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8話

「こんばんは」


 荷物の整理などで一日かかってしまい、伯母さん夫婦が経営する宿“一葉いちよう”へやって来たのは日が暮れてからになってしまった。

 さて、今日からここが俺達家族の新しい家だ。


「待ってたわよ、いらっしゃい。ちょっと今、手が離せないから食堂で座って待っててね」


 この世界の宿は一階に食堂、二階以上が宿泊室となっているのが一般的だ。

 一葉には客の馬を預かる厩舎もある。


 暫くして伯母さんが「簡単なものしかないけど」と言って料理をテーブルに運んできた。

 ペリシアのお腹からはグゥ~と音がなる。俺もお腹が空いていたのでありがたい。母は伯母さんを手伝うために厨房へ行った。


 食堂の客もひき、泊まり客への対応も一段落したようだ。母と伯母さん夫婦が食堂へやって来た。


「テナーちゃん、ペリシアちゃん、お父さんは亡くなってしまったけど、あなた達にはお母さんがいるわ。それに私達もこれからは家族よ」


 おばさんは俺とペリシアを抱き寄せて言った。この後、これからの事を聞き部屋へ案内された。

 案内された部屋は殆ど使われていなかった部屋なので多少埃っぽいが、明日掃除をすることになっている。

 ペリシアは部屋に着くなりベッドに潜り込んで速攻寝ていた。ここ数日ハードな内容だったから無理もないか。


 部屋にはベッドが2台あったので、母とペリシアが同じベッドで寝て、俺は一人でベッドを使わせてもらえることになった。



◆◇◆◇◆◇



 翌日。


 外から聞こえる大勢の声で目が覚めると、見慣れない天井に違和感を覚えた。

 母の姿は既にベッドにない。今朝から厨房の仕事へ行っているはずだ。

 ペリシアを起こして朝御飯を済ませる。


 俺とペリシアは午前中に部屋の掃除を終わらせ、昼御飯のあと宿の仕事を教わった。

 母は料理が得意なので厨房の仕事、ペリシアは客室の掃除、ベッドメイキングだ。


 そして俺の仕事はここだ。


「すみません、ここの仕事をするように女将さんから言われて来ました。どなたかおられますかぁ?」


 仕事中は伯母さんではなく女将さんと呼ぶように、と言われた。


「はぁ~い、奥まで来てくれる~」


 と建物の奥から声が聞こえた。奥へ進むと客が預けている馬が数頭いた。

 ここは厩舎だ。

 俺の仕事は馬の世話になった。ここには俺と同い年の人が既に働いている。


 伯父さんの姪っ子さんで、8歳の時にここへ来て前任者から仕事を教わり、今年の春から1人で厩舎全体を任されている。

 しかし1人だとやはり難しいこともあるらしく人を探していたそうだ。


 一番奥の馬の側にいた犬耳の女の子に声をかける。


「遅くなりました。今日からここで仕事をさせてもらドルテナと言います。よろしくお願いします」


 女の子は耳だけをこちらに向けてきた。


「こちらこそ~。ちょっと今手が離せないからそこで待ってて~」


 うむ、どうやら語尾を伸ばす癖があるようだ。


 この世界には異世界らしく亜人といわれる種族がいる。

 異種族同士でも結婚は認められているが妊娠しないので子孫を残せない。伯母は人族だが伯父は犬族なので子供がいない。

 この国は種族間の差別はない。

 ただ、一部のおかしな奴らはどこの世界にもいるから差別してる奴らもいるが、シネスティア国内では本当にごく少数であり、多くの国民は差別そのものを嫌っている。


 彼女の手が空くまで近くの馬を撫でながら待つ。


「はい、お待たせしました~。ラムです。よろしくね~。同い年なのよね?」


 犬耳の可愛らしい女の子だ。


「はい、そうです!ドルテナと言います。これこらよろしくお願いします!」


 相手は同い年とはいえ先輩であり上司なのだ。ここは新人らしく大きな声で挨拶をし、出されていた手を握る。


「緊張してるのかもしれないけど~、ここではあまり大きな声を出すのはやめてね~。この子達がビックリしちゃうから~」


 と、早々に注意を受けた。なんとも幸先が悪い。


 これこらはここが俺の仕事場だ。しっかりと前を向いて歩こう。



◆◇◆◇◆◇



 厩舎で働き始めて10日程が過ぎたある日。 


「ラムさん、おはよう。ここに置いておくね」


 俺はアイテムボックスから水が並々と入った桶を出す。

 段々と冬に近づき始めたので吐く息が白い。

 そして厩舎の朝は早い。いつも夜が明ける前から作業を始める。

 お客が出かけるまでにブラッシング、飲み水を追加して餌の草を足す為だ。


 この世界の人は朝が早い。夜明けと共に活動し、日が暮れる頃に一日の活動を終える。


 ただ今日は少し遅め。

 この馬の主の行商人が、街の商店が開くまでは使わないと昨日伝えてきた。だから今朝は夜が明けてから作業を開始した。


 最初の頃はラムと敬語で話していたが、厩舎の仕事を始めて数日たった頃「同い年なんだから敬語で喋らなくてもいいよ~」とラムに言われた。

 なので今はこんな感じで会話してる。よく考えたら、この世界で初めての同級生ということになるのか。


 ラムがブラッシングをしているうちに、俺が水を運び草を足す。と言ってもアイテムボックスから出すだけなんだが。


 大体馬を使っているお客は行商人がほとんどだ。

 今日の馬達は全て同じ行商人の馬で昨日から泊まっている。

 この行商人は所謂商隊で、二頭引き馬車3台を所有している。馬は予備の馬を合わせて8頭。専属の護衛を合わせて12名の商隊だ。


 昨日この街に着いて持ってきた荷の大半を売りさばいたようで、今日は一日かけて商品を仕入れて明日旅立つらしい。


 8頭の馬達に水をあげていく。

 アイテムボックスから水の入った桶を出しては、水飲み用の桶に移す作業を繰り返した。

 最後の馬に水をあげていた時、商隊の人が厩舎へやって来た。


「あ、おはようございます~。すみません~、今朝は馬を使わないと聞いていたので~、まだ終わってないんです~」


 この厩舎の責任者はラムだ。なので彼女が対応する。

 でも、今日は仕入れのために商店が開く時間までは馬は使わない、と昨日聞いていたのだが……予定が変わったのか?

 どっちにしてもまだ餌もあげてない。馬を使うなら、少し時間を貰わないといけないので、ラムが商隊の人に時間を貰おうとした。


「あの、もう少しお時……」

「あ、いや、馬を使うわけではないんだ。馬の様子を見に来ただけだから。馬は昨日伝えた通り、街の商店が開くまでは使わないよ。それまでに仕上げてくれればいいから」


 よかった。こっちの連絡ミスかと思ったよ。ホッとしていると商隊の人が俺に声をかけてきた。


「それより君、アイテムボックスから桶を出していたよね?」

「はい。馬達の飲み水を桶から移してました。あ!この水はついさっき井戸から汲み上げたきれいな水です。決して古い水ではありません」


 厩舎に来る前に汲み上げて、重いからアイテムボックスに入れて持ってきた。だから古くはない。その辺りをチェックに来たのか?


「いやいや、水のことではないよ。たまたま部屋から外を見たときに、君が井戸から汲んでいたのが見えていたからね。キチンとやってくれている事は分かってるよ。」


 ホッ。よかった。雨の日でも必ず井戸から新しい水を汲んで使うようにしている。アイテムボックスの中で腐って、ボウフラなんか湧いたらたまらない。

 ではなんだ?桶はごく普通の物だ。毎日洗ってきっちり干しているから見た目も汚くはない。


「アイテムボックスにたくさんの桶を入れていたよね?それも水が入ったままの。あ、いや、人の容量を聞くのはマナーがないのは分かっている。勿論子供相手でもね」


 そうか、井戸から汲み上げている所を見ていたならば、その桶をアイテムボックスに入れるところも見られた訳だ。

 この世界のアイテムボックスの容量は、多い人でランドセル3個分程度と言われている。

 俺は水が並々と入った桶を合計10個入れていた。

 全て見られていたとしたらヤバいな。ランドセル3個分程度のアイテムボックスでは、水を並々と入れた桶が10個も入らない。

 俺のアイテムボックス容量が世間一般の物より多いことがバレている可能性があるな。


 さて、なんて言えば誤魔化せるんだろうか……。


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