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77話

 灯り取りのための焚き火の前に俺とフレディ、イレネが座っている。

 この3人で最初の夜警を担当する。


 俺はてっきり巡回みたいなことをするものだと思っていたのだが、2人は焚き火の前に座り俺にも座るように勧めた。


「あの、夜警って巡回みたいなことをするのではないんですか?」

「普通はそうするかな。ほら、俺達犬族だろ?君のような人族に比べて聴力がいいんだ。だからここからでも不審な音はしっかりと聞こえるから大丈夫」


 フレディが自分の頭に生えている犬耳を指さしながら教えてくれた。


「わかりました。それならお言葉に甘えて」


 俺も2人の近くに座った。


 俺も危険察知を広げているから巡回をしなくても大丈夫なんだが、他の人から見たらサボっているように見えたりしないか、そっちの方が心配だよ。


 今の危険察知は夜警ということもあり範囲を最大まで広げている。その範囲内に赤い点が2つ……。

 この2つはここの休憩所に俺達が着いて程なく反応が出た。


 そいつは海側ではなく山側にいるようだ。もしかしてらあの方向がヒュペリトなのか?もしそうなら、今回俺達のターゲットの狼の可能性が高いのかな?

 危険察知の範囲ギリギリの所からあまり動いてないからそこまで気にしなくてもいいか。


「昼間に見させてもらった君の武器は凄いな。ヴィクターから見習のランクFが変異種を倒したと聞いたときは信じられなかったよ。てっきりヴィクターが仕事のしすぎで頭がおかしくなったと思ってしまったよ」


 ヴィクターの仕事が大変なのは今に始まったことではないらしい。


「それで、どんな変異種だったんだ?その時のことを教えてくれよ」

「えぇいいですよ。俺達がワカミチを出て ── 」


 この後、ついさっきヴィクターに話したことを今度はフレディに話して聞かせた。


 同じ絵本を何回も読んで欲しいとせがまれている父親の気持ちが、何となくわかったような気がした。


 途中、危険察知の赤い点を何度か確認していたが、動きはあるもののこちらへ近づいてくる気配はなかった。




「へぇ、ここからねぇ。その爆発の範囲は ── 」

「ねぇ、あなた。もうそろそろ交代の時間よ?」


 フレディがアンダーバレルのグレネードについて聞いてきたとき、星空を見ていたイレネが交代の時間を教えてくれた。


「なに、もうかい?ドルテナの話を聞いていたらあっという間だったな。さてと、俺達が行商人達へ知らせるから君はテントに帰ってもいいよ」

「わかりました。それではお先に失礼します。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


 こうしてフレディとイレネに挨拶をして俺の初めての夜警は何事もなく終わった。


 テントに入るときにもう一度赤い点を確認したが、やはりこちらへ近づく気配はなかったので安心して寝られそうだ。




◆◇◆◇◆◇



 翌日。


「ドルテナ、朝だぞ」


 ヴィクターの声で目が覚めた。


「フワァ~ッ。はぁい、今起きます」


 寝たまま大きく背伸びをした後、眠い目を擦りながらテントから出ると、東の空が少しずつ明るくなっていた。


 よく寝たな。野営だから途中起きるかと思ったんだけどな。


 テントから出た俺は水の樽を出して顔を洗い、水筒に水を補給する。

 その後はヴィクターと協力してお互いのテントをたたみ、朝御飯となる。


「いつ頃にヒュペリトへ着く予定なんですか?」

「今日の夕方前に着くぞ。ヒュペリトで1泊して翌朝に討伐へ出発する。だから今夜はあまり遅くまで起きとかずに早く寝ろよ」


 ヴィクターが顔をニャァとさせて俺の肩をバシバシッと叩いた。


「どういうことですか?今夜何かある ── 」

「ドルテナ、もう少しで向こうは出発するぞ!馬車の用意をしとけよ!」


 《疾風の牙》のリーダー、ルーベンが行商人達を指さしながら教えてくれた。


「あ、はい!わかりました!ヴィクターさん、準備してきます」

「ああ、頼んだ」


 結局何の話なのか確かめられず慌てて出発の準備に取りかかった。 


 準備をしながら周りを確かめると、昨夜いた赤い点はいなくなっていた。どうやら危険察知の範囲から出たようだ。

 ただ、これから向かうのは狼が出没している地域だ。危険察知の範囲は少し広めにしておこう。


 行商人達を先頭に進んでいく。

 昨日と違ってこっちの馬車には誰も乗っていない。PTメンバーが揃っていた方が対応しやすいからだ。


「ヴィクターさん。狼の調査とかもするって言ってましたけど、出没地域とかはわかってるんですか?」


 それもわからず山中を探すのはかなり厳しいように思う。


「あぁ、ある程度だがわかってる。ヒュペリトからは狼の調査をした者が案内人として付くことになってるしな」

「やっぱり群れって言うくらいですから何処かに巣があると考えていいんですか?」

「おそらくな。そこのボスが普通の獣同様に群れを纏めていると思って間違いないだろう」


 魔物になっても群れの習性というのは変わらないと読んでいるんだろうな。


「そいつを倒せば群れる習性はなくなると?」

「いや、元々狼は群れる習性がある。ボスを倒しても他の奴がボスになるだけだ。だから群れを殲滅させなきゃならん。それが無理でも魔物だけは全て倒しておきたいところだな」


 ギルドで説明を受けたときに聞いたのは魔物を合わせても30匹以下。

 1人辺り3頭がノルマと考えるとそこまで難しい訳じゃないか。


「落ち着いやれば大丈夫だ。変異種に比べてら楽だろ?」


 俺が少し考え込んでいたのを気にしたのか、ヴィクターが肩を叩きながら言ってきた。


「どうなんでしょう。あの時は1匹でしたからね」


 ほんとどうなることやら。兎に角やれることを精一杯やろう。


 その会話以降、昼の休憩まで殆ど喋らなかった。というか、俺も喋る気にはならなかった。

 何故なら、ヒュペリトへ近づくにつれて危険察知に引っかかる奴らが増えていったんだ。


 今で赤い点は3カ所。


 この狼と思う赤い点はそれぞれが離れた位置にいて、恐らくはヒュペリトを取り囲むようにいると思う。

 その様子から、狼達はヒュペリトの様子若しくは出入りする者を監視しているのではないだろうか。


 さて、俺達はお昼御飯を食べるために開けた場所で休憩を取る。

 この場所は三叉路になっていた。

 1つはヒュペリトへ行く道だろう。ならもう1つは……何処へ繋がっているんだ?


「ヴィクターさん、何で道が分かれてるんです?」

「ん?こっちはヒュペリトに行く道で、あっちがシウテテに行く道だ」

「え?ヒュペリトってシウテテまでの通り道にあるんじゃないんですか?」


 俺はてっきりワカミチへ行ったときのように街道の途中に村がある物だと思ってた。


「ああ、ヒュペリトは街道沿いにあるわけじゃない。だから用のない者達はヒュペリトに寄らずにシウテテへ向かう」

「それだと村の収入ってどうなってるんですか?人の出入りがないと大変なんじゃ」


 物が動くからお金がそして経済が動く。なのに人の出入りが少ないということは旅人が村へ落とすお金も少ないなる。


 ヴィクターの話だと特産品類もなんか微妙らしいし。そうなると住民の収入は推して知るべしだ。


「見た感じ楽ではないと思う。それはお前も村へ入ったらわかると思う」

「そうまでしてその場所に ── 」

「ヴィクター、食べ終わったら直ぐに出よう」


 フレディが俺の話を遮って出発を促してきた。

 そのフレディの表情からは笑顔が消え、辺りを気にしている。

 その視線の方向へ俺も目を向けると、いつの間にか危険察知の赤い点が数個近づいていた。

 今すぐ危険な距離ではないが、ゆっくりお昼御飯を食べられる余裕もなさそうだ。


 俺がその赤い点を確認していたのをフレディが見て少し驚いていた。


「ドルテナ、君は相手の位置がわかるのか?」

「あ、あぁいや、何となく……」


 おっと。あからさまに見過ぎたか。

 ランクCで犬族のフレディでも何となくしかわかってなかったようだ。それなのに俺はその場所を完全に見据えていたらバレてしまうか。


「……そうか。とりあえず直ぐに出るから準備してくれ」


 そう言って自分達の馬車へ戻っていった。


「よし、ドルテナ!2人で馬を繋げるぞ!」

「はい!」


 ヴィクターと協力して馬を馬車へ繋げて直ぐに出発する。

 その間にも赤い点がこちらを包囲するかのように近づいてきている。


 俺達がヒュペリトに着くのが早いか、狼と思われる赤い点が俺達に接触するのが早いか……微妙だな。


 そう思いながらヒュペリトへ繋がる街道を見ながらサブマシンガン【FN P90】を握っている手に力が入る。




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