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18 苦しい




 一人で、天井を見上げていた。


 息をする音よりも呼吸をすることでたった一部分動く胸を感じ、それ以外はろくに動かさず動かしているといえばときおり思い出したように目を閉じて開くだけ。

 今も思い出したところで、目を閉じて開ける。


 開けた視界がぼやけて滲む。


 デューベルハイトの行為が急で怖かったからではない。現に彼は止まってくれてビアンカは一人でベッドの上にいる。

 けれどどうしてだろう、いなくなってしまった姿に姿があったときよりも心を掻き乱されるのは。

 胸がざわめき目がますます奥から熱くなってくることを感じたビアンカは、動こうとしない身体を無理矢理に起こす。

 反動でずるりとドレスがわずかに下にずれて寒さを感じたことが、冷めた身体とは正反対の温度が目に凝縮されたようなことをより強く感じさせて、乱れた着衣をろくに直さずベッドを降りた。

 降りて、その場に座り込んでしまうのではなく、部屋を出るのでもなく真っ先に目を下に向ける。俯いたのでもない。何を捉えようとしている、と頭が思う前に目の方が先に動いていた。


 指輪を探した。

 小さな物を探すには暗くてよく見えないから、考えるまでもなく膝をついてほとんど手探りで最初はぎこちなく床に手を滑らせた。つけることを忘れたこともある指輪を探すことに懸命になった。

 デューベルハイトの紋章が刻まれた指輪。

 外すなと言ったデューベルハイトが外してしまった指輪。

 デューベルハイトがビアンカが彼のものであるという証であると言った指輪。


 遠ざけてほしいと自分で言ったことを覚えているのに、時がそんなに経っていない今指輪を探し続ける。





 金色の指輪は、転がったのかベッドの側にはなくて壁に至ろうとする少し前にあった。

 指先が冷たいそれにぶつかった瞬間忙しなく動かしていた手は両方とも止まり、視線を向けた。

 それからそろそろと右手を改めて伸ばして、触れて、冷たい指輪を確認。寒さからくるのではない、小刻みに震える手で拾った。

 指先で摘まんだ輪を目に近づけ見て刻まれた紋章を指の腹で感じる。間違いなくあの指輪。


 急に苦しさに襲われた。胸が張り裂けそうに苦しくて、かといって怪我をしたのではないので抑える手だても分からず、指輪を握った手を胸に押しつける。


 森からずっとビアンカの頭の中を占めていた押し出されてくる強い考えは、もうなくなっていた。それよりも胸の痛みが勝ったのだ。

 ビアンカが言ってはいけないことを言ったことは、もう分かっていた。口からついて出たことが自分の本心ではないことが。

 でも、言ってしまったことはもう戻らない。もう遅い。

 デューベルハイトに言って、彼がいなくなってから遅れて初めて気がつくなんてなんと愚かなことだろう。それともこうならなければ分からなかったというのだろうか。それならばもっと愚かだ。


 泣く資格なんてないから、勝手に泣きそうになる目から涙が出ないように手を押しつけて唇を噛んで堪えた。







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