00
今朝見た夢はさいあくだった。
あたしが家族と住む一軒家は火事で燃え尽きて、命からがら逃げ出したあたしは通り魔にナイフで一突きされたし、どうにか急所をはずれたかと思えばよろめいたはずみで道路に飛び出し、大型なダンプカーで轢かれてはい、ジエンド。
なんていう絶望的な夢だ。夢はよく自身の経験や記憶に基づいて構築されるものだと聞くけれど、果たして今まで身の危険を感じたことがあっただろうか、いやない。もう一度言うけど、いやない。もはや誰かの陰謀を感じる。そっとあたしを殺したがってるヤツでもいるんだろうか。
「死神よ、あなたには死神が憑いてるのよ…」
地を這うような、震えた声が絶望まっただ中のあたしの背中を撫でた。
驚いて飛び退くと、そこにいたのは学校でも噂の魔法使い。とは言えどここはそのようなファンタジーな世界などではないのでもちろん、自称ではある。黒いローブと、ビン底メガネが特徴で、放課後迷える子羊を救済して回っているらしい。
初めて声を掛けられたと少しドキドキしながら、まるで他人事のように救済の言葉を待っていると、にやりと笑った自称魔法遣いさんは恐ろしいことを口にした。
「あなたは死んだのね…」
「……えっ?」
「屋上が吉と出ているわ」
魔法使いさんは言うだけ言うと、くるりとローブを翻してあたしの目の前から去っていった。虚を突かれたあたしはそのまま黙ってその背中を見送ってしまい、今更真意を聞くことなどできなかった。
それから屋上へ向かってみたことが、本当に吉だったのかどうか、今となっては分からない。




