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23 感じるのは確かな幸せ

エピローグ






 玉座の元へ来たビアンカを別途ビアンカのために設けられた場所に行かせようとはせず、決して離そうとはしなかったデューベルハイト。舞踏会もお開きの時刻もとうに過ぎ、部屋に戻ってきたビアンカは寝衣に着替えてデューベルハイトの私室のソファーに座っていた。正確にはデューベルハイトの膝の上。


 部屋には他には誰もおらず、二人だけの空間でデューベルハイトは玉座での時間も微々たるものであったかのように飽きず褪せずビアンカに視線を注ぎ続けていた。ビアンカもまた特殊な力が働いているわけではないのにその目に惹きつけられてデューベルハイトを見つめていた。


 時間でも止まったように。

 王はただただ膝に乗せたビアンカを確かめるように、目に映し腰を抱き寄せ手に触れて愛しい存在を感じていた。

 ビアンカはただただ抱き寄せられた手の力強さと手を包み込む温かさ、確かに近くにある存在を感じていた。


 おもむろにデューベルハイトがビアンカの手を撫でていた手を違う場所に滑らせる。ビアンカが握ったままだった指輪はデューベルハイトの手でビアンカの指に戻っており、揃いの金色の紋章輝く指輪がはまる指が、手がビアンカの頬に触れ手のひら全体で包む。

 わずかに顔を引き寄せられて、今日何度目とも分からない口づけが、ゆっくりと唇が触れ合い与えられる。触れるだけに留まらず、食まれなぞられ丹念に唇を味わうように這いゆっくりと、それこそ時間の流れが遅くなってしまったみたいに時間をかけて唇同士は触れあい――心地よさを残して離れる。

 ビアンカが閉じていた目を開いても離れたと思った顔はまだすぐそこにあり、白金色の長い睫毛に縁取られた赤い瞳が濃く美しい輝きを持ちビアンカを映していたから、恥ずかしくなって目を伏せ気味にする。

 何度だって慣れる気なんてしなくて、毎回目を開く度にデューベルハイトがこちらを見ているから照れてしまう。


 そうすると頬にあてがわれていた大きな手が動きを見せて頬と顎の境目を感じるようになぞり動き、なぜか首から、鎖骨へ。


「残っているな」


 デューベルハイトの唇が触れ、彼が残した痕のことを言っているのだと触れられた箇所でビアンカは察する。今着ているのは舞踏会に行くために整えた身支度の際に鎖骨まで覆っていたドレスではなく寝衣で、チョーカーもない。お風呂に入った後で隠すために何か塗ってもいないので消えていないそれは露。

 でもビアンカが見下ろそうと思っても見えないギリギリの位置にあるので、鏡で目にしないことにはビアンカには見えないそれにデューベルハイトの視線が移ったかと思うと、彼の顔が近づく。


「――!」


 濡れた熱い感触と共に小さな刺激が鎖骨で生まれて驚いてとっさに埋められた頭を見下ろすと、起き上がった顔と顔を合わせることになってその瞳に射ぬかれ、元々動いてなんていなかったけれど動きを止めている内に手首がとられた。

 視界に掴まれた自らの手首が入ってきて、デューベルハイトの口許に近づく様を自分の腕ながら傍観していると――まさに目の前で手首に口づけられたではないか。吸い付かれる感覚と視界情報が一致しそうで一致しないのは、きっと熱でも宿っていそうな熱い瞳がビアンカを射ぬいたままだから。

 ――デューベルハイトはビアンカを見つめたままその手首に赤い証を刻みつけた。


「デュー、さま」


 唇が離れて表れたあの赤い痕に這う真っ赤な舌の感覚と光景に頭がくらくらする。

 吐息混じりの頼りない声しか出なかった。


「私は一生、お前にこの痕を刻み続ける」


 彼は結婚誓約書を差し出してきたときに耳元で囁き出したものと同じ、どこか艶の入った声で言う。


「お前が私のものだという証だ、ビアンカ」


 たちまちビアンカの思考を奪う柔らかな口づけが唇に落とされた。


「お前しかいない」


 その言葉に、心が温かく熱くなったことはずっとずっと忘れないだろう。




 ***










 深く眠っていたらしく、寝起きの目の前を徐々に徐々にゆっくりと認識していくと一番に目に入るのは穏やかな寝顔。起きているときとは全く異なる雰囲気で眠り寝顔を晒しているのはわずかに乱れた白金色の髪も美しいデューベルハイト。


 目が開いたばかりで一旦視界を理解したビアンカではあるが、まだまだ眠気は残っているようですぐにとろとろと瞼が下がってくることを感じていた。

 瞼が落ちていき視界は狭くなり傍らで寝ている彼の顔が見えなくなってくる反面で、身体に添う温かさに意識が向いていく。

 その意識もまた、温かさによってとろとろと深く眠りに誘われていく。




 温かさに包まれ触れて、幸せに包まれるとはこういうことだろうとビアンカは思った。

 好きな人に抱き締められて包まれて寝て、目覚めると好きな人がすぐ側にいる。

 それはまるでいつか読んだ夢物語よりも幸せな生活を送っているようにビアンカには思えてならなかった。



 完全に意識が薄れきる直前、首筋に寄せられた顔の唇が触れ息づかいを確かに感じた。それがたまらなく愛おしいとの感情を心に生まれさせ、



 ――大好きです


 と、まだ面と向かっては言えない言葉を心の中で囁いてビアンカは眠りに沈んでいった。















これにて完結。

途中終わりの雰囲気を漂わせながら三章まで続きましたが、今度こそ完結です。最後まで付き合ってくださった皆様ありがとうございました。

簡単な登場人物紹介などもここに入れてしまおうかと思ったのですが、活動報告に雑談とともに別途作りましたのでご興味がおありでしたら活動報告に飛んでいただければと思います。(たいしたものではありません。メモと……雑談です)↓

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/740104/blogkey/1725048/


また、今回本編は完結しましたが所謂番外のほうを二話予定しております。こちら明日明後日……といきたいところだったのですがひとまず完結設定にし、番外は来週辺りに上げさせていただきたいと思っています。




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