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01



「ボクは嫌いだ」

「俺は好きだ」

「嫌いだ」

「好きだ」

「きらいだ」

「すきだ」



 なんだこれ。


 どうしても不毛としか思えないやりとりをしている中、突入していいものか…少し考えて、否と答えが出た。


 今日も屋上は立入禁止の鎖で繋がれている。どちらにしろ、入れはしないのだ。屋上へと続く扉の向こうから聞こえる声の主二人が一体どのようにして向こうへと行ったのかは分からないが、あたしにはここからこのガチガチに巻かれた鎖を突破して中に入ることはできそうもない。



「…ユーゼンの側にいると疲れる」

「へへ、我慢しろって。俺らの干渉なしに、オージもコチラ側にいることは出来ねーんだから」

「だいたいソチラ側は管理がなってないんだよ。だから、コチラとバランスがとれない」

「だから、そこは悪かったって言ってるだろ?」

「ああもう、寄りかかるな重いっ」



 アチラとかコチラとか、一体何の話をしているんだろう? 会話の内容も内容だけど、二人の関係も微妙そうだなあ…。乱暴なボーイソプラノと、快活なテノール…仲良く振る舞おうとしているのはテノールだけだ。


 そのとき、ガチャリ、と音がした。



「え…?」



 磨りガラスごしに中の様子ばかり気にしていたあたしは、その音がどこから鳴ったのか、一瞬分からなかった。けれど、分からないと、分かる前にまたそれは鳴り出した。



「えええっ!」



 それ――、決して人間の力では破れそうもない鎖のカタマリが金属音をまき散らしながら、するするとスムーズにほどけだしたのだ。…ひとりでに。



「ええっ、うそっ」



 あたしは両手を上げて、ホールドアップ状態。自分は何もしてないという確認をする…やっぱり、勝手にほどけてる!

 ぐるぐるに巻き付けられていたはずの鎖は地面にきれいにとぐろを巻いていく、そうして全てするりと地面に落ちたかと思うと。



「とにかく、早く――」



 扉が開いた。





 戦う

 ごまかす

 叫ぶ

 逃げる


 不測の事態に、あたしの脳は混乱を極め、ぴぴーん! と瞬時に戦闘コマンドを打ち出した。

 どれっ、どれだ! カーソルは上から下へと一巡し、叫ぶで一度止まったが、あたしがハラハラするうちにまたカーソルはルーレットのごとく回る。


 あたしの頭がそんなことになってるとは知る由もない、視界に現れた少年二人は驚いた顔で立ち止まっている。

 手前にいる少年――肩まで伸びて切り揃えられた黒髪が特徴の彼の背は、あたしと同じか、少し高いくらい。顔立ちは、女の子と見間違うばかりの女顔で、印象としては儚げな美少女ってところだ。男だと判断できる制服のズボンの存在が惜しいと言わざるを得ない。


 それとは真逆に、黒髪の少年の後ろに控える少年は、眩しいほど光に輝く銀髪だった。それも野性的で胸当たりまでざんばらに伸びきっているため、燃えるような赤い瞳と相まって野蛮な印象を受ける。あたしが見上げなくてはならないほどの長身で、何が問題かって、その半裸だ。上はボタンを止めてないシャツ一枚ってどういうことだ。おかげでアツイ胸板がちらちらと見える。…見ているのではなく、見える。


 二人とも同じ学校の制服を着ているけれど、こんな目立つ人たちが同じ学校にいただろうか…?


 まじまじと観察しているうちに、向こう二人組は機能を再始動させたらしい。気付けば、どちらともなく手があたしに向かって伸びていた。

 ぴこん! 慌てて戦闘コマンドのカーソルを止める。そうだ、こうはしていられない。



「っ……!」



 逃げるが勝ちだ!



「オージ!」

「分かってる」



 正直、勝ちも負けも得る前に、戦闘といえる状況にすら陥っていないことに気付くのは今更だ。けれど、どうしても逃げなければいけないと本能が告げていた。何か、どうしても、不吉が降りかかるような…。魔法使いが言う「吉」とは「不吉」のことだったんじゃないだろうな。だったらあんにゃろただじゃおかねえ!


 めらっと燃やした闘志のおかげか、あたしの逃走スピードは極みへと達し、なんとか二人から逃げ切れ……。



「……ん?」



 屋上から逃走を試みて、今ようやく気付く。…二人は追いかけてきてない? あたしがあまりにも早かったのだろうか。だが、後ろから人が来る気配がない。スパイラル状の階段を下りてきたのだから、足音が頭上から響いてきてもいいはずなのに、それもない。

 ここでまた、ぞっと不吉な予感。



「あきらめた…?」



 あたしが足を止めたそのとき。

 ぱちん、と指を鳴らすときの小気味よい音があたしの耳に直に響いた。



「あっ、あわあっ、わあ!」



 同時に、あろうことか足下の階段が崩れ出す。慌てて元来た道を戻るが、その階段もがらがらと崩れ落ちていくため追い立てられるように上へ上へと登るしかない。こんなことって起こるのだろうか! 学校の校舎の中だというのに、崩れ落ちるのは階段だけで、その下に見えるのは漆黒の暗闇だけ。けれど考えている余裕なんてない。必死に階段を駆け上がる。



「つーかまえた!」



 気付けば両腕を銀髪の少年に拘束されていた。





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