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81話

 昼の休憩を終えた俺達は岩山へ向けて歩みを進め、今夜の野営地になりそうな場所へ着いた。

 この野営地に近づくにつれて山の奥からは幾つかの赤い点が近づいていた。


 今は危険察知範囲を300m程度にしている。あまり広げすぎるとかなり遠くまで察知してしまい、本当に必要な物が見えなくなるからだ。


 野営地に着く頃には時々遠くにその姿を見せはするが接触する気はないらしく、俺達と一定の距離を保ちながらついて来ている。

 姿を見せた狼は殆ど普通種だったが1匹だけ体格が大きかったから魔物だろう。

 《疾風の牙》のルーベンは、恐らくあれが群れを率いている個体の片割れとみていた。 


 今夜の野営地になる場所は、岩がむき出しになっているから周囲に死角となる木が少ない。こちらの身を隠す場所もないということになるが、それでも夜警が少しはやりやすいはずだ。

 既に狼の縄張りに入っていることは間違いないということで、夜襲を警戒して今夜はテントを張らずに寝ることとなった。

 灯り取りの焚き火を取り囲むように座り多少早いがそれぞれが食事を取る。山の中ということもあり、早く日が沈むからだ。


 今夜の夜警は初日と同じ組で同じ順番で行うということなので、フレディとイレネの2人と一緒に座っている。

 他の人は火の周りで眠っている。夏とはいえ夜の山は気温が下がる。


「ドルテナ、昨日の夜はかなり楽しめたそうだね」

「ゲホッゲホッ……ま、まぁそれなりに」


 焚き火に拾ってきておいた枝をくべていると、唐突にフレディが昨夜のキャバクラならぬ連れ出しパブの話をしてきた。

 その横ではイレネが火を見たまま不機嫌な顔をしていた。


「朝帰りしておいてそれなりってことはないだろ?で、どうだった?ウマかっただろ?」


 フレディがニヤリとさせながら聞いてきた。

 上手かったろって聞かれてもな。リアナは初めてだったからテクとかは全くなかったし、終始俺がリードしてたんだけど。

 生まれ変わってからは初めてだったけど、前世の時にはそれなりに経験してるからリードするのになんら問題はなかった。

 ただリアナに「ドルテナさん、何か慣れてるような気がする……」って言われたけどね。

 とはいえ、リアナのテクの話をするわけにもいかない。


「いや、上手かったかどうかと言われても……」

「ふむ、ドルテナには合わなかったのか」

「そんなことはないですよ。何分にも初めてだったので」

「それは知ってるよ。でもあの店は村にある規模の店としてはかなりのレベルなんだけどね」


 知ってるって?俺が童貞なんて話した覚えないけど。

 んで、あの店の女の子のレベルが都市ではなく村にあるような店としては高いと。

 確かにリアナ以外のお姉様方も十分綺麗だったな。


「そうなんですか。他の所を知らないので」

「普段はどうしてるんだい?毎日自分でやってたら大変だろ?」


ー ブッ! ー


 飲みかけていた水筒の水を思わず吹いてしまった。


「大丈夫?」

「毎日って……」


 いくら13歳だからといっても毎日はないだろ。っていうか、フレディはなんつう事を聞いてくるんだよ!


「我が家は毎日イレネにしてもらってるよ。彼女はとても上手いんだよ。最高だよ」


ー ブホッ! ー


 本人目の前にしてとんでも発言しちゃったよ!

 確かにイレネは綺麗だから自慢しちゃいたいのはわかるけど、内容がマズいでしょ!


「ドルテナ、大丈夫かい?」

「…………」


 あんたがとんでも発言を連発するからでしょうが!


 思わずジト目でフレディを見てしまう。


「アハハ、すまないすまない。ついついイレネの自慢をしてしまったね。でも本当に上手なんだよ。一度食べてみて欲しいな。よし、マホンに帰ったらディナーに招待するよ」


 ったく一度食べてみるとって。ネトラレ趣味なのかフレディは!

 何が招待するよだよ、ディナーってヤバ……


「へ?ディナー?」

「あぁ、今度招待するよ。妻は料理がうまいんだ」


 え、じゃ今までの話は全て料理の話?


 最初から料理の話と思って会話を思い出してみると……


 確かに料理の話だな……。ったく紛らわしい話し方しないで欲しいわ!


 いや、違うな。

 フレディの顔がニヤけたままだ。こいつ確信犯だな。


「紛らわ ── 」

「痛っ!い、痛いって!イレネ、そこ抓るとメッチャメチャ痛いんだよ!」


 俺が「紛らわしい」と文句を言おうとしたら、イレネがフレディの二の腕の下をギュッと抓って凄い怖い顔で睨んでた。


「あなた、13歳のドルテナに八つ当たりなんてやめてください。なぜ私がいるのにルーベン達と一緒に出かけようとしたのですか?なぜあのような店に自分も行きたいと言えるのですか?それとも堂々とすれば浮気ではないとでもいいたいのですか?」


 イレネがたたみ掛けるようにフレディに詰め寄る。

 フレディは「あ、いや、それは」と言いながら後退っていた。


「まったく!今度このようなことがあったら2度と御飯作りませんからね!」

「な!わ、わかった!もう今後一切あのような店に行きたいとは言わない」


 フレディがイレネの足下で土下座状態だよ。

 そんなにイレネの料理が?


「絶対ですよ」

「はい」


 winnerイレネ!


 って、そうじゃねぇ。


「ドルテナもドルテナです。あなたはまだ未成年なんだから、ああいったお店に出入りするのはよくないですよ」

「はい、以後気を付けます」


 フレディのせいで俺まで巻き添えだよ。

 

 フレディを見るとばつが悪いのか明後日の方を態とらしく向いていた。


「本当に、ルーベンもルーベンよ。子供を連れて行くなんて」

「いや、ほら、ルーベンにも色々と……」


 フレディが言わなくてもいいことを言ってしまい、またイレネの逆鱗に触れていた。

 俺はこれ以上の巻き沿いは勘弁して欲しいのでそっと距離を開けて座り直し、夜警をすることにした。


 狼達はどうやら2匹1組で行動しているようだ。

 移動時よりも距離が近づいてきているから、狼のシルエットがわかるようになってきていた。


 交代するまでに1度だけ狼が森の境まで近づいてきたのでイレネが矢をいった。

 狼の直ぐ近くの木に矢が刺さったので慌てて奥へ逃げて行ったっきり、狼達は近づいて来なかった。


 そして俺達の受け持った夜警時間が終わった。


「お疲れ。しっかり寝ときなよ」

「じゃぁね、おやすみ」

「はい、お疲れ様です。おやすみなさい」


 フレディとイレネに挨拶をして俺も横になる。

 明日はいよいよ狼達の塒と思われる岩山へ襲撃をかける。今のうちにしっかりと体を休めておこう。

 魔物退治が終われば俺もランクEへランクアップだ。


 そう思いながら目を瞑っていると、下が岩ということで多少寝難いかと思ったが案外早く寝付いた。


 そして起床にはまだ早い時間。俺は強制的に起こされ事態は急変する。




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