二人ハロウィン
「ねぇ!今日は何の日でしょーか?」
「……」
突然、教室の後ろの席でそんな女の子の声が聞こえた。今日は10月31日だが、話しかけられた別の女の子は飲み物を手にしながら、頭にハテナマークを浮かべている。
「今日は何の日でしょーか!?」
「二回言われてもわからないから…。今日って何日だっけ?」
「今日は10月31日です!何の日でしょーか?」
「……わからないから、答えを聞いてもいい?」
「えへへー、答えはーーーー……CMの後!」
元気でお転婆な女の子とそれを聞いてあげている女の子。放課後の教室ではいつもの風景なので誰も何も言わずに二人だけの空間が出来ている。
「麗華の問題、わからないから答えを聞いてもいい?」
「もうしょうがないなぁ!未来ちゃんは!答えはー、ハロウィンでした!」
元気な子の名前は麗華、クールな子の名前は未来というらしい。そんな二人は毎日元気に会話をしているが今日はまた一段と麗華が元気だ。
「ハロウィン…?ってどんなことするの?」
「どんなこと…?……未来ちゃん、ハロウィンってどんなことするんだろう…?」
「G○○gleによると、もともとは秋の収穫祭なんだって、それで仮装をして悪霊を追い払うものらしいよ。近年では子供が大人にtrick or treatと言ってお菓子を貰うのが主流なんだって」
「へぇー、そうなのかー」
いつも麗華は思い付きで行動することが多いために、未来はいつでも調べられるようにポケットにスマホを入れている。今回も案の定、麗華は何も考えていないために調べることとなった。しかし、これでノッてあげる未来も大概だが。
「じゃあさ!仮装しようよ!未来ちゃん!」
「え?仮装なんかあるの?」
おそらくこの文章を読んでいる誰しもが思っているはず。ハロウィンを知らなかった麗華がそんな都合よく仮装なんて持っているわけが……。
「未来はこの衣装ね!私はこれにするから!じゃあ、お着替え開始!」
持ってた。
○
「終わったー?じゃあ、見せあいっこしよ!せーのっ!」
そういって教室の端と端で着替えていた二人は同時に真ん中へ向かい合う。
麗華は悪魔の仮装だ。黒のワンピースに可愛らしい赤い角に赤い尻尾、背中には翼がついている。まさしく、ドン・キホ○テで売ってそうな仮装である。しかし、その麗華の黒髪ツインテールとマッチングしていて、とっても可愛らしく見える。
対して、未来の様子が少しおかしい。何か恥ずかしがっているような。
「未来ちゃん!隠してないで見して!ほら!可愛いんだからさ!」
そういって麗華は未来が持っていた制服を奪い取り、その仮装を露わにする。
「ちょ、なんでこの仮装にしたの!!恥ずかしいじゃない!」
未来が着ていたのはナースの仮装だ。しかも、ミニスカナース。頭にはちょこんと帽子を乗っけて、ピンク色のナースに身を包まれるも、太腿から下は生脚が伸びている。ハッキリ言おう。素晴らしい。麗華よくやった。
「やっぱり未来ちゃんにはこれが一番似合うと思って買ったけど間違いなかったね!私、天才!」
「麗華のセンスに任せたのが間違いだったのね!」
顔を真っ赤に染めた未来はスカートの裾をなんとか下げようと摘んでいるものの、これ以上下げると臍が見えてしまう。さぁ、どっちを取る!
「うぅ、こんな短いスカート履いて歩けないよ…」
未来は少し肌寒そうに膝を抱えて座り込む。そうするとお尻の部分が強調され、破けそうになっている。
「じゃあ、次はお菓子を貰いに職員室にいこう!」
「この鬼麗華!!」
そうやって悪態をつきながらも仮装やハロウィンに付き合ってあげる未来も大概である。
「せんせー!!trick or treat!!!」
「……ト、トリート……」
「こんな時間に学校に残ってハロウィンするのは、お前らだけ………」
職員室にいた先生は椅子から立ち上がり、入り口にいる二人の所へ向かう。が、その途中で二人の格好が違うことに気が付き、言葉を止めた。
上から下、下から上へと視線を流し、そして細部にまで目を向ける。すぐに安物の仮装だと気がつくも、着ている二人が元々可愛いので何を着ていても可愛いことに気が付き、現実に戻ってくる先生。眼福、眼福。
「先生、そんなにねっとり見ないでください…」
「お前がそんな格好をするなんてな、未来」
先生もミニスカナース服を着ている未来のその姿に目を奪われていた。それもそのはず、JKの生脚。それだけでご飯三杯はいける。
「もうー、せんせいったらー!未来ちゃんと、私が可愛いのはわかるけど手を出さないでね!」
「あぁ、お前も可愛いぞ」
「ありがとーーー!」
「それで、trick or treatだったか?ちょっと待ってろ」
そう言ってさっきまで座っていた机に戻った先生は、コンビニで売っているチョコレート菓子を持ってきた。
「ほらよ。一個ずつやるよ。本当は娘のために買ったんだがこんなにも食べれなさそうだからな。お前ら二人だけがここに来たから特別にチョコをやろう」
「わーい!先生、太っ腹ー!!」
「誰がデブだ」
先生は予め用意してあったチョコを二人にあげると、まだ仕事が残っているからと机に戻っていった。大人になったらハロウィンは楽しめなくなる。だから、今のうちに楽しんでおけよ。と、先生は最後にそう言った。
「大人も大変なんだねー、子供にお菓子あげなきゃならないのに楽しめないなんて」
「だから、麗華は今楽しもうと思ったんでしょ?」
教室に戻ってくる頃には日が沈みかけていて、空は朱く染まっていた。あっという間に今日のハロウィンが終わってしまおうとしていた。
「じゃあ、着替えて帰ろっか!」
誰もいない教室で麗華の声だけが響く。ハロウィンという10月31日だけのお祭りはもうオシマイ。明日からは11月。残り二ヶ月の今年を締めくくるためにお坊さんが走る季節がやってくる。
着替えて終わる頃には日が沈み、夜空が広がっていた。
「ねぇ、未来ちゃん。月が綺麗だね。」
「……!?」
その言葉を意味を麗華は当然知らない。知らないからその言葉は意味をなさない。けれど、その言葉への返し方は未来の中で決まっていた。
「そうだね、死んでもいいかな…」
ハロウィンの日の月はとても綺麗な半月だった。弓の形をしたその月は、まるで天使が持っている弓で、そこから恋の矢が飛ばされてしまいそうなくらい。
「死んだらダメだよー!来年もこうしてハロウィンするんだから!!」
「…そうだね。来年もこうして二人だけでハロウィンしようね」
そう言って、二人だけで約束を交わした。未来は、来年もハロウィンが出来ることを半月に祈っていた。
「あ!でも、その前にクリスマスと、お正月と、節分と、お雛様と、あとあとーー!!」
「はいはい、全部やろうね」
ハロウィンということで、学校に通う二人のハロウィンを妄想して書いてみました。皆さんはハロウィンしてますか?