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75話

 ヒュペリトへの道は丘を越えた辺りから林となり、少しずつ内陸の方へ道が曲がっていく。海岸から離れていくようだ。

 その林もどちらかと言えば木の少ない方で、林のかなり奥の方まで見える。

 見晴らしが言い分護衛をするには楽なところだ。


「ドルテナはこの辺り初めてよね?」

「はい、ワカミチへは行ったことがありますけど、こんなに奥まで見通せなかったですよ」

「そのお陰もあって、この辺りは護衛の人数が少なくても通れるのよ」


 イレネが後ろから付いてくる行商人の馬車の方に視線を向けながら教えてくれた。


「護衛の依頼ってランクDからでしたよね?」

「ええそうよ。だからヒュペリトまでは入門編ね。でもシウテテは少し山へ入るから難しいかな」


 そうなるとあの行商人達の護衛はどうなんだろう。

 俺の表情を見たイレネが更に説明してくれた。


「あの人達も馬車1台なら少し無茶かも知れないけど、2台で護衛6名なら可能ね。だから協力してシウテテまで行くはずよ」


 旅は道連れ世は情けってか。いや少し違うか?


 こうやって色々と教えてもらえるのは本当に助かる。俺はPTを組んでないからこの手の情報にはどうしても疎くなる。


「ところで、ドルテナはどんな武器を使うの?ずっと外套を着てるけど暑くないの?」


 武器か……。隠してもどの道戦闘でバレるわけだし、なにより《蒼弓の凜》も《疾風の牙》も誰一人として危険察知に反応している人はいない。

 その点は前回の旅と大きく違う。


 武器を見せた瞬間変わるとかは勘弁して欲しいが……。


「外套は大丈夫です。身動きがしやすいように変わった服装をしていて、それで人にジロジロ見られるのが嫌なんで外套を着たままなんです」

「へぇ。ねぇ、どんなのか見せてよ」

「み、見るんですか?恥ずかしいんで、あ!ちょっ!」


 いきなりイレネが外套を脱がそうとして捲り上げてきた。


「女性に服を脱がされている少年って周りから見たらヤバいですよ!」

「む!まるで私が痴女みたいじゃない」


 いや、どうみてもそうですから。


「見せますからちょっと待ってて下さい」


 そう言って俺は外套を脱いで戦闘服を見せた。


「変わったデザインだけど、普通の服よね?そんなので戦うつもりなの?いや、戦ってたの?」


 大体予想通りの反応です。

 普通は俺も一応持っているレザーアーマーや、それの一部を金属類でカバーした物、又は鎧などだ。


「でもいい色を出してるわね。これなら草原や森の中に入ると擬態化できそうね。この生地は何?今まで見たことないわよ」


 見た目は意外と受け入れられたな。


「にしてもこれだと相手の攻撃を受けた場合防げないわよ?」

「ちょっと変わった生地なんである程度のダメージは防げますよ。それよりも俺の場合は動きやすさが重要なんで」


 ダメージはほぼ完璧に防げるんだけどね。そんなこと言えないけど。

 それに戦闘服を着てないと銃の衝撃に耐えられそうにないよ。


「ふぅ~ん。どこで手に入れたの?」

「あぁ……それは言えないんです。すみません」


 日本ならあるだろうけど、日本に行く方法がないからね。


「この生地なら私も欲しかったなぁ。それで、武器は何を使うの?動きやすいようにそれを着ているって言ってたけど」

「えっとですね、たぶんお見せしてもわかってもらえないと思うんですけど……」


 そう前置きしてからハンドガン【FN Five-seveN】とサブマシンガン【FN P90】を取り出した。


「…………何それ?」

「俺の武器です」

「…………は?」


 イレネが俺の手元に現れた銃を見つめていた顔を上げて俺を見た。

 その顔は「あんた何言ってるの?」と書かれているようだった。


「これは魔道具と言いまして、この先から魔力の塊を飛ばして相手を倒す武器です」

「魔道具?何それ?そんな物、今まで聞いたことないわよ」


 そりゃそうですよ。そもそもこれは魔道具じゃなくて銃なんです。でも銃なんてこの世界にないし。


「珍しい物だと思いますよ。あ、因みに、この魔道具達は俺の魔力が引き金になってますから、他の人が使おうとしても反応しません」


 ワカミチからの帰り道、エルビラに試してもらったら、引き金は引けるのに銃弾が出なかった。


「その服といい武器といい、どこから手に入れたのよ。いや言えないのよね。それで、その威力はどうなの?弓矢くらいには使えるの?」


 自分の弓を触りながら聞いてくる。


「イレネさんのその青くて綺麗な弓がどれ程なのかがわからないので何とも言えませんが、今まで何度となく俺の力になってくれていますよ」


 正直、弓矢なんかの比じゃないけど、そんなこと言えません!


「そうよね、そうじゃなかったら今回の討伐隊の話もなかったわけだし」

「はい。あ、でもそのせいで皆さんに狼の魔物討伐を押し付けてしまったんですよね。すみません」


 ヴィクターからギルドで討伐隊の指名をしたと聞いた。予定にない事をさせたようで申し訳ないと思ってる。


「あら、そんなことはないわよ。私達もラッキーだったのよ。今回の指名依頼を終えたらランクアップ試験を受けられる仲間がいるの。それはお義兄さんの所も同じよ。どちらかと言えば私達の方がお礼を言うべきかもしれないわね。ありがとう」

「いえ、そんな!でも帰るまでが仕事ですから、しっかりとやりましょう」

「いいこと言うわね。その通りよ。皆無事に帰りましょうね」




 ワカミチの時とは違い、お昼まで休憩なしで進んだ。山道ほど険しくないのが理由らしい。


「さてと、馬の世話は任せてもいいんだな?」

「ええ、乗せてもらってるだけだと嫌なんで、これくらいはやらせて下さい」


 ずっと馬車に乗ってるだけなのが申し訳なくて、昼の馬の世話は俺がかって出た。

 とは言ってもこの辺りは草も豊富なので餌の心配もない。

 水は近くにある小川から持ってくる。そして馬をブラッシングしてあげれば終わり。


 皆がお昼御飯を食べているところへ合流して俺も食べる。


 《疾風の牙》と《蒼弓の凜》はリーダーが兄弟と言うこともあり、よく合同で依頼を受けるらしく、メンバー同士とても仲がいい。

 弟のフレディは元々《疾風の牙》にいたらしく、イレネとの結婚を機に《蒼弓の凜》を立ち上げたそうだ。

 今回の討伐が終われば、ルイスとハコボがランクアップ試験を受けられるそうだ。

 勿論どれだけ活躍したかにもよるが、ほぼ間違いないらしい。

 その辺りは試験官のヴィクターが言っているので間違いないだろう。


 ルーベンとフレディ、妻のイレネはランクCで他のメンバーは全員ランクDだそうだ。


「さてと、ドルテナ、さっきの話だけど食べ終わったようだから見せてくれる?」

「わかりました。あちらの方に伝えた方がいいですか?」


 一緒にヒュペリトへ向かっている行商人達の方を見た。


「大丈夫よ。既に話してあるから」

「そうですか。なら準備しますね」


 イレネに銃の使っているところを見たいと言われたので、お昼御飯を食べ終わったら見せると約束していたのだ。


 15m位離れたところにある木にナイフで×印を付けて皆の所に戻る。

 俺の武器の試射をする際に音が出るからと知らせていた行商人達も、各々の馬車の近くからこっちを見ていた。


「あそこに付けた×印を的にして撃ちます。多少音が出ますのでそのつもりで」


 FN Five-seveNをサプレッサー付きで取り出し、スライドさせて構える。

 呼吸を整えて引き金を引いた。


ー タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ ー


 うん、命中率も悪くないな。


「こんな感じですね」


 後ろを振り返って皆を見ると様々な表情でこちらを見ていた。

 あんぐり口を開けている人、渋い顔をしている人、にやけている人。


「…………」

「凄いな」

「あぁ、あの威力はとんでもないぞ」

「矢の早さなんか比較にならない」

「だが音がな」

「それでも戦闘中なら問題ないだろ?」

「射程距離が短くないか?」


 俺の武器の品評会が始まってしまった。

 ランクCやDの人達だけあってちゃんと問題点なんかも出てきているようだ。

 銃声はこれ以上小さくならないしね。俺も隠密行動には向いてないと思うよ。


「ねぇ、確かもう1つ違う武器を持っていたよね?それは見せてくれないの?」


 FN P90を見せていたイレネがそれも見たいと言ってきたので「いいですよ」と答えた。

 一応こっちもサプレッサー付きで取り出した。


「これは少し遠くまで狙えるので、さっきの木より遠い木に当てられます。イレネさん、どこか遠くの木に矢を当ててもらえますか?それを的にしますので」

「わかったわ。どれでもいいの?」

「はい、皆さんが見えるならどこでも」


 遠くの木まで×印を付けに行くのは面倒なので、イレネに矢を当ててもらうことにした。


 イレネが矢を構えて弓を弾くとヒュッ!と鋭い音と共に50m位離れた木に突き刺さった。


「これでいい?」

「はい、ありがとうございます。では行きます」


 FN P90を構えてイレネの矢を照準に合わせる。

 折角なのでフルオートで試射する。決してストレス発散目的ではない!……訳でもないが。

 呼吸を整えて引き金を引く。


ー タタタタタタタ ── カツン ー


 くぅ~!何度やっても気持ちいいわぁ。


 イレネの矢は銃弾を浴びて砕け散っていた。


「こんな感じです。因みに、あれよりも遠くても狙え…ま…す」


 振り返るとみんなあんぐりと口を開けて固まっていた。

 1番早く再起動したのはヴィクターで、ここで時間をこれ以上使うと後が大変だと言うことで皆に出発を促した。


「そ、そうだな。とりあえず先を急ごう。よし、ほれ!出発の準備だ」


 ルーベンが指示を出して昼休憩は終わりとなり、今夜の野営地に向けて出発した。



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