03
じゃあ自己紹介でも、と突然切り出したのが、へんたい銀髪の方。脱出口を塞がれて、自主的に屋上の真ん中で正座をするあたしの肩においてにこにこと陽気に笑っている。
「俺は、神代ユーゼン。獅子座のO型、趣味は体を鍛えることと、んー、オージに抱きつくことかな」
「ばかなこというな」
それー、と伸ばした手をいとも簡単にはたき落とされる、銀髪こと神代サン。何となく二人の関係も見えてきたような、そうでないような…。
「で、こっちのが、帝王子朗。通称オージだ。オージ、趣味は?」
「ユーゼンいじめ」
「え、もしやそれって、愛情表現の…」
「ばかなこというな」
そんでもいちど、ぺちり、と。…神代サンって懲りないなあ。わざと? わざとなの? あえて狙っていってるの? あんまり考えるのも怖いからやめておこう。
それにしても二人とも凄い名前。ユーゼン、なんて日本人ですらないじゃん。髪色や目の色は確かに外人風ではあるけれど…。帝サンはまた人の上に立つために生まれてきたような名前だなあ。うわ、この二人のあとにあたしの名前披露したくないな…。
「で、あんたが、千草二子ね」
「うん、そうなの、あまり言いたくなくて…」
――おい?
「って、ちょっと! なんであたしの名前!」
「ん」
帝サンが指さしたのは、神代サンの手の内。…って、それあたしの生徒手帳!
「いつの間に!」
「さっき、抱きしめてるとき」
「何スリみたいなことやってんの! か、返してっ」
伸ばした手はひょいと避けられて、あたしはべしゃりと地面にダイブすることになった。痛い上に屈辱。
「にこ、って変な名前だよなー」
「あああ『二個』のイントネーションで呼ばないで!」
「って言われても、他にどんなイントネーションが? に(↓)こ(↑)? それはそれでオカシイ」
「名字で呼んでください、名字で!」
だから嫌なのに…。親も一体なんの願いを込めてこんな名前にしたんだろう。せめて違う漢字ならまだしも『二』って。どうあがいても一番になれない絶望感を感じる。
「チグサ、か」
「へえ、千の草ねえ」
…そうね、神や帝の下じゃあ草なんて簡単に吹き飛ばされてしまうね…。名前だけで格の違いを見せつけられた。




