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20 不愉快




「城に、それも陛下のお側に人間がいるなど信じられない」


 ある吸血鬼が、吐き捨てるように言った。


「確かに前代未聞ではありますが、陛下が例の癖で連れて帰って来たと聞きますよ」

「だが人間だぞ!」

「団長、声が少々……」

「構うものか! ……まったく」


 興奮したように声が大きくなっていたが、部下に言われて悪態をつく声は抑えられていた。

 城の廊下を歩く吸血鬼たちは、政務に関わる者たちのような裾が長い上着や緩いシルエットの服ではなく、機能的な服装をしていた。腰には長細いものが穿かれ、カチャカチャと細かい音を立てる。ブーツで立てる足音は少し、荒い。


「人間だぞ? 人間を、陛下自身の側に住まわせているというではないか」

「そうですね。しかし、陛下ですから」

「陛下も気の迷いとしか考えられない、狼と人間を一緒にするか?」

「まあ、陛下ですから……あり得るんじゃないでしょうか」

「だから今あり得ているんだろうが!」


 再び語気が荒くなる。どうも一方の吸血鬼は感情が収まらないようだ。


「……確かに最近気になる噂を耳にしたことはありますが」

「噂? 何だ言ってみろ」

「陛下は連れて帰ってきた人間を伴侶にするのではという噂が、一部に冗談混じりではありますがあるようです」

「伴侶に? 弱々しい人間を? ――馬鹿馬鹿しい」


 部下から噂の内容を聞くと、乾いた笑い声があげられた。笑い飛ばしたかったのだろうに、口の端がひきつっており上手くいっているとは言い難い。

 本人も自覚したのか、すぐに笑うことをやめて真顔になった。


「馬鹿馬鹿しい、そんなことがあってたまるか……単に狼と同じ扱いをされているのが人間だからといって、よくもそんな馬鹿馬鹿しい話が出てくる」


 話自体も存在が許せない、というように。


「どれもこれも人間なぞが陛下のお側にいるから……」


 その存在を見下す言葉は吐かれ続ける。

 そのとき、ぶつぶつと不満を口に出していた吸血鬼に軽い衝撃が加わった。吸血鬼にとっては微々たるもので、痛くも痒くもないのに、そのときばかりはそれさえも神経に障った。


「気をつけろ!」

「――申し訳ありません……!」


 吸血鬼が相手を睨み怒鳴りつけると、怯えきった声が謝る。

 女の声、その衣服を見て怒鳴りつけた吸血鬼は一時しまったとばかりに目を開いた。見る者が見れば一目で身分の高さが窺える身なり、高位貴族の令嬢――という言葉が頭に浮かぶ。

 しかし。

 冷や水をかけられたように急速に冷やされた意識が捉えたのは、その「令嬢」の瞳の色だった。

 淡い青の瞳をしていた。城の中枢、人間のどこかの国の使者が来ているとは聞いていない。人質を受け入れたとも。


 人間。


 それにも関わらず、少しの間でも自らの意識が脅かされたことは、今度は外からの力ではなく内から意識を冷えさせていく。吸血鬼の目も一気に冷ややかに、目の前に現れた存在を見下ろす。


「人間……? どうしてこんなところに……あ、団長もしかして」

「……ああそうだな」

「団長?」






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