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63話

 全員が俺の方を向いているために、そいつの姿を真面に見られたのは俺だけだった。


 そいつは首を高く擡げてグワァッと口を開けた。開け放たれた口からは蛇独特の舌がチョロチョロと出ていた。


 ノーラ達は俺の視線がパメラよりも高くなっていくのを不思議そうに眺めていたが、そいつの陰が馬車にかかったことでパメラも気が付き上へ振り向いた。


 パメラの視線の先には頭ではなく首が見えていたのだろう。少しずつ上の方に視線を動かしてその正体を確かめようとした。

 そしてそいつと目が合った瞬間、目で追えない速さでパメラに襲いかかりバクっ!と一飲みにしてしまった。


 流石に全員気が付いたようで後ろを振り向き、相手を見た瞬間に固まってしまった。


「な………」


 目の前にいるのは巨大な蛇。前世でも巨大な蛇に襲われる映画があったけど、その蛇よりもデカい奴だ。

 胴体の直径が1m以上はあるだろう。全長はわからないが20m以上はあるんじゃないだろうか。

 そして此奴らの頭が三角形ぽく見えるから何となく全体がマムシのようなイメージだ。

 ここまでデカくなると俺が小さくなったかのような錯覚になるな。


 こいつは間違いなく変異種だ。大きさもだが通常ではあり得ない部分がある。

 それは頭が3つあるのだ。頭3つに胴体1つという八岐大蛇の3匹バージョン。目も赤くなっている。


 はい、変異種確定です。

 

 人間を一口で食べることができるほど巨大な顔が3つ。その顔がそれぞれ別の動きをするから3匹の蛇と戦うのと変わらない。


 変異種の登場に俺達が固まっている間、蛇は上を向いてパメラを咀嚼しながら飲み込んでいった。


「パ、パメラ!!」

「ノーラ!無茶だ!」


 ノーラはセベロの静止を聞かず、側にいたエルビラを突き飛ばして、パメラを飲み込んだ方の蛇へ剣を向けて駆けていった。

 飲み込まれた直ぐ後ならまだ生きているかもしれないが、1人で太刀打ちできるような相手ではない。


 俺はこいつらがどうなろうと知ったこっちゃない。

 エルビラとヘイデンさんを助けなければならんのだよ。


 エルビラの元へ駆け寄ろうとしたその時、エルビラの近くにいた蛇の口がグワァッと開いた。

 さっきパメラを飲み込んだ時と同じ動作に背筋がゾワゾワッ!となった。


 ヤバイ!と思ったが、エルビラが近すぎて引き金を引くことを躊躇ってしまった。


 少しだけ頭を擡げた蛇が飛びかかる寸前、ヘイデンさんがエルビラに体当たりを食らわして突き飛ばした。

 エルビラとヘイデンさんの位置が入れ替わったところへ蛇が襲いかかりバクッ!と口を閉じた。


「ヘイデンさん!!」


 蛇は急に現れたヘイデンさんに驚いたのか分からないが早めに口を閉じたお陰で、ヘイデンさんの肘辺りを食い千切る程度で済んだ。

 猿ぐつわで声が出せないはずなのに、ヘイデンさんの絶叫が聞こえる。

 ヘイデンさんから蛇が離れたタイミングで手にしていたFN P90の引き金を引いて全弾ぶちかます。


ー タタタタタタタ─── ー


 顔や首の部分に当たってはいるのだが、たいしてダメージを与えられていないようだ。


「チッ!顔の皮が厚いって言いたいのかよ!」


 銃弾は皮膚に食い込んではいるものの、FN P90の弾では厚い皮を突き破ることはできなかったようだ。それでも目に当たるのを嫌い後退してくれた。


 この間にエルビラとヘイデンさんの襟首を掴み、ズルズルと引きずりながら蛇との距離を稼ぐ。


 ノーラ達は2匹の蛇にかなり苦戦を強いられていた。

 セベロが盾で蛇の攻撃をいなして、その隙にノーラとアダンが攻撃を加えようとしている。

 だがパメラのことが気になって仕方がないノーラが、盾の防御ラインから抜け出してパメラを飲み込んだ蛇の胴体目がけて剣を振り抜いた。


ー ガン! ー


 ノーラの剣は蛇の皮膚に傷ひとつ付けることなく弾かれてしまった。

 まさか自分の剣が皮膚に弾かれるとは思いもしなかったノーラは、その出来事に唖然としてしまっていた。


 そしてほんの少し動きを止めたその瞬間を狙っていたかのように、別の蛇がノーラを食べようと口を開いて襲いかかった。


「ノーラ!避けろ!」


 アダンの声で我に返ったが、わずかに動きを止めたことが命取りになった。

 慌てて後退しようとしていたノーラの左側から大きく口を開けた蛇が襲いかかり、カブッと咥えられてそのまま上へ持ち上げられた。

 しかし蛇はノーラの胴体部分だけを咥えていたため、自由に動く両手で剣を掴み近くにあった眼に向けて剣を突き刺した。


 皮膚とは違い眼は硬くなかったのか剣先20㎝位までズブッと刺さった。


 変異種とはいえ、これは堪えたのか痛みに耐えきれず蛇は大きく口を開けた。

 だが口に咥えられていたことで上を向いている蛇に飲み込まれていなかったノーラは、急に支えがなくなったことで一瞬の浮遊感の後、大きく開いた蛇の口内へ落ちていった。


「キャァァ……」

「チクショー!!」

「アダン!下がれ!」


 ノーラまで飲み込まれたことでアダンの何かが壊れたのか、無謀にも突撃をかましに行ってしまった。

 セベロが下がるように言っても聞いていない。

 狙いはノーラの剣が左眼に刺さったままになっている蛇のようだ。

 右側に大きく膨らみながら蛇の死角になっている左側に回り込んで攻撃を仕掛ける。

 相手から見えない位置取りは基本だろう。

 だが相手は1匹ではない。いや、胴体は1つだから1匹でいいのか?

 体はひとつでも頭は3つあり、それぞれ個別に行動できるのだ。だから目の前の頭だけ見ていてはいけない。

 しかし頭に血が上って周りが見えなくなったアダンには分かっていない。


「うおりゃぁ!」


 気合いと共に振り下ろした剣はわずかながら皮膚に傷を付けることができた。

 男ということもありノーラより力も剣技も高かったのだろう。

 続けざまに斬りつけていき、少しずつ皮膚を削っていったがそれまでだった。


 巨大な蛇にしてみれば蚊に刺されている程度なのだろう。

 アダンが背を向けている方向にいたパメラを飲み込んだ蛇は、これ幸いとアダンを食べるべく口を大きく開けて静かに近づいていった。


 それに気が付いたセベロがアダンの背中を守るために前へ出る。


「セベロ?!」

「バカヤロー!敵に背中向けるな!」

「っく!すまねぇ!」


 アダンとセベロが巨大な蛇を相手にしている間に、ヘイデンさんの治療を急ぐ。

 蛇から距離を取った為、俺達は蛇のターゲットから一時的に外れたようだ。


 二人を縛っているロープを手間取りながら切って、以前ヘイデンさんから貰ったクラス4の治療薬を腕に振りかけるが、怪我の範囲が広くて足らない。


「ちっ!足らないか……ヘイデンさん!クラス4以上の治療薬持ってませんか!」

「ハァハァ……これを……」


 アイテムボックスから取り出した治療薬を受け取り残りの傷口へ振りかける。


「……ウッ!……」


 傷口全体に治療薬を振りかけると、出血も少なくなりやがて止まった。痛みも多少和らいだのか険しい表情をしながらも上半身を起こした。


「お父さん!」

「とりあえず血は止まりそうだな」


 ヘイデンさんが片腕でエルビラを抱き寄せる。


「ヘイデンさん、辛いでしょうがもう少し離れますよ。エルビラもな」


 俺はヘイデンさんに肩を貸して蛇からできるだけ離れた。

 木を背もたれにしてヘイデンさんを座らせる。

 蛇は目の前の2人との戦いに気を取られてこちらには来そうにないな。


「ヘイデンさん、あれは蛇の変異種で間違いないですよね?」

「……ハァハァ……ええ、恐らくは」


 まぁそうだよな。頭が3つある時点で異常だもんな。


「それと、顔の形が三角形に見えるんですが、やはり毒持ちですかね?」

「……そうかも……一応解毒剤が……これが…効くかどうか……」


 そう言いながら解毒剤と思われる液体を飲み干した。


「エルビラ、ヘイデンさんとここにいるんだ。この辺りには獣も魔物もいない。いるのはあいつだけだ。だから決してここから動いてはダメだよ」

「行かないで……お願いよ……変異種なんかに勝てないわ!直ぐにここから逃げましょう!」


 エルビラが抱きついて離さない。離せば俺が死ぬと思っているだろう。

 胸辺りにある頭を抱きながらエルビラを説得させる。


「大丈夫、やられたりしない。マホンに帰ったら屋台のパスタ屋に一緒に行くんだろ?それにな、蛇野郎に霊長類が負けねぇよ」

「……なんですか、そのレーチョールイって……」

「人間がって事だよ。それよりヘイデンさんを頼むよ」


 もう一度エルビラをギュッと抱いてからその場から移動した。フラグは……立ってないはずだ。


 さてと、FN P90だと効いてなさそうだったからアサルトライフルのFN SCAR-Hを使う。

 俺の武器の射程は長い。態々蛇の間合いに合わせてやる必要はない。

 ただ、発砲したらこちらに意識が向くからエルビラからはしっかりと離れる。


 で、戦っている2人の方を見るとセベロしか立っていなかった。

 そのセベロも何かを庇うような動きを見せていた。


「アダンはやられたのか?」


 いや、辛うじて生きているようだ。

 セベロが庇っているのは足元に横たわっているアダンだった。まだ赤いシルエットのままなので死んではいない。


「彼奴らを助ける気は無いが蛇を放置する気もないんでね、八岐大蛇擬きには退場してもらおう」


 俺は初めて対峙した変異種との戦闘を再開した。

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