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15 吸血鬼の事情





 ビアンカが狼と座っている頭上で、吸血鬼たちは喋っていた。


「ようやく一段落したところだよ」


 その片方であるフリッツは、ビアンカにちょこちょこ祖国の状況について教えてくれる。

 結局王族の処分はどうなったのかは、あれ以来王の口からもフリッツからも出ることはなくなった。つまりは、そういうことなのかもしれない。


「お姫様の祖国の大きなごたごたは収まりました。正式に統治の責任者も任命されたのでこれからは本格的にうちの統治下に置かれ、細かい調整に入ります」

「そうですか。教えてくださってありがとうございます」


 下に座っているビアンカを見て教えてくれたので、お礼を言う。こんな体勢で申し訳ない。

 帝国による、祖国の運営が本格的に始まったようだ。それが早いのか遅いのかビアンカには分からないけれど、これから祖国はどうなっていくのだろう。

 統治する側も統治する側で、色々な手間があることはこちらにいて、何となく感じていた。


 それが一段落したところらしいのに、フリッツは浅く息を吐いてぼやく。


「そんなところに問題が増えると何だか狙っているのかなぁって思うよね」

「何か起きたんですか?」

「まあね」


 「あ」とアリスが何か思い出したような声を出して指を一本立てた。


「南方の国から王女様が送られてきたそうですね」

「よく知ってるね、アリスは」

「新しい話題はいつでも収集していますから!」

「じゃあそのうち諜報活動でもしてもらおうかな」

「またまたー……フリッツ様まで私の邪魔を?」

「冗談だから」


 一瞬アリスの顔が真顔になって、下で見上げていただけのビアンカが下から見てビクリとしてしまった。フリッツはにこにこ笑っている。


「それでその先は知らないんですけどどうなったんですか?」

「着く前に強制送還されたよ。こっちはずっとそういうのは受けない態度なのにどうして送ってくるのか」


 右上で、フリッツがやれやれといった風に言った。左上では、アリスが「まあそうでしょうね」とはきはきと言った。

 上を左右交互に見たビアンカは、これが何度かやったことがある流れに感じられた。

 南方の国から王女。強制送還。不穏な単語が聞こえましたが?

 見上げていると、フリッツがこちらの様子に気がついたようになった。


「お姫様は不安に思わなくてもいいんですよ」

「え、はい。……南方の国の王女様がいらっしゃったのですか?」

「正確には首都に来る前、の前くらいみたいでしたね」

「何のために、『送られてきた』のですか?」

「お妃にと、人質差出しですかね。いずれにせよご機嫌取りですよ」


 大陸で随一の力を持つ帝国に対抗するよりも、取り入りたい国の方が多い。

 帝国外には統治に派遣されている吸血鬼以外に吸血鬼はいない。……となると、当然送られてくる寸前まできた王女は人間であったはず。

 未だに妃がいない王の妃へか、もしくはその形ではなくとも人質に。対抗心がないことを示すために、だろう。


「それは……」


 何と言うべきか。

 王女が吸血鬼が常識の国からやって来たのか、はたまた吸血鬼が得たいの知れないものと思っていたのか。来ていない以上は考えること自体が無駄となるが……。


「うちは人質は受けない方向でいっているので」


 そういえばビアンカが人質か、とびくびくしていたときにも、フリッツが似たようなことを言っていたような。


「前にも言いましたか? 人質を受け入れると住む場所を用意したり扱いなり手間がかかるじゃないですか。それを考えるといらないという方針になりまして、反逆されたときは……されたときで」


 最後に不穏な雰囲気が混じったと思えたのは、思い違いだろうか。

 反逆した国の末路は果たして……。ビアンカはそれ以上尋ねることはまずいと、目をうろうろと小さくさ迷わせて、話をずらすことを考える。


「あの、吸血鬼の方々は、人間と結婚するのですか?」


 そもそもそこが気になった。

 考えたことがなかったのは、今までその存在を知らなかったからである。

 ふと疑問に思った。どこかの大国の姫君を娶り、強い繋がりを持つことはないのだろうか、と。

 けれどそもそも人間とは異なった面がある吸血鬼であるので、人間とのそういった繋がりは持たないのだろうか。


「いえ基本的にはないですね。しかしそのことと出生率が低いことも手伝ってか吸血鬼の数は段々減ってきているようなんですけどね」

「あ、でもグーウェン国で統治を任された方が人間を見初めたっていう話前聞きました! あれって本当なんですか?」

「本当みたいだったよ。実際に会った」

「会ったんですか!?」

「大分前のことだよ。今はもう見初められた方の人間は亡くなったと聞いた」

「あーそうですよね」


 吸血鬼は吸血鬼としか基本的に結婚しないそうだ。やはり決定的な違いを持っているからだろうか。

 今の話を聞いていると、人間と吸血鬼は寿命差がかなりあるから、色々な面から向いていないようにも思える。


「それも特別すぎる例だよ」


 吸血鬼と人間は違う。姿形が似ているようで、性質は異なりすぎる。

 人間は吸血鬼の何分の一もの寿命で、軍艦から飛び降りて痛みを感じた様子もなく着地することはできないし、血を飲まない。

 ビアンカが知っているのはこれだけ。しかしこれほどまでもと思える違いだ。


「一般の吸血鬼ならあるかもしれませんけどね。私がお会いした方は貴族の方ですから、普通貴族であればそういう役職につかない限りあまり人間には会いもしません。城にも各国の使者の方が来るくらいですからね」


 国の中だけで貴族同士の婚姻を結ぶ国もあるだろうから、数多ある人間に国に当てはめてみると不思議ではないので、ビアンカは自分なりに一人で納得する。


「そうなのですね」


 ビアンカが頷いたタイミングで、膝に頭を乗せてじっとしていた銀毛の狼が大きく口を開いてあくびをした。赤い長い舌がダラリと口の外にはみ出て、牙も覗く。

 城にいる連れて帰られた狼たちは皆とても大きく、膝に乗られると重い。こうして寄ってきてくれるのは嬉しいけれど、けっこう重い。


「お姫様、大分なつかれましたねー」



 ――狼との友好関係は順調に築けています。







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