74話
「じゃぁ行ってきます」
「テナー忘れ物はない?」
「大丈夫だよ、お母さん」
「お兄ちゃん、お土産よろしくね!」
「いや、遊びに行くんじゃないんだから」
「いってらっしゃい。お早いお帰りをお待ちしてます」
「うん、できるだけ早く帰ってくるよ」
ヒュペリト周辺の狼の魔物討伐に出かける朝、一葉の前で母とペリシアそしてエルビラに見送ってもらう。
「じゃぁね」
そう言って手を振りながら西門へ向けて1歩を歩き出したとき、エルビラが急に後ろからガシッと抱きついてきた。
「お願いだから無事に帰ってきてね。ランクアップなんかよりあなたの命の方が大切なの。だから絶対に帰ってきて」
俺はエルビラに向き直してしっかりと抱きしめた。
「あぁ、必ず無事に帰ってくるよ。君を1人なんかにするわけないだろ。エルビラの方こそ俺が側にいないんだから気をつけてな」
「うん」
エルビラの頭を撫でて体を離した。
本当ならキスをしたかったが、母の目の前でそれは流石にできなかった。
でも出発前にエルビラの部屋でたくさんしたから、それで満足なんだけどね。
「今度こそ行ってきます」
俺は集合場所となる西門へ向けて歩いて行く。途中振り返るとまだ手を振っているのが見えた。俺も見えなくなるまで何度か振り返り手を振る。
さぁ、無事に討伐を終えてランクアップするぞ!
荷物の準備は既に用意できている。
野営の為のテントや薪、着火剤から飲み水。この飲み水はワイン用の樽を5個程買ってきて、井戸の水を満タンにしてある。
食料も飲食店や屋台を片っ端から廻って購入していったので、アイテムボックス内には1ヶ月ではとても食べきれない量が入っている。
他にも必要と思う物は買っておいた。
それと治療薬はヘイデンさんの遺品とお店の商品をエルビラから買った。
エルビラはお金はいらないと言ってたけど、それは薬師としてのヘイデンさんに悪いからと言って受け取ってもらった。
あれだけの額があれば俺がいない間でもかなり余裕で暮らせるはずだ。
今回の討伐には間に合わないけどいつも着ている外套の替えを発注しておいた。
俺の裾丈などをあわせてもらうからオーダーメイドにしてもらった。
そして今まで使ってなかった武器も試した。それはハンドグレネード【M67】所謂手榴弾ってやつだ。
何故今まで使わなかったのか……怖かったのよ。
爆発物を自分で投げるって怖いって!マヂで!
昔から物を遠くに投げる事が苦手だったからグレネードが近くで爆発したらヤバいでしょ?
練習の時も大きな岩を盾代わりにして投げたさ。
でもね、この体のお陰なのか戦闘服のお陰なのかわからないけど、前世では考えられないくらい遠くに投げられたのよ!
軽く100mは越えていたと思う。
正直、遠くで爆発したお陰で破壊力が一切分からなかった……。
少しずつ近くに投げるようにしていった結果、障害物がない場合だと40m位まで破片が飛ぶことがわかった。
手榴弾って爆風で相手を攻撃する物と思ってたけど、実は爆発で金属片を飛ばして致命傷や殺傷を与える物らしい。
で、その破片が40m位の位置で爆発した時に、盾代わりにしていた岩に当たったんだ。
このグレネードを使うときは気を付けないといけないと思ったね。
母とエルビラには生活費として金貨を数枚渡してある。
母は仕事をしているから特に問題はないがお金があるに越したことはないし、エルビラの事もあって渡しておいた。
エルビラは俺が買った治療薬の代金もあるが、俺の婚約者ということで当面の生活費として渡した。
ヘイデンさんの残してくれたお金もあるが、俺が帰るまでに何があるかわからないからね。
さて、予定の時間より少し早く着いたが既にギルドのヴィクターが馬車と共に待っていた。
「ヴィクターさん、おはようございます。早いですね」
「おはよう。お前も早いではないか。荷物はないのか?」
「はい。全てアイテムボックスに入ってますので」
「あ、そうか。そういえばアイテムボックスの件も報告書に載ってたな。うむ、その容量は羨ましいな」
西門前には少し離れたところに2台の馬車が停まっていた。
その馬車の方を見ながらヴィクターに聞いてみる。
「あの人達も一緒に行くのですか?」
どうみても行商人にしか見えない。今回の討伐に行商人が参加するなんて聞いてないけど。
「いや、俺達と目的地は別だ。彼等はシウテテまで商売に行くらしい。とはいえヒュペリトにも寄るからそこまでは俺達と固まって移動するがな」
行商人にもそれぞれ3人の護衛がいるようだ。
ヴィクター曰く、同じ方向に行く場合は他者の馬車と一緒に行動するらしい。その方が結果的に戦力が高くなり、獣や魔物にも十分対応できるんだそうだ。
俺がワカミチへ行くときは偶々いなかっただけのようで、殆どの場合は他者の馬車がいるそうだ。
ヒュペリトの先の村となると……
「最西端の村って事ですよね?」
「あぁ、マホンが都市としては最西端だが村となるとシウテテが最西端だ。あそこの住人の殆どは国境の監視を仕事にしてる」
ヴィクターに話を聞いていると馬車が2台近づいてきた。
「だいぶ待たせたか?」
「いや、そうでもない。紹介しよう。彼が話していたドルテナだ」
ヴィクターが馬車でやって来た冒険者に俺を紹介した。
「初めまして、見習い冒険者のドルテナです。足を引っ張らないように頑張りますのでよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。俺はルーベン、《疾風の牙》のリーダーをやってる。後ろにいるのがレオカディオ、ホスエ、バリー、ルイス」
ルーベンに紹介されたメンバーとそれぞれ握手をする。
ルーベン、レオカディオ、ホスエが盾と剣。バリーが槍で、ルイスが弓だ。
「それから、後ろの馬車は俺の弟のフレディだ」
「《蒼弓の凜》のリーダーをやってる。よろしくな。妻のイレネだ。後ろはマイク、サイラス、ハコボだ」
今回の討伐隊で唯一の女性はフレディの妻なんだ。背中に青い弓を背負ってるからあれがPT名の由来だろうな。
フレディ、ハコボが槍。マイク、サイラスが盾と剣だ。
道中はヴィクターが仕切り、戦闘時には《疾風の牙》のリーダー、ルーベンが指揮を執ることになった。10人も冒険者がいれば20数匹の狼相手には十分だろう。
「自己紹介も済んだようだから出発するぞ!」
道中を仕切るヴィクターが出発を告げた。
門を見ると既に開いており、一緒にヒュペリトへ向かう馬車が手続きを終えて門の外へ移動し始めていた。
俺はギルドの馬車に乗り込む。ヴィクターが御者がするようだ。
馬車の中にはヴィクターの物なのか野営の道具等が車内の2/3を占めていた。
「ヴィクター、午前中はこっちに乗るわ。構わないでしょ?」
「ああ、こっちは構わんぞ」
「では、お邪魔するわね」
そう言って《蒼弓の凜》のイレネが馬車に乗り込んできた。
彼女が乗り込んだのを確認したヴィクターが馬車を動かし始める。
「あ、どうぞ。ちょっと狭いですけど」
「ありがとう。って何この荷物は。これ2人分?」
「いえ、ヴィクターさんの荷物だけです。俺、あ、いや、私のはアイテムボックスに入ってますので」
「そんなに畏まらなくてもいいわよ。これから共に戦う仲間なんだからいつも通りに話なさい」
ついつい俺って言ってしまったが構わないらしい。
「ではお言葉に甘えて」
「クスッ。本当に13歳とは思えないわね。ヴィクターの荷物だけでこの量って多過ぎよ?」
いくら討伐任務とはいえこんなにもいらないと俺も思うんだよな。
「それは警備隊から預かってるやつだ。ヒュペリトの警備兵宛の荷物だよ」
なるほど。ならここに置いておかなくてもいいよね?
「それなら俺が持っておきましょうか?そうしたら車内が広くなりますし馬の負担も軽くなりますから」
「そうだな、まだ余裕があるなら頼む」
では早速っということで車内にあった荷物を全てアイテムボックスへ入れる。これでゆったりと座れるな。
「凄いな。こんなにも収納できるアイテムボックスとは」
「アハハハ、よく言われます」
ここ最近は色んな人の前で大量の物を出し入れしてるから自重しなくなってきている。
警備兵にカードを見せてヒュペリトへ向けて出発した。




