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70話

「ありがとうございました」


 ヘイデンさんの葬儀が無事に終わり、神父さんに俺とエルビラは揃って頭を下げる。


「まだ成人していない娘さんを残して旅立たなければならないというのはとても気掛かりなものです。しかし幸いにして将来が有望な方がお側にいるようですし、お父様としても安心して神の元へ召されたことでしょう」


 神父さんの言葉を聞き、お互いの顔を見て頷きを返す。


「はい、旅立った父に心配をかけないよう頑張っていきます」

「私もヘイデンさんとの約束をしっかりと守れるように、冒険者として成長するよう努力していきます」

「私も応援していますので、何かあればいつでもここへお出でなさい」


 俺達はもう一度神父さんへ頭を下げて教会を後にした。


 教会を出て俺達はエルビラの家へ遺品の片付けに向かう。

 予定だと、明日からヘイデンさんの遺品を片付けるはずだったのだが、商品等を長期間放置するのは防犯上よくないと母から言われたのだ。


 旅に出る前に盗難防止装置のある倉庫へ商品を移動させてあるようだが、それでも早いほうが良いだろうということで、今日のうちにできるところまでやってしまおうということになったのだ。


「ドルテナ君、お父さんが持っていた荷物を出してくれる?」

「それならこの木箱に入ってるよ」


 俺はアイテムボックスから遺品を入れた木箱を出した。


「えっと……あ、これね」


 木箱から取り出したのは凹凸のある木片で、ぱっと見たところ割符のように見える。


「それは?」

「うちの倉庫の鍵なの。これを倉庫にはめると開くようになってるの」

「どんな仕掛けで開くの?」


 日本で鍵といえば棒状だったけど、これは凹凸のある木の板にしか見えない。どこかにはめて回すような形には見えないのだが……。


「この中には半分に割られた魔石の破片が入っていて、倉庫には同じ魔石の残りの破片が入っているの。それが反応して鍵が開くようになってるそうよ」


 魔石を使ったセキュリティカードかよ!スゲぇな。


「そういう防止装置があるんだね。知らなかったなぁ」

「そうね。これってかなり高価な物らしいけど、うちには高価でなかなか手に入らない珍しい薬剤とかもあるからこれくらいはしないとダメってお父さんは言ってたわ」


 魔石を丸々1つ使う時点で高そうだよね。

 エルビラの説明を聞いているうちに倉庫に着いた。


「ここが我が家の倉庫なの。それでさっきのカードをこの凹みに入れて魔力を通すと」


ー カチャ ー


 エルビラがカードをはめて魔力を通すと解錠したような音が聞こえた。

 その音を聞いたエルビラが倉庫のドアを押し開けたその先に10坪くらいの広さの空間があった。


「これは凄いな。流石薬剤店といったところか……」


 倉庫内の壁が全て棚になっており、棚には大小様々なサイズの木箱が所狭しと並べられていた。

 木箱の外側には様々な素材の名前が書かれていた。

 部屋の中央には作業をするためだろうか、テーブルと椅子が置かれていた。


「お父さんは頼まれた商品は必ず納品するようにしていたから、こんなにたくさんの素材を常に用意していたの」

「普通はこんなに大量の素材は持ってないって事?」

「うん。これの半分位じゃないかな」


 これだけの種類の在庫を抱えるとなると管理も大変だっただろうなぁ。


「ドルテナ君、ここの棚にある木箱は全部お願いね」

「わかった」


 そう言って置かれた木箱を次々とアイテムボックスへ入れていく。

 倉庫内にあった大量の木箱は5分とかからず全てアイテムボックスへ入った。


 俺が次々とアイテムボックスへ入れていく間、エルビラは一言も喋らなかった。

 その姿はとても寂しげに感じられた。


「大丈夫?」

「うん、ありがとう。じゃ次はお父さんの部屋ね」


 倉庫を出てヘイデンさんの部屋へ行くと書斎兼寝室だった。

 本棚とクローゼット、ベッドはそのままアイテムボックスへ。

 事務机の上にあった書類などは机の引き出しの中へ片付けて一纏めにし、他の小物類は予め用意してあった木箱へまとめて入れてアイテムボックスへ入れる。


 入れ忘れがないか部屋を見回すとエルビラが小さな箱を持っていた


「それは?」

「これは私が産まれた記念に両親が作ってくれた筆なの。この毛の部分が産まれたときの私の髪の毛なんだって」

「それはまた珍しいね」


 日本でも産まれたときに生えていた胎毛で筆を作り、子供の健やかな成長と健康を願うという筆を作る人が結構いた。

 俺のお店でもそういう筆の代理店をやっていたから、毎月数名の赤ちゃん連れのお客さんが来られてた。


 でもこっちの世界でもそういう事をしている人がいるとは思わなかった。


「お父さんが大事に取っておいてくれたのをさっき見つけたの」

「そっか。それはエルビラが持っておく?」

「うん、そうする」


 室内の物を全てアイテムボックスへ入れ終えたのは日が落ちる前だった。


「日も暮れそうだし、今日はここまでにしておこう」

「そうね。残りは明日1日あれば何とかなりそうよ。お義母さんとペリシアさんも手伝ってくれるし」


 明日は母とペリシアも朝の仕事が終わったらエルビラの片付けを手伝ってくれることになっている。

 俺はその間にギルドへ行って変異種の討伐報酬を受け取る予定だ。


「戸締まりをして晩御飯を食べに行こうか」


 今夜は2人で食べてから帰ることにしていた。

 特にどの店に行くか決めていなかった俺は、一葉への帰り道で目にとまった店に決めた。


「ここはどう?大衆居酒屋のように五月蠅くないからゆっくり食べられるし」

「……ミキヒの時もそうだったけど、ドルテナ君が選ぶお店って私達の年代が行くような場所じゃないよね?大体の人は普通の居酒屋とかじゃない?」


 居酒屋といっても大衆店から高級店まである。

 大衆店は値段も格安だが客の質も悪い。酔って喧嘩は当たり前、前世で言うところの麻薬やドラッグといった物もこのレベルの店では手に入る。

 因みに、この世界でも所謂麻薬やドラッグといった物は違法とされている。が、一種のガス抜きとして黙認されていたりもする。


 特にこういう店の場合は、真面な見習い冒険者は入らないというのが一般的な考え方としてあり、もし入るのであれば自己責任という認識なのだ。


 中級店ともなると酔っぱらいはいるが喧嘩なんかは起きない。ただ、ランクも高くプライドも高い冒険者等もお客として多いため、ひよっこの見習い冒険者が行けば絡まれる可能性は否定できない。

 勿論ギルドから見習い冒険者へ絡んだりする行為は禁止されているが、いくらギルドとはいえ街中全てを監視できているわけではない。


 そして俺達が入ろうとしているのが高級店と言われているお店なのだ。


 このレベルともなると料金も高くなるが、来店する客もそれなりに品位のある人達が多くなるため落ち着いて食事ができる。

 これ以上レベルの高いお店となるとドレスコードを求められるようになる。


「態々絡まれるような店に行くことはないだろ?ほら、入るよ」

「あ、待ってよ」


 ドルテナ君ってお金の使い方が結構荒いのよね。やっぱり年上の私がしっかりしなきゃいけないわね。


 お店に向かって歩き出したドルテナに慌ててついて行くエルビラはそう思うのであった。


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