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4 側近、観察する

フリッツ視点。






 フリッツが紅茶と雑談を切り上げて応接専用の部屋に行くと、けっこう時間が経ってから来たので、義務的な話が終わったところのようだった。

 白金色の髪をした吸血鬼たちが向かい合って座っており、その片方である王が話の区切りを示す。


「ご苦労。――堅苦しいのはここまでで結構だ叔父上」

「これはデューベルハイト様はますます器が大きくなっているようだ!」


 長めの白金の髪をした方のドレイン公と呼ばれる吸血鬼、前の王の弟にして叔父は呵呵と笑った。ふざけたような口調は全く不快感を与えず、叔父は相変わらずのようだと王の後ろについたフリッツは微笑む。


「フリッツ、遅刻かな?」

「まさか、予定通りですよー」

「よく言う。タイミングでは完全に遅刻にしか見えない、もう少し上手く入ってきなさい」

「すみません」


 笑って返すと、叔父も本気で言っているのではないので笑う。


「いやしかし実に見る度我らが王は頼もしくなっているようだ」

「王が頼りなければ国は潰れるだろう」

「それはそうだがね、先王以上ということだよ。それに帝国始まって以来の繁栄だと言われている」

「それは初耳だ」

「デューの耳は必要なことしか拾わないからな!」


 さきほどまでは仕事の公的な話をしていたのだろうが、一気に他愛もない雑談へ、私的な空気へと変わった。

 王にこのような物言いができ、王の方もまた雑談に移ってもゆったりと椅子に座り続け、興味があれば耳を傾けるのは、ひとえに付き合いの長い叔父ゆえである。

 会うのはフリッツは三十年ほど振りだが、王はどれくらいだったか。

 それより例の話題をここで出してみるかと思いを馳せたところで、フリッツは叔父に話しかけて、柔らかく話題を変えにかかる。


「ところで叔父上は人間の方を妻に迎えられてましたよねー」

「そうなのか」

「おや、フリッツには言ったことがあったがデューには言わなかっただろうか?」


 正式に妻に迎える前反発があり、王の耳にも入っていたと思うが、叔父の勝手だろうと国にさしたる問題を与えるとは取らず忘れているに違いない。

 王は国に必要なことしか頭に多く留まらない、まさに支配者になるべくした頭の作りになっているので、こういうことにもなる。

 下手をすれば、王位に就く前に返り討ちにした次男のことも忘れているのではなかろうか。


「私がお聞きしたのはグーウェンに行ったときでしたから」


 グーウェン国、ドレイン公が王様とほぼ同じ役割をしている人間の大国で、他の国よりもその地に派遣された吸血鬼は多い。

 その地に視察も兼ねてフリッツが赴いたのが三十年ほど前のことで、そのとき叔父の近くには人間としてかなりの歳を重ねた人間がおり、その話を聞いた。

 一般の民までは把握していないものの、貴族の吸血鬼としてはフリッツが知る限りで唯一、人間を伴侶とした吸血鬼は出た話に少しばかり哀愁を滲ませた。


「もう彼女は死んでしまったがね」

「死んだ? それほど前に迎えていたのか」

「いやいや五十年にも満たない。しかし人間の寿命と私たちの寿命は大きく異なるからね」

「ああ、そうだったな」


 フリッツは叔父の妻が亡くなったことも知っていた上で話を持ち出したので何も言わなかった。

 人間の話だったなと思い出したかのように相づちを打った王が、ふいに呟く。


「あれも人間だったな」


 フリッツには誰を示しそう言っているのか分かり、その上でその声の感情を推し量ろうとしたがやはり無理だったので、それとなく口を挟んでみる。


「お姫様は確か十五歳だとお聞きしました。いやあ吸血鬼と比べると本当外見年齢とかの差異が不思議ですよねー」

「お姫様?」


 反応したのは叔父だ。


「今この城に人間のお姫様がいらっしゃるんですよー」

「人間の? この城に?」

「はい」

「どうしてまた。人質にでも送りつけられたのかい?」

「いいえ、それだとその前に送り返すなりするじゃないですか。そうではなく陛下が連れて帰っていらっしゃったんです」

「デューが?」


 叔父の目が王に戻された。

 それはこんな反応にもなるだろう。他の人間の国々から人質や繋がりを作るために正妃でなくとも、と送られようとする各国の王族ははね除けるのだから。

 経緯を見れば「狼と同じ感覚」だと言えば、叔父も一度納得してしまうのではないだろうか。それくらいに、王の普通ならあり得ないことだから。


「どこから連れて帰ってきたというんだ?」

「この前制圧した国からですよ」

「お姫様とは本物の王族ということなのか?」

「はい」

「それは……どうしてまた」


 王は頬杖をついて無言だった。

 フリッツがまた話す。


「気に入って連れて帰ると仰ったらしいんですよ」

「へえ。とうとう嫁取りかと期待したのだがね」

「あはは、どうですかね」


 本当にどうなのか。まだフリッツには分からない。だから心の底からそう言うと、叔父はわずかに首を傾げたことが分かったが、笑っておく。


「可愛らしい方ですよ。叔父上が愛した方には叔父上的に敵うかどうかは分かりませんが」

「それは一度会ってみたいな」

「叔父上は帰ってらっしゃると引く手あまたでお忙しいでしょうからどうでしょうね」

「会わせないつもりなのか!」

「いえまさか。時間を見つけてもらえればあとは許可を陛下にどうぞー」

「そこまで言われると是が非でも会いたいものだ。デュー、許可をくれるかね」


 王は何を考えているのか、うんともすんとも言わなかった。フリッツは後ろに立っているので顔は窺えないが、きっと顔を見ても分からなかったろう。正面に座る叔父が不思議そうに王を見、反応がないのでフリッツが見られたからだ。

 フリッツはもう一度笑顔を返しただけだった。


 叔父に、王のことについてそのうち相談してみよう。





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