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俺とやっくり  作者: クスクリ
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12話 二つのショップ

 当時の四駆好きはこれ見よがしのステッカーを車べたべた貼り捲った。四駆ショップも好んでデカいステッカーを製作し、客に配り捲って店の宣伝に利用した。因みに俺はラリーアートのステッカーをパジェロと営業用の軽にも貼っていたが。

 小野のオヤジは「AIBAWORKS」と「4×4PRO」、ファミリーのオヤジは「チャレンジ4×4」と言った具合だ。

 北九州を代表する二つの四駆ショップは互いに相手を意識し牽制し敵視していた。八幡西区の則松のファミリー自動車と遠賀郡遠賀町の4×4小野、距離的に近いせいもあったが。


 四駆ショップがどうして北九州の中心部には無く、縁に偏っていたのか、それは砂浜の存在だろう。遠賀郡岡垣町には志賀島には及ばないものの全長12キロにも及ぶ広大な三里松原海岸がある。残念ながら、10年にも及ぶ四駆ブームで荒らし捲ったため、現在は四駆止めのガードレールが張り巡らされ侵入できない。無理したら入れないことはないが、ブームが去ったあとの世間の自然破壊に対する目は厳しい。

 この浜は砂が浜風で吹き上げられて起伏に富んだ地形だ。志賀島には及ばないが、高低さ2・3メートルの小規模の砂丘が多数点在する。砂が締まって真っ平らな砂浜なら四輪駆動の乗用車でも入れるが、ここは入ったら最後抜け出せない。だから、オフロード四駆乗りが好んだ。

 ファミリーのオヤジは射爆場、小野のオヤジはよしきの浜と呼んで、ショップの性能実験場と化していた。二つのショップは四駆に対する考え方に違いがあって、ファミリーのオヤジは上り下りを好み、小野のオヤジは荒れ地でのスピードを好んだ。自然、集まる客も二手に分かれ、両方のショップに行き来していたのは俺だけだ。

 三里松原海岸の入り口は両端にある。北九州から行ったら遠い方の汐入川に近い方が正式の出入り口だ。近い方にも浜まで林道が伸びてはいるが、トラックが出入りする産業用の砂とり場だ。入るには、トラックを避けて、2メートル程の砂の段差を乗り越えなければならない。

 ファミリーの連中は専ら汐入川に近い方の砂丘、小野のオヤジは汐入川から離れた奥のウォッシュボードを専用の遊び場にした。関門4×4バギークラブの佐藤さんの主宰する通称「浜の耐久レース」も奥のウォッシュボードをレース場にした。


 セールスマンの俺としては小野のオヤジにもファミリーのオヤジにも良い顔をしたい。二人のショップオーナーも相手の情報を知るスパイとして俺を利用しているかのようだった。互いを罵る悪口も辛辣だ。

 小野のオヤジは、「足回りの何たるかも知らんでよぉ、お山の大将になっかのごと店の客集めて丸太越えに精出しよるわ。ご苦労なこった」

 ファミリーのオヤジは、「何様か知らんが足回り足回りって偉そうに講釈垂れやがって」てな具合だ。

 俺は足が悪いということもあるが、世間一般の低学歴のセールスマンと同じ営業活動はしたくなかった。頭を使って車を売りたかった。趣味の四駆から発生する実益としてのサプライズ販売を期待した。双方に出入りして店の客を紹介して貰って売る方が販売方法としては楽だったから。

 暇さえあればわざわざ北九州の果てまで出掛けてこの二つのショップで時間を潰した。結果、ファミリー自動車では三洋証券の客にスポーツターボを販売し、4×4小野では豊前の酒屋の息子にガソリンスポーツターボが絶版になった後のディーゼルスポーツターボを売った。あれだけ出入りして販売できたのはこの二台だけだった。結構嫌な思いもしたのに割りに合わない。


 この二人にも共通点はあった。店にはレジも置いてないどんぶり勘定だと言うことだ。取付工賃も含んだ定価は有って無いようなもの。小野のオヤジは金を支払うとそのまま無造作にセカンドバックの中に入れる。今の世の中、見積書も請求書も領収書も出さない店から客は物なんて買わない。俺も足回りをやって貰ったとき、オヤジの言い値で払った。内訳なんぞ聞いて気分を害されるのは怖かったから。

 車はたった一台しか販売して貰ってないが、売り上げには相当協力してやったと自負している。ドレスアップしたいしたい客はほとんど小野のオヤジに紹介してやった。俺は勿論のこと、寺島、古庄さん、矢野さん、ファミリー自動車の客の三洋証券社員と、結構な金額の部品を購入してくれた。

 四駆ブームが到来していたとは言うものの、やっぱり四駆の中古車にも相場というものはあっただろう。ファミリーのオヤジは相場など完全無視だ。店の四駆の中古車には値札が付いてない。客が聞いてきて初めて教える。

 ファミリーのオヤジはさも当然の如くあっけらかんと言う、「値段なんか客が納得すれば100万でも200万でも何ぼでも構わん。そいに買ってもろうた客はちゃんと俺が遊んでやりよるけん文句言う奴など居らんわ」と。

 昭和の末、ブームで引き合いはあるのに玉不足感が非常に強かった四駆の中古車市場だからできた殿様商売だ。


 実は貫山林道でのスタックの折、救援に来てくれた松田さんのスポーツターボもファミリーのオヤジの世話になった。松田さんに最初に売ったのは昭和61年、パジェロロング・ミットルーフワゴンのGLだった。そして1年後、何をしていたのかは聞かなかったが、紫川上流に路肩から車のフロント部分を落下させてしまった。

 早朝連絡を受けた俺は崎田重機の社長に頼んで引き揚げては貰ったが、完全な事故車だ、下取りしようにも真面な値段が付く訳ない。ファミリー自動車を通して山本さんにスポーツターボを売ったが如く、社長に頼み込んでパジェロを下取りして貰って、目出度く俺のお客としては3台目のスポーツターボを北九州に走らせることが出来た。


 店頭の一番目立つ出入り口の展示場に飾っている赤いCJ7ネバダは売り物兼社長の私用車だ。客と遊びに行くときはほとんどCJ7を出していた。俺が紹介した志賀島のときも貫山のときも。社長はCJ7の4200CC直6パワーに物を言わせて豪快に乗り熟す。三里松原海岸の砂丘の攻略に余りにも荒っぽい運転をしたため、何度もフロントホーシングの中のドライブシャフトを折って修理している。

 オヤジ曰く、「やっぱり三菱んジープが一番タフやで。こんくらいで簡単に折れたりせんけな」

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