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76話

「え!?そうなんですか!」


 午後からはイレネと入れ替わって《疾風の牙》の弓担当、ルイスがこっちの馬車へ乗り込んでいた。

 ルイスは今回の指名依頼でいつも通りの成果を出せばランクアップ試験を受けられることになっている。


 俺のお陰だと言ってお礼を言われたが、俺としてもこれだけの戦力に混ぜてもらえたので感謝していると伝えると「妹の言う通り13歳とは思えないな」と言われた。


 妹が誰なのか訪ねると予想していなかった相手の名前が出てきたのだ。


「ああ、そうだよ。ギルドに勤めているアビーは俺の妹だよ。顔はあまり似てないけどね」


 そう、ルイスは俺がいつもお世話になっているアビーの兄だったんだ。


「ギルドではいつもお世話になってます」

「こちらこそ。妹が君の話を度々するから一度は会ってみたかったんだ」

「そ、そうですか。何を話されているのか気になるところですが……」

「あはは、まぁその辺りは俺の口からは言えないかな。喋っちゃうと俺が妹にやられちゃうよ」


 どんな話をしてるんだか……。


「それよりお昼に見せてもらった武器で変異種を倒したのかい?」


 俺は首を横に振りながら答えた。


「最後にお見せした武器では大したダメージにはなってなかったです。皮が思いの外厚かったようで、できたのは牽制程度でした」

「あれでかい?それじゃどうやって倒したんだい?」

「あの時はこっちを使いました」


 俺は徐にアイテムボックスからアサルトライフル【FN SCAR-H】を取り出した。


「これも魔道具?」

「はい、先ほどの物より威力は高くなってます。こっちの筒から出る弾は着弾と同時に爆発するのでこれで変異種の足を狙って動きを阻害しました」


 蛇だったから足じゃなくて胴体なんだけど、その辺りは詳しく話さなくても構わないだろう。


「弾とは?」

「あぁ、魔力の塊なんで俺は“弾”って言ってます」

「魔力弾って言うことか。なるほどね。それで変異種の動きを止めた後、そっちの小さい筒の方からさっきの弾を撃って仕留めたと」

「そうです」


 ルイスは腕を組んで目を閉じて何やら考え込んでいた。

 特に誤魔化しているわけではないが、ルイス的には何か気になるんだろうか。


「つまり、君の武器は弓と同じように遠距離攻撃が主で、接近戦には向いてない?」


 戦闘服があるから防御も問題ないけど、銃って基本的に近づかれる前に倒すことを前提に作られているように思うからきっとそうなんだろうな。


「えぇ、おそらく」

「なら戦闘の際は俺達の側にいた方がよさそうだね」


 イレネもルイスも弓で攻撃するので所謂後衛ってことになる。

 銃も遠距離攻撃だろうけど、弓のように矢を弓形に放って前衛の仲間の頭上を通過させるようなことはできない。

 それに、銃弾が獣を貫通してその先にいる仲間に当たる可能性もある。


 となると後衛では動きにくいか……。


 そう思ってルイスにその事を伝えると「威力がありすぎるのも良し悪しってことか」と再び考えに集中してしまった。


 そんなルイスに御者台のヴィクターが話しかけた。


「ルイス、とりあえず野営地に着いてから皆で決めたらどうだ?」

「そうだね。皆の意見を聞いた方が陣形を組みやすいのは確かだね」


 俺を組み込んだ陣形は野営地に着いてからとなった。

 他の人の戦い方がわからない俺としてもその方が助かる。




 日が少しずつ傾き始めた頃、街道沿いに岩が目立つようになってきた。

 街道自体に岩はなく、馬車が進むのに影響はなかった。

 前方に開けた場所が見え始めた。どうやらあそこが野営地のようだ。


「よし、着いたぞ」

「ヴィクター、お疲れ様」


 そこは巨大な岩が居座っており、その前が人工的に整地されていた。


「どうだ?あの岩凄いだろ?」


 ヴィクターが自慢気に言ってきた。

 高さ10mちょっと、横幅は100mは少なくともありそうだ。

 完全に壁、いやちょっとした城壁だよ。


「これって自然に?それとも人工的に?」

「勿論自然の岩だ。この前でテントを張ると後ろは気にしなくていいだろ?」

「確かに……」


 これだけの岩の壁があれば、この方面だけは襲撃の心配をしなくてすむ。

 夜警にかかる負担をかなり軽減させられるだろう。

 しかしここまで都合のいい場所にこんな巨石があるもんだな。


「ドルテナ、馬は任せたぞ」

「はい、後はやっておきます」


 俺が馬の世話をしている間に、ヴィクターと両PTリーダー、そして行商人達で今夜の夜警について話し合いをしている。

 どっちが何人でどの時間にするかなどを決めるそうだ。


「お前達もお疲れ様。明日もよろしくな」


 馬達の1日の労を労うようにしっかりとブラッシングしてあげると、心なしか嬉しそうに見える。


「お疲れ。馬の世話もしっかりできるとは大したもんだ」

「見習の前は宿で働いてましたからこれくらいはできますよ」

「いやいや、お前に教えた人は馬達の気持ちをよく理解してるのだろう。だからここまでしっかりと世話ができるようになってると思うぞ。教えてくれた人に感謝しないとな」

「はい、何かお土産でも買って帰ります」


 ラムにはペリシアも世話になってるからな。それくらいはしないといけないか。


「ヒュペリトでか?う~ん、あそこはお土産といえる物は……あったかな?」

「特産品とかは?」

「特産品か?あれは特産になるのか?……まぁあれだ。行けばわかる。それよりも、俺達もテントを張るぞ」


 何か誤魔化されたんだけど。


 とはいえ、テントを張らなければ寝るところがないのでヴィクターと協力してお互いのテントを張った。


 食事はお昼御飯と同様、各自で済ませる。

 俺はアイテムボックスから以前買っていた串焼きとパンを食べた。


「昼間、ルイスと話していた陣形の件だがな。お前の戦闘力を確かめるのが目的だから後衛ではなく前衛で戦ってもらうことになった。君はルーベンの隣でその戦闘力を俺に見せてくれ」

「わかりました。そうしてもらえると助かります」


 これで仲間の後ろから撃つという危険はなくなったな。


「夜警は初めてなんだろ?早い時間の夜警はそこまで難しくはないからリラックスしてやればいい。但し気は抜くなよ?」

「はい、色々と教えてもらいながらやります」


 今夜の夜警は、まずフレディとイレネそして俺の3人、その後に行商人達で明け方にかけてはこちらから出すようだ。


 俺はランクが低い上に未経験者なので2人に教えてもらいながら夜警をする事になる。

 1組あたり2時間を担当するようだ。時間は星を見て計るらしい。

 魔石を使った砂時計もあるがそれなりに高級品なので普通は持っていない。

 ギルドにはあるらしいが今回は貸し出してもらえなかったそうだ。


「お前が倒した変異種ってどんな奴だったんだ?」

「蛇でしたね。ただ、胴体は1匹なんですけど頭が3頭ありました。その名の通り変でしたよ」

「3対1か。よく倒せたな」

「最初に相手の動きを止めることができたのが大きいと思ってます」

「ルイスに話してた爆発する弾ってやつか」

「はい、あれで胴体に ── 」


 と、あの時の事をヴィクターに話した。

 話を聞き終えたヴィクターは渋い顔をした後、ハァ~とため息をついた。


「原因がわかれば対処もできるんだがなぁ」


 ヴィクターは誰に言うともなく呟いた。


「変異種の件ですか?」

「ん?あぁ。ここ最近、変異種との遭遇件数が増えていてな。それに伴い被害も増加しているんだ。変異種だけじゃなくて魔物も増えているんじゃないかという話もある」

「魔物も?とすると、今回の狼も?」

「あぁ、その可能性も高いな。今回の討伐は狼の魔物を倒すついでにお前の戦闘力を確かめる他、魔物が群れている原因調査も含まれているんだ」

「……ご苦労さまです」


 おいおい、1つの事案に色んな事を詰めすぎてやしないかい?


「うちのギルドは人使いが荒いんだよな」

「まぁそう言うなよ。それだけヴィクターが信頼されているって事だろ」


 俺達のテントへフレディとイレネがやって来た。


「よく言えば、だろ?」


 やってらんねぇよと言いたげにヴィクターは肩をすくめた。


「さてと、俺も休ませてもらうかな。後は頼んだぞ」

「あぁ、ゆっくり休んでくれ。おやすみ」


 ヴィクターは焚き火の火を消してテントへ入って行き、俺は初めての夜警を始めるのだった。



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