02
「はーなーしーてー!」
ただ今、あたしは屋上にいます。結局、無理矢理引きずられるように屋上へと連れられ、逃げないようにと拘束されている。ううう…どうしてこんなことに。階段なくなっちゃったし…。
「離したら逃げるだろ?」
「そんな問題じゃないってば!」
拘束…それは紐やら縄やらを想像してはいけない。あたしを拘束するもの…それはどこで間違ったか、人間の両手。
「暴れんなって。俺だってお前みたいなやつにこうしてんの不本意なんだぜ? だったらまだオージの方が美人だし、いい匂いがするからぜひそっちに…」
「何の話をしてるんですか汚らわしい」
そう、汚らわしい! セクハラまがいな発言も含めて、今のあたしは拘束されていると言っても、後ろから抱きしめられているというなんとも変態的なことをされている。手近な拘束具といえばこれしかなかったらしいが、考えてもみてよ。あたしってば、うら若き女の子なのに。
「なに、照れてんの?」
「ねえよ」
おっと、つい地が。
照れてるとか照れてないとかそれ以前に、慣れてない。彼氏いない歴イコールで年齢のあたしにとってはピンとこない。ただ、半半裸という銀髪の状態を思い出せば…なんか嫌だ。
「仕方ない、話が進まないから、ユーゼン」
「えー。逃げたら困るだろ?」
「わっ、ちょっ!」
黒髪さんと並ぶとそう気付かないけど、この人だって結構なイケメンだ。やっぱり黒髪さんとは真逆な男らしい格好良さ。そんな顔を近づけられて、いくら半半裸とは言えど冷静でいられる女の子はいない。
ひーっ、やっぱり離れてほしい!
「いいよ、閉めておくから」
「あ、そっか」
あれ、あっさり離れてくれた。今の内に、とあたしは二人から距離を取っておく。
すると、黒髪さんがあたしとは反対側、屋上の扉に向かって右手をかざした。軽く親指と中指をこすりあわせている。
…何してるんだろう?
「いつ見てもたのしーよな!」
銀髪も余計なちゃちゃを入れているのか、黒髪さんから不機嫌な視線を頂戴している。
と、思えば、黒髪さんの指が弾かれた。聞き覚えのあるぱちん、という音が響いて、次いでまた聞き覚えのある金属音。…扉の向こうで立入禁止の鎖が巻かれたようだ。…またひとりでに。
「な…」
驚いて、絶句する。隣では銀髪が両手を叩きながらぎゃあぎゃあわめき散らしているが、正直それは正気の沙汰じゃないっす。
「なんなのそれ、さっきから!」
あたしがようやく絞り出した声は、自分でも分かるくらい震えていた。だって、こんなの、見たことない。だって、だってまるで、こんなの、…魔法みたいじゃん!
「それを教えてやるから、逃げるなよ」
「あああ、ちょっと待って、本当にわかんないよー」
頭を抱える。自称魔法使いが頭をよぎったけど、あんなの魔法使いじゃない! いや、それは知ってたことだけど、違う違う、そうじゃない。この世には魔法使いなんて、そんなの、存在してなんか。
「うわあ、おもしろいくらい混乱してるな」
「そんなもんだろ、コチラ側ではあり得ないことだ」
「まあなー。こうやって他人に見せるの初めてだよな」
「見せてるんじゃない、あとから口封じすんだから」
くちふうじ…!
混乱しているあたしの耳にその物騒な単語だけは滑り込み、あたしは一瞬で血の気が引いた。まさか、ころ、殺されて…!
今朝見た夢がフラッシュバックする。やっぱりあれは陰謀だったんだ。この人たちにかけられた悪い魔法で。指を突きつけて「この死神!」と吐き捨ててやりたかったけど、にっこりと綺麗な笑みを投げかけられちゃあ、しぶしぶカムバックするしかない…。
「分かるよな」
うう…。深窓の美少女がそんな怖い脅し文句を言ってはいけません。それはつまり「他人にばらすと承知しねえからな、ええ?」ということデスカ…。右手をあたしの顔の正面に持ってこられて、分からないなんて返答は口が裂けても言えない。どうやらその指ぱっちんは怪奇現象のトリガーのようだから、鳴らさせてはいけないのだ。
あたしは諦めて頷いた。




