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9 側近、フォローする

フリッツ視点。






 特に話すことは今はないので王の後ろを、歩幅が多少違う分歩数でカバーしながらついて行っていたフリッツは、夜満ちる外に灯りを見つけた。

 城の近くにいるのでは、現在他国から人間の使者が来ていることを考えると彼らであるだろう。吸血鬼はめったに灯りは持ち歩かない。そんなものなくても見えるには見えるので、手を塞ぐことはわざわざしない。

 しかし人間は違う。ゆえにそうかな、とフリッツは早々に当たりをつけたのだ。


(あれ? あれは……)


 怪しい動きをしてはいないな、と、さっき王に謁見した国の使者がまだ帝国の統治歴浅い国であることを考え、自然に黙視していると近くに他に誰か立っていることに気がついた。遠目であれ、その類の目もいいので集中すればそれもまた分かる。

 知った姿であれば当てはめるのはすぐ。


「うわ、っとすみません陛下」


 続けてよそ見していると、前方不注意、前を行っていたその背にぶつかった。事実をすぐに認識し、誰であろう王に謝罪。

 立ち止まるとは思いもよらなかったためもろにぶつかったが、王はそれに関しては気にした様子は皆無で、フリッツを見もしなかった。

 王が見ているのは前ではなく、横手。フリッツが王にぶつかるまでは見ていた方であり、難なく視線を辿ることに成功する。他にあるものなどない。


「人間か」


 人間といえば二つある姿の内の一つであるお姫様も人間であるが、王ははたしてどちらのことを指したのか。


「人間ですね」


 ひとまずところフリッツも同意しつつ、止まることになっているので窓の外を改めて注視する。

 お姫様とアリス、と狼。と、帝国外の人間の国の使者と思われる人間。

 あれ? お姫様が外に出たのは、もしかしてこれが初めてではなかろうか。アリスが誘ってみたのだろうか。何にしろ、部屋の中にだけいるより外にも出てみた方が良いとは思われるので、いい傾向だな、と思う。


 それにしても別れる様子がない。

 話している様子が繰り広げられており、そのうちに――内緒話をするように顔を近づけたのは人間の男の方。

 一体どのような話をしているのか。会話は、距離もあるが室内と屋外で隔てられ、さすがに聞こえないもので見ていると、次は手がお姫様に伸ばされたように見える。


「アリスがいるので心配ないですね」


 不審者ではあるまいとの意味のことを、とりあえず言っておく。

 アリスならば万が一不審者だとしても、吸血鬼でなく人間であればなおさら片手で払えるくらいだからその点は心配ないはずだ。


「外に出るのは良い兆候ですよね、慣れてきた証拠といいますか。それにそういえばお姫様はここにきてから他の人間に会っていませんからねー」


 そのとき、無意識に口から言葉が出てくることに、気がついた。何かに急かされるように、何かを埋めるように。

 けれども気がつき、無意識が薄れた弾みに声が途切れて、静かになる前にこれもまたほぼ無意識が働いてあはは、と意味なく笑った。次は口の中が乾いていることに気がついた。


 ぎこちなく見た近くの王の表情は、別に変わったものではないものの――他の吸血鬼が及ばない力がその身より洩れていることを感じていたのは、一体いつからだ。




 最近になって――正確に言えばお姫様が拐われてから――王はお姫様を自分の近くに、目の届くところに置いておきたがる行動を見せている。

 お姫様はカルロスがいると居心地が悪くなるようで執務室を出てしまうのは仕方ないだろうが、邪魔をしないように王が話している間等にこっそり出ていくので、気がついた王はより少し眉を寄せる。お姫様が離れることをあまりよく思っていないのは明白。


 それまでは違和感を持ちつつも見てきたが、こうまでくると可能性は下がるどころか上がるのみ。

 おまけに度々お姫様を側に寄せているときに力を洩れさせている。


 その力の種類が、今は異なる。


 最近の優しいとも言えたかもしれない、言い換えると――あんな生易しい温いものとは正反対の刺々しい力を垂れ流している。





 王は一言発しただけで、次に何も言うことはなく行く廊下を進み始めた。







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