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71話

 時は少し戻り、ドルテナがマホンへ向けてワカミチを発った頃。

 盗賊団と変異種撃退についてミキヒの冒険者ギルドからマホンのギルドへ連絡が入っていた。


 なぜワカミチ村からの連絡ではなくミキヒからかというと、ワカミチ村には出張所しかなく他の都市のギルドとの連絡手段がない。

 その為、ワカミチ村の出張所を管轄しているミキヒのギルドがマホンへ連絡してきたのだ。

 因みにダウゼン村とツルモ村はマホンのギルドが管轄している。


 朝一番にその報告書を部下から渡された男は椅子に深く腰掛け、眉間に皺を寄せながら読んでいた。


「盗賊団か……。報告書の通りだとかなり大きな組織かもしれんな。ギルドを通してくれていれば被害にも遭わなかっただろうし、我々も盗賊団がここまで大きくなる前に気付くことができただろうに」


 直接冒険者に依頼することは特に珍しくはない。だがそれはその冒険者を知っているから問題が起きにくい。

 今回のように初めて会う冒険者に仕事を依頼することはリスクが大きすぎるため普通はしない。

 しかし今回の貸し馬車はマホンでも規模の大きな方で、そこの従業員に勧められたことで信用してしまったのだろうと男は考えていた。


「盗賊団の洗い出しは警備兵がやってくれるだろう。それで、問題はこっちだな……」


 盗賊団の報告書とは別件の報告書を見て更に眉間の皺が深くなる。

 その報告書にはワカミチ付近で蛇の変異種が発見され1人の男により撃退されたことが書かれていた。


「ここ最近、変異種の発見数が少し増えてるのは気になるところだな」


 マホンに限らずこの国全土から同じような現象が報告されている。また周辺国からも同様の話が聞こえてきており、この大陸全体で変異種の数が増えていると予測されていた。


「今のところ山奥以外での出没例もないし、変異種もランクC10数名で倒すことができているから優良な素材が多く確保できていると考えれば喜ぶべきか」


 変異種からは様々な素材が取れるだけでなくその肉質も期待できる。

 男は変異種の肉のうまさを思い出しながら報告書のある箇所を見て大きくため息をついた。


 そこには今回の変異種を倒した冒険者の事が書かれていた。

 変異種と戦っていたランクEの冒険者が倒された後、ほぼ無傷だった変異種をランクFの冒険者が1人で倒した。その冒険者は13歳の見習い冒険者で変異種による怪我は一切なかったと。


「見習い冒険者ランクFのドルテナ。以前、部下から話を聞いたドルテナで間違いないだろう。確かに見習いでランクFになったことは素晴らしいが、だからといって所詮ランクFが変異種を撃退するとは考えられん」


 ドルテナがランクFになった当時、13歳でランクFになった見習い冒険者としてドルテナの事はギルド内で話題となり、会議の場でも新鋭の冒険者として話が出たことがあった。

 しかしドルテナの詳しい内容ではなく、あくまでそういう見習い冒険者が現れたという程度だ。

 それでも男はその人物について詳しく知るために部下へ話を聞いていた時のことを思い出していた。





 会議が終わり一通り書類が片付いた頃、話題の冒険者がどのような人物なのかを確認するために、男は備え付けのベルを鳴らして部下を呼んだ。


「お呼びでしょうか?」

「見習い冒険者のドルテナという人物のことを知りたい。詳しくわかる者を寄越してくれ」

「畏まりました」


 部下が一礼をして出て行った後、程なくして1人の受付嬢がやってきた。


「失礼します。見習い冒険者のドルテナさんの件でお呼びと伺いましたが」


 部屋に入って来たスタッフが自分の思っていた人物ではないのを見て男は首を傾げる。


「アビー、君は査定部のはずだが」

「はい、そうです。ドルテナさんと一番関わりがあるのが私だったので呼ばれたのですが」

「そうか。普通は依頼を管理する斡旋部の受付嬢が来ると思っていたんだが」


 斡旋部は依頼を管理している部署で冒険者見る依頼ボードもここの管理下になる。その為、依頼をこなす冒険者との接点が一番多いのが斡旋部の受付嬢達だ。

 だから男も斡旋部の受付嬢が来るものとばかり思っていた。


「普通ならそうだと思います。ただ、ドルテナさんはギルドの依頼を殆ど受けておられませんので素材の売却以外でギルドへ来られることは」

「なに?どういうことだ。ギルドの仕事をせずにランクがFまで上がったというのか?」


 ギルドからの依頼を受けていないという、冒険者としてありえない内容に思わずアビーの話を遮った。


「その、全くしていないわけではなくて、常時出されている薬草採取の依頼はされておりました。ただ……」

「ただ?」

「持ち込まれる薬草の品質や鮮度があまりにも高いので、通常より多いギルドポイントを加算しておりました」


 常時出されている依頼のため薬草採取のギルドポイントは決して多くない。

 だがドルテナの持ち込む薬草は品質や鮮度があまりにも高かったため、査定部の判断で通常より多くのギルドポイントを加算していた。


「だとしても薬草採取のポイントは高が知れている。それだけでランクFには成れないだろ」

「はい。それ以外の功績が影響していると思います。ランクHの時ソロでウサギの魔物を倒していたり、連続レイプ犯を3名を捕まえたのもドルテナさんでした」

「うむ、それだけポイントを稼げばランクFにもなるか……」


 報告を聞いた男は目をつむり腕を組んだまま何かを考えてた。


 ウサギとはいえ魔物のみならず、自分よりランクの高い一般冒険者まで倒してしまうとはな。

 そうなるとかなり腕が達ようだな。もしも扱いを間違うとマホンにとって危険人物となるか……。


「このドルテナとはどのような人物なんだ?アビーの感じたままを教えて欲しい」

「えっと、至って普通の男の子って感じです。喋り方とかが13歳にしては落ち着いています。ランクアップしてもそれを鼻にかけるようなこともしませんし、人を見下すこともありません。礼儀正しい方と思います」

「そうか。なら心配いらないか……」


 力を持つ人間はギルドとして歓迎すべきだが、時にその力の使い道を誤り犯罪に手を染める者や国に敵対する存在となることもある。

 この男が気にしているのはその辺りのことだ。


 聞いた話の通りだとすると、今のところその心配はなさそうだな。気にかけておく必要はあるが……。


「わかった。ありがとう。仕事に戻ってくれ」

「はい、それでは ── 」

「あ、もしドルテナが何かトラブルに巻き込まれそうになった場合は直ぐに報告に来てくれ」

「わかりました。何かあればギルドマスターへ報告します。では失礼します」


 そう言ってアビーは部屋を出た。





 部下からギルドマスターと呼ばれた男は、10日程前の話を思い出してため息をついた。


「ドルテナがワカミチ村へ行くという報告は受けていたが、向こうでトラブルに巻き込まれるとはな。それも盗賊団と変異種をソロで撃退。ランクアップは確実だな」


 盗賊団を生け捕りにして捜査に貢献。更に変異種をソロで撃退し素材をギルドへ売却。これだけのギルドポイントでランクEへのランクアップに必要なポイントは足りてしまう。


「ランクEの見習い冒険者なんて聞いたことないぞ。嬉しい悲鳴ってやつだろうがな。だがランクEなのに見習いって訳にはいかんだろうが、その辺りは他の者達の意見を聞いてからだな」


 この後予定されている会議でドルテナのランクについて話し合われる事になっていた。


 そしてランクFの見習い冒険者をランクEにさせるべきか否かという、前代未聞の事案に会議が紛糾することとなり、その結論が出たのは真夜中だった。



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