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24 壊れそうな心臓



 真っ暗な部屋のベッドに下ろされるや、早々と倒されて腕の中。

 変わらない生活、戻ってきた生活。ここであの誓約書を思うとそれが保証された気分にもなり、温かな気持ちになる。

 そうか、とふと思う。

 居場所を与えられたようで嬉しいのだ。祖国では揺らぎ続けた『居場所』がここには作られ、保証された気分。

 そうか……と腑に落ちた気持ちになると、早速眠気がやってきて、ビアンカもビアンカでこの温かさに慣れてしまっているのだろうと実感する。狼とは違う、包み込んでくれる温かさに瞼をゆっくり閉じる。



 ――しかしビアンカは以前とは異なる部分があることを忘れていたと言うには大きすぎることだが、大きな事を成し遂げたあとで安堵に包まれていた


 するりと手が動いたことを感じた。ビアンカが微睡む意識の中で不思議に思っている……と、手が寝衣の裾から直接肌に触れたことでとろりとしていた目が冴えた。

 もはや薄い布一枚もなく直に女性の繊細な手ではなく、しっかりとした男性のものだと分かる手が、


「あ、のデューさ、――ひぁ」


 単に触れるだけではこんな感覚及ばさない、はずなのに肌を滑る手に自分で自分の言葉を遮る声が出てくる。

 顔が熱くなるのが先だったか、触れられている身体か、分からない。

 デューベルハイトの手つきがビアンカに熱を与えているようで、その手を止めようと腕に手をついたのに男女以上に力の差が大きすぎてちょっとした妨げにもなりやしない。


「デューさま、ちょっと、待って、ください――」

「私にそれほど待てと言うのはお前くらいだ」

「そんなこと言われても……」

「さっきの件で散々待ってやっただろう」


 誓約書の件か。確かに待ってほしいと言ったけれど、あれで使ってしまったとでもいうのか。そんな馬鹿な、少し勝手が違うのではと手でなけなしの抵抗を続けていると、


「理解させてやると言ったはずだ」


 気を配っていなかった上の方、首に唇を押しつけられビクリと身体が小さく跳ねる。手の力が意思とは関係なしに緩み、その隙に次は鎖骨付近に熱い唇を押しつけられて頼りない声を出すのが精一杯。

 三度目、四度目とか細い声を上げていると、


「怖いか」


 と聞かれた。

 気がつけばいつからかデューベルハイトは横にいるのではなく、上にいた。ビアンカは仰向けにされており、見下ろしてくるデューベルハイトを見上げている状態。

 小さく上がった息をしながら今までにない体勢に違和感を覚えながらも、怖くはない、と思う。ただ心臓が穏やかな鼓動から壊れそうなくらいに打ちはじめているから、自分がどうにかなってしまいそう。


「しんぞ、う、壊れそうで……」


 思ったままが口に出れば、返答に首を僅かに傾けたデューベルハイトが――近づく。頭がビアンカの胸元、耳を澄ませるように横を向いて当てられ呼吸が止まるかと思った。髪が胸元を擽る。


「――ああ確かにな」


 どくんどくんと静かなところでは離れていても聞こえるのではないかと思うそれを、耳を当てる彼は耳にしたようでビアンカは恥ずかしくなる。


「悪くない」


 頭が離れ、再びビアンカを見下ろしたデューベルハイトが愉快げな笑みを刷き言った。


「だが、足りない」


 赤い瞳が宿す光はさながら餓えた獣のようだとビアンカは感じ、捕まった、とも感じた。


 心臓、壊れるかもしれない。




 赤い瞳が近づくや、


「必ず、お前の全てを私のものにする」


 噛みつくように口づけられ、至近距離で赤の色味が増した気がする瞳に捕らわれた。








 ――想いを自覚した吸血鬼の王は人間のお姫様を無制限の愛で囲み続ける


 ――人間のお姫様はまだ芽生えたばかりの気持ちを無自覚のままに王に捕まった。しかし彼女の道のりも長くはないだろう、なぜなら問答無用で愛を向ける王が相手だから










二章はデューベルハイト怒濤の詰め寄り。

これにて完結……といきたいところだったのですが(当初のお話)、このままでは何だかデューベルハイトの一方通行感も否めないやら何やら思うことがあるやら、番外編にしようとしていたこの後の話が途中から明らかに本編にすべき内容になっていったやらで三章に突入することになりました。

終わりの雰囲気が完結ムードだったのは完結する予定だったせいで気のせいではありません。

その三章はというと、元々番外にするつもりだったので二章終わりから作中内で少し日数が経っていますがあまりお気になさらずもう一波乱ある予定でもありますので、もうしばしお付き合い頂けると幸いです。



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