79話
「……リアナ?」
唇から柔らかい感触が遠のいていき、思わずリアナの顔を見た。
「ドルテナさんには怖い顔は似合いませんよ」
「あ、うん。わかったよ」
リアナの話を聞いているうちに顔が険しくなっていたようだ。
ちょっと態とらしかったかも知れないが笑顔でリアナを見る。
「そのお顔のドルテナさんがいいです」
そう言って首に腕を回して抱きついてきた。
リアナの体から甘いいい香りがした。
「ちょっと御手洗に行ってきます。待っててくださいね」
そう言ってリアナは立ち上がり部屋の奥へ向かって歩き出した。
俺がリアナを目で追っていると、ヴィクターと《疾風の牙》のバリーが女性と共に階段の方へと消えていった。
「あの2人どこに行くんです?」
ルイスはにやけながら「上の部屋に決まってるだろ」と言った。
その言葉でこの店はキャバクラじゃなくて連れ出しスナックやパブの類いだと気付いた俺は、しばし固まってしまった。
なんつう所に13歳を連れて来てんだよ!キャバクラでもどうかと思うのに風俗はいかんだろ風俗は!
あ、でもキャバクラも風俗営業か?
そんな事を思っているとリアナを指導したという女性が俺の耳元で囁く。
「リアナをよろしくね。彼女の初めてをもらってあげて」
いきなりR18世界の話になり思考が戻ってきてない俺に、追い打ちをかけるかのように爆弾発言をしてきた。
「え、ちょっ!そんなこと彼女にできないですよ。そういうのは好きな人じゃないと」
「あら?そういうお店に来てるのに?でもそういう考え方、好きよ。もしリアナのことを思うなら、あなたが最初の人になってあげた方がいいわよ」
「え?どういうことですか?」
彼女のことを思うなら抱かない方がいいだろうに。どういうことなんだ?
「あなたも気付いてるでしょうけど、この店の女は自らの体で稼いでいるの。リアナの仕事も同じよ。でもね、最初の人がオヤジじゃなくて若い人、それも自分の年に近い人というのはこの業界ではあり得ないわ。男の人は処女と聞くと見境ないんだから」
処女に特別価値を見いだしている人がいるのは日本でもこの世界でもいるんだろうけど、俺はそういうこだわりはないんだけど。
「だから処女の女はお得意様に高く買ってもらうの」
この女性も初めては自分の父親より年上の人で泣きながら抱かれたそうだ。
「でも今は狼の魔物のせいでお客は激減。マホンから来てたお得意様は魔物が怖くてヒュペリトへ殆ど来ないわ。でもゼロじゃないの。もしあなたがリアナを抱かなければ他の人が必ず抱くわ。だからどの道リアナは遅かれ早かれ誰かに処女を捧げることになるの。それならあなたのように年が近くて優しそうな人で、少しでもいいなぁって思った相手がリアナにとってもいいと思うの」
つまりオジサンに処女を捧げるより、年の近い男の方がリアナ的にも心の負担が少ないと。
だからリアナを抱いてあげて欲しいと……。
なんだか凄いことになってきたぞ。
確かにリアナは可愛い。一生懸命仕事をしようという姿勢は共感できるし彼女の笑顔はとてもよかった。
だがそんなことで彼女の初めてを……。
しかし俺がしなくても別の誰かが……。それなら……。
いやしかし……。
そんな堂々巡りを脳内でしていると、今度はルイスが「抱いてあげな」と言ってきた。
「あの子もこの店にいると言うことは毎日男に抱かれなきゃ生活できないということだ。それでも最初位は好意を持っている相手に抱かれる程度の幸せはあってもいいと俺は思うよ」
「俺に好意を?」
「何?気付いてなかったのか?ドルテナは意外と朴念仁なんだな。兎に角だ、彼女のためにもドルテナが最初に抱いてやれ。じゃぁな、俺はアンヘリカちゃんと楽しんでくるよ」
そう言ってリアナを指導した女性、アンヘリカの手を引いて2階へ消えていった。
アンヘリカとルイスの2人と話している間に、他のメンバーは全員2階へ行ったようで、ボックス席には俺しか座っていなかった。
皆やる気満々だったんだ……。
ん?俺だけがこういう店に来ることを知らなかったと言うことか。
「あ、あの。皆様お部屋に?」
トイレから帰ってきたリアナが俺の隣へと座る。
「あ~、うん、そのようで……」
アンヘリカとルイスの話のせいでリアナを見ることができない。
リアナも何も言わず隣に座ったままだ。
「…………。」
「…………。」
2人して黙ったまま座っているとボーイさんが席へ近づいてきた。
「お客様、当店の料理はお口に合いましたでしょうか?」
「あ、はい。とても美味しかったです。ご馳走様でした」
いや、お世辞でもなく本当に美味しかった。マホンでも十分やっていけるくらいに。
「ありがとうございます。お客様はまだお若いようですのでご確認させていただきたいのですが、当店のシステムはご存じでしょうか?」
ボーイさんがリアナを見ながら聞いてきた。
つまり連れ出すかどうかの話だろう。
「はい、アンヘリカさんから聞きました」
「左様で御座いますか。うちのリアナを宜しければ……」
ボーイさんの言葉でリアナは顔を真っ赤にしているが、俯いたりせずしっかりと俺の顔を見つめていた。
変なオヤジに抱かれるよりは俺の方がいい、か……。
いやいや、エルビラにバレたらどうすんだ?
でもリアナを恋人にする訳じゃないからなぁ。だから二股にはならないよな……。
風俗は浮気になったりするのか?
まてよ、この世界は一夫一婦制という訳じゃなかったよな。
貴族連中は兎も角、一般市民でも収入の多い人達は数人の妻を娶る事が多い。また妻とせず妾にする人もいると聞く。
ならリアナと一夜を共にする位は許容範囲?
…………。
……。
暫しの葛藤の末、俺は首を縦に振っていた。
「ありがとう御座います。リアナはまだ男性を知りません。リアナを女へと導いてくださいますよう、よろしくお願いいたします。それではこの後はリアナがご案内させて頂きます」
ボーイさんはリアナへ合図を送り、それを見たリアナが俺の手を握り席を立った。
「そ、それでは、ご、ご案内いたします!」
緊張からか恐怖からかわからないが、リアナの手は震えていた。
俺は立ち上がり震えているリアナの手を自分の腕へ回した。
そして皆が消えていった階段へ向かう。
2階へ案内されて気付いたんだが、ここは3階もあるようだ。
リアナが階段の直ぐ側にある部屋の扉を開けた。
「ここです。どうぞお入りください」
「ここは……」
「私の部屋になります」
案内してくれた部屋にはテーブルと2脚の椅子、ベッドがあった。他にもドレッサーやクローゼットといった物もあり、ここでリアナは生活をしているようだった。
リアナが椅子に座るように言ってきたので勧められた椅子へ座ると、リアナが椅子の前で跪いて話してきた。
「えっと……あ、そうだ。ドルテナさん、先ずはお代をいただきます。ショートが3万5千バルで、ロングが12万バルとなります。どちらになさいますか?」
「ショート?ロング?」
ここが連れ出しスナック系なのは聞いたが料金体系は聞いてなかった。
だからショートやロングと言われてもよくわからず、首をかしげてしまった。
「えっと、ショートが2時間のご利用で、ロングは朝までということになりますのでお泊まりいただく事になります」
「ショートの場合、リアナは今夜の仕事は終わりになるの?」
「いえ、お部屋を片付けたら下に戻って次の仕事に……」
つまり2人目を相手にすることになると。
そんなん聞いたら選択肢はなくなるよね。
「ならロングをお願いするよ」
「え?!ロングですか!12万バルもするんですよ?」
いや、そこは素直にありがとうございますでいいと思うんだけど。
「俺はこういうお店の相場を知らないから“12万バルも”って言われてもね。それよりロングはイヤ?」
変異種のお陰でお金には少し余裕がある。12万バルは安くないとは思うけど払えないわけではない。
長い時間が嫌ならやめるけど、そうじゃないなら初日から複数の男に抱かれるよりは1人の方が気持ち的には楽だろう。
そう思って聞くと、リアナは首を大きく横に振った。
「そう。じゃこれね」
アイテムボックスから大銀貨1枚と銀貨20枚を取り出してリアナの手にしっかりと握らせた。
リアナは自分の手の中にある硬貨をジッと見つめていたが、急に抱きついてきた。
危うく椅子が倒れそうだったよ。
「ッちょっ!どうしたの」
「ありがとう」
その一言だけ言うと直ぐに離れ、入り口を少し開けてベルを鳴らして扉を閉めた。
するとドアがノックされて先ほどとは別のボーイさんがやって来た。
「ありがとうございます。ロングです。……はい、わかりました」
ボーイさんが帰った後、再び椅子の前で跪いて一礼をした。
「それでは……失礼します」
そう言って俺の足の間に体を入れ、上着を脱がしてくれようとした。
したのだが、俺は戦闘服を着ていたからリアナが脱がし方がわからず四苦八苦していた。
仕方ないので自分で脱ぐと今度はリアナが「脱がしてください」と、顔をこれでもかという位真っ赤にして言ってきた。
そうは言っても着ている服は胸元がガッツリと開いているワンピースだから、肩紐をずらすだけで足下へストンと落ちてしまった。
目の前にはセクシーな紐パン姿のリアナが、露わになった胸を片手で恥ずかしそうに隠している。
俺の視線から逃げるように抱きついてきた。
お互い裸になっているためリアナの温もりが直接伝わってくるだけでなく、胸の柔らかさまでしっかりとわかる。
「初めてなので上手くできないかも知れませんが、ご容赦ください」
「そんなこと全く気にしないよ」
俺とリアナは互いの唇を重ね合わせ舌を絡め合う。
長くもなく短くもない時間重ね合わせていた唇をリアナは離した。
そしてそのまま俺の頬、首、胸へと唇を移動させていき、リアナの艶やかな姿にビンビンと反応している箇所へとたどり着くとそれを口内へ含んだ。
長い夜が始まり、お互いの初めてを共有していくのだった。




