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10 森へ




 狩猟祭当日、ビアンカは狩りをする必要はなくドレスで良いとのことで花柄の可愛いらしいドレス……ではあったが外に行くということで人間であるビアンカには寒いことを理由にショールではなく防寒具としてベアトリスからもらったローブを活用することにした。

 あとからよくよく見ると、いたってシンプルに見えたそれには細かいところに小さな模様が刺繍されたりと細やかな一品であったのだ。


 着替え終わり外に向かう、という頃に現れたデューベルハイトは執務のときとは違う雰囲気の服装であった。

 狩りをするからだろうと考えながら、どのような服でも着こなしてしまうのだなとの感想を抱いていると、そういえばどうしてビアンカの部屋に来たのかというデューベルハイトは当たり前のようにそんなビアンカをいつものように抱き上げてどんどん廊下を歩き進み、進み、ついに外へ出た。


 出た先に知らない吸血鬼がいることを知るや、ビアンカは身につけているローブの特性を生かしフードを頭から被って顔を隠した。この様子では――自分で言うのもどうかと思うが――先が思いやられる。

 フードの影で遠い目をしていると、身体がより持ち上げられて固いものに腰かけさせられた。それも中々に不安定な場所で、支える腕がなくなり瞬時にうろたえているとこれまた何もしない内に不安定さは解消。多少の揺れと共に側に現れた存在に腕を回されたのだ。


 腕の主はデューベルハイトで、安心したのでよくよく状態を確かめるべく周りを窺うと、馬に乗せられた模様。

 デューベルハイトが馬に乗ることができないビアンカを行く先の森まで乗せて行ってくれるつもりで来てくれていたのだと遅すぎにも気がついた。

 ふと下を見ると王について来たのだろう狼が数体馬の周りにいた。狼も狩りをしに行くのだろうか。と、それはさておきビアンカが当たり前の流れで銀毛の狼を探すと図ったようなタイミングで銀毛の狼が視界に入ってきてくれた。


 ほどなくして進みはじめた馬は駆けさせられることはなくまあまあゆっくり進むので、慣れない揺れに目を瞑れば落ちることはないだろうし散歩のようであった。

 過ぎる景色は夜とはいえ目に新しいものばかりで、飽きることはなく過ぎる景色を堪能して着いたのは城から一番近いという森。

 景色を見たので早くも十分な気持ちになってきていたところで、先に降りたデューベルハイトにより馬から降ろされて地面に足がつく。


「令嬢方が多くないですか?」

「そうだねー。いつもなら舞踏会から参加する令嬢の方が多いけど、今こうなっているのは陛下の目に止まるためじゃないかな……今ならいけるかもしれないって思っているのかもしれないね」

「今だからこそ無理なんじゃないですか?」

「実際に見ていなければ分からないんだよ。ということでアリス、お姫様を頼んだよ」

「任せておいてください!」


 同じく馬で後ろを来ていたはずのフリッツとアリスのやり取りを近くに、ビアンカは狭い視界の中できょろきょろと小刻みに左右を見たところ。

 周りに多くなってきたような声や音や気配を感じつつ周囲を見てみようと思うと、その前にフードが視界の周りから消えて頭に乗っていたわずかな重みがなくなる。フードが除けられた。

 見上げた先にはデューベルハイトがビアンカを見下ろしてきており、頭を撫でられ髪にするりと指を通されて目をしっかり合わせると言われる。


「いいな、待っていろ」

「はい」


 返事と頷きを返す。


「一人でどこかに行こうとするな」

「は、はい」


 釘を刺されるのでそれにも返事すると頷かれて、デューベルハイトはフリッツを伴いビアンカから離れていった。

 そのデューベルハイトの背中を見送っていると、彼の後から狼が何頭もついて行っている様子が目に入った。

 その中に銀毛輝く姿はなし。


 試しに自らの周りを探してみると、案の定大きな狼は近くにいる。

 やはり狼という生物上、部屋よりも森が似合う銀毛の狼はくんくんと周りの空気を嗅ぎ森を見回し地面を嗅ぎ、前足で地面をかき、尻尾をぶんぶんと振っている。何だか興奮しているみたいだ。


 その様子を見ていて、ビアンカはもしかしてと考える。銀毛の狼はこの森出身であったりするのだろうか、と。

 城にいる八頭の狼たちは森に行った折に連れて帰られたと聞くから、一番近い森は一番利用頻度が高いと思われる。狼たちの何頭かがこの森の出身であってもおかしくない。

 けれどそうだとするならば、この森には彼らサイズの狼がたくさんいるのだろうかということが気になったりもする。何しろ慣れてしまっているが彼らは大きいのだ。


 周りはすっかり森、見てきたことから判断するにまだ入り口近くの地点。狩猟へは奥に行くのだろう、各々小さな集団に分かれるためか開けた場所なので、木々は少し離れた位置から取り囲むように空に向かって伸び生えている。

 最初の木々の境目はどうにか判別できるもそこまで。ビアンカの目にはそれ以上先は宵闇のみで、奥に何か潜んでいるのではとの想像が膨らんでくる。


(……絶対に一人にはならないようにしましょう……)


 今一度言われたという理由の他に心に決めた瞬間であった。一人で何かしらに遭遇すれば一溜まりもないし、そもそも迷子になりそうだ。それは絶対に避けたい。


 何はともあれ、興奮しつつもビアンカから離れようとしていない狼に声をかけてみる。呼びかけると、俊敏に反応して鼻面をこちらに向けるのでこれなら通じそうだといつもながらに思う。


「ガウちゃん、こんな場所で走り回る機会はそうそうないかもしれないので行ってきてはどうでしょう?」


 すると狼は言葉を終えると首を傾げるに似た動きをして、次に周りに広がる木々を見、またビアンカを見て、


「ガウ!」


 元気に一鳴き、走って行った。

 帰ってくるという確信があった。


 気がつけば周りは狩猟に行く団体と行かない団体に明確に分かれていた。観察するに、大きく言うと男性と女性に分かれている。ビアンカがいる側は無論女性が大部分、改めて周囲を見てみると……美女だらけである。

 森に色を与えるような華やかな――ビアンカからすると服装だけでなく纏う雰囲気そのものの――彼女たちはこっそり素早く見ただけでも全員顔の造形が整っている。


 吸血鬼とは美形しかいないのだろうか、とここまで美形揃いなのは偶然とはもう言えないと思うので、ビアンカはそっとフードを被り直す。背も全員もれなくすらりと高いことも加わり劣等感に苛まれそうである。

 それにさっきから視線を感じているようでならない、知らない吸血鬼が周りに大勢いる中にいるので自意識が敏感になっているだけということを願うが……ついさっき流すように周りを見たときに、目が合いそうになった女性が偶然とは言えないくらいいたような気もするのだ。


「お姫様、お花畑はあちらですよ!」


 予定通り、花畑に向かうためいつもと変わらず溌剌とした声で促すアリスを見上げると安堵を覚えた。

 アリスがいてくれて本当に良かった。







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