

「森本さん、ドリフト練習するんに何処かいいとこ知りません?」

「なら大手町の健和会の駐車場やったら安心して練習できるよ。車の停まっとる間ば道にして抜ければスリル結構あるけんね」

「石とか跳んで車に当たりません?」

「兎に角広いけ大丈夫や。俺はそこで結構練習したよ」

 最初だけ森本兄貴に連れて行って貰う。森本兄貴の言うように広大な駐車場だった。人気がないから人の目を気にすることもない。正に絶好のドリフト練習場所だった。それからは暇を見つけては出掛けていった。


 ランサーを買ったとき、どうしても装備したかったのがLSD、メーカーオプションだったら3万円で済んだのに、在庫処理させられたおかげで、清水(小倉北区)の江口部品でリヤデフに組み込み込んで貰い、10万も支払う羽目になってしまった。田尻のせいだ。これだからジジイは救いようがない。社会のガンだ。ダート走行にLSDは必需品だ。そんなことも分からない上司が堂々と居座っているから若い車の好きな奴が愛想尽かして辞めてしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ