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09



 確保したジャメロンディアスの身柄は、オージ先輩のもとで預かられることになるらしい。オージ先輩が携帯電話でどこかに連絡すると数分後には黒服の男の人二人が到着し、ひもでぐるぐるに縛ったジャメロンディアスをどこかに連れて行ってしまった。

 オージ先輩って一体何者? そんなに簡単に人を使えるってどこかのご令嬢とかなのかもしれない。あ、性別間違えた。



「どうしよっか?」



 庭園は、さほど崩れてはいなかった。ジャメロンディアスが魔法で操ったのだと言っても、花には花の意志があったらしい。一段落ついて、各自おのおの持ち場へと戻っていったのだ。

 最後に千切れてしまった可哀想なバラを拾って、ユーゼン先輩が切り出した。



「どうするって?」

「授業だよ、今から戻るかって話」



 それを聞いて、あたしは俯いて拳を握った。ブヒくんがあたしの足にすり寄っている。いつの間にか気に入られてしまったらしい。聞けばオージ先輩のペットらしく、今回あたしが危機に陥ったときも真っ先に主人へと知らせてくれたためにあたしはギリギリ殺されずに済んだのである。あたしにとっても命の恩ブタだけど…ブタって…。オージ先輩がブタって…。



「チーグサー?」



 あたしが黙りこくっているのを心配したのだろう、ユーゼン先輩があたしの顔をのぞき込んだ。30センチほどは身長差がありそうだもんだから、かなり腰をかがめている。



「あっ、イエ! 授業、ですよね…」



 本当だったら、戻らなきゃいけないのだろうけど。またすっぽかしたら壱子からおバカにされるのだろうけど。



「チグサ、いいんだよ」



 オージ先輩が庭園の出口へ向かいながら、そう言った。



「はい…あたし、聞きたいことがあるんですっ」



 言うやいなや、ユーゼン先輩から思いっきり背中を叩かれて全身が振動した。



 ☆



「ありえない」



 真っ先に出た言葉がソレだった。



「って言うんなら、お前の目と脳が無能なんだろーな!」



 うるせーんですよ、ユーゼン先輩。

 

 アハハと無遠慮に笑う先輩に軽蔑を込めた視線を送り、やや満足すると、もう一度「ありえない」物へと目を移してみる。とは言っても、下から上まで見ていては首が折れてしまうかもしれない。

 そこにあるのは、超高層マンションだった。



「…なんですか、ココ」



 授業をぶっちぎって、どこにくるかと思ったら。

 あたしとしては、山ほどの聞きたいことをとりあえず誰にも邪魔されない場所で聞くことが出来ればどこでも良く、それはつまり学校でも良かったのだが、とりあえずついてこいと言われて、おとなしくついてきたのがここだったというわけで。

 わりと賑やかな住宅街……って、いうかぶっちゃけ高級住宅地じゃないっすか。他のマンションから頭どころか全身くらい飛び抜けた、目の前のでかい建物…明らかにまわりに比べて異彩を放つマンション…まさか、コレって。



「んなもんもわかんねーのかよ。ここは、家。俺たちの家だっつーんだ」



 なぜか、崩れ去った。何かが、あたしの中で崩れ去った。



「ゆ、ユーゼン先輩の…?」



 まさか、そんなことってあるものか。どれだけ目や脳が無能でも構わない。いくらでも言うよ、あたしは言っちゃいますよ、ありえないって!



「まー、そうはそうだけど、今はオージも一緒だ!」



 一体どうしたらこんなところに住んじゃえるんだろう…やっぱりユーゼン先輩も金持ち息子説浮上?

 ああもう、無邪気に笑ってるんじゃないですよってんだ…。





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