60話
略奪の旅1日目
早朝。
ノーラの元へ同行者が一人増えたと昨日のうちに貸し馬車の仲間から連絡があった。
「冒険者見習いに成り立ての坊やねぇ。依頼主の娘の知り合いってことだから彼氏か何かでしょ。その程度なら問題ないわね」
冒険者見習い程度なら大して強くない。もし暴れたとしても見習い程度は簡単に制圧できる為、今回の仕事には影響がないと判断したようだ。
「しかし娘って14歳だったわよね?ったく最近の若い奴らはませてるわね」
ノーラ達が待ち合わせ場所に着くと既にターゲットとなる薬剤店のヘイデン達がいた。
ノーラがパーティーリーダーとして仲間紹介をしていく。
パメラはそのまま幼馴染みとして、アダンはノーラの弟という設定の自己紹介を済ませた一行は馬車に乗り、一路ワカミチ村へ向けて出発する。
車内では、急遽ワカミチ村まで同行することになった見習い冒険者の様子を窺っていた。
う~ん、見た目は年相応なんだけど、見習いの坊や、ドルテナ?の仕草や反応の仕方が、13歳とは思えないくらい落ち着いてるのよね。
それでも私の胸をチラチラ見ていたから男に興味があるわけではなさそうね。
ノーラ達の今までのやり方はこうだ。
ノーラかパメラが男を虜にして情報を得る。ターゲットが品を手に入れたのを確認したらアダンかセベロが殺してブツをもらう。
死体は山奥に捨てておけば獣や魔物が処理してくれるから問題ない。
そうやってこの4人は今までやってきていた。
何度となく同じようなことを繰り返してきたが、今回の仕事は今までの仕事に比べて簡単そうだとノーラは感じていた。
既に目的のブツの入手先は聞いてあるから、本当に手に入れたかどうかさえわかればいいんだもの。ほんと楽だわ。
何を仕入れるのかを詳しく探る必要もないし、殺してブツを頂戴するだけの簡単なお仕事だわ。
今まではどこで価値があるものをたくさん仕入れたかを確認して、それを他の町に売る前に奪う必要があった。
そのためにターゲットと親密になり逐一情報を得る必要があった。
しかし今回はワカミチで仕入れるとわかっている分、かなり楽なのだ。
後はあの娘、エルビラだっけ?あれに近づいて警戒されないようにしないとね。あの坊やは抵抗されても問題ないから適当でいいわね。
ノーラは娘のエルビラを拉致する際に警戒されて逃げられないようにする為、エルビラからある程度信用される必要があった。
本来であれば、ノーラ達のランクでは受けられない護衛依頼をこなすため、移動中は本気で回りの警戒をしなければならなかった
その為、休憩所で積極的にエルビラとのコミュニケーションを図ることにした。
ふぅ。護衛の仕事はキツいわね。幸い肉食獣も魔物も出てこないから助かってるけど。
同性と言うこともあってか、エルビラはノーラと少し話しただけで彼女を信用したのだった。
簡単に信用してくれて助かるわ。家族や家業、それとあの坊やの事をペラペラと話してくれたわ。どうやら娘は坊やに片思いのようなのよ。嬉しそうに彼の話をしちゃってまぁ、腹が立つ!
エルビラは、親身に話を聞いている振りをしているノーラのことを姉みたいに感じたようだ。
その為、ノーラに聞かれたことを全て話してしまっていた。
そんなエルビラの様子を見て、ノーラとしてはこれで仕事が少しはやりやすくなると手応えを感じていた。
エルビラから同行者のドルテナが見習いに成り立てで間違いないということを確認したノーラは、抵抗されても問題なく処理できると安心した。
娘も事前の情報通りのルックスだし、スタイルも私ほどではないけどかなりいい。まだ処女だから減額されることもない。これならかなりの高値が期待できそうだわ。
高収入に期待しながら最初の宿泊地ダウゼン村を目前にしていた。
初日の夜、ターゲットにお酒を飲まして他に何を仕入れるのかを聞き出すはずだったノーラは、飯代がヘイデンの奢りだった為についつい飲み過ぎてしまう。
その結果、ヘイデンと関係を持つ予定だったノーラは完全に酔いつぶれてしまった。
それまではノーラの仕事を助けるつもりだった他のメンバーはお酒は控えめにしていた。
たが、ノーラが酔いつぶれたことで仕事の続行は不可能と判断をして、自分達も奢りである食べ物とお酒をしっかりと堪能するのだった。
◆◇◆◇◆◇
略奪の旅2日目。
ノーラ達は二日酔いが酷くて1日中寝込んでしまうしというミスをやらかした。
やっちゃったわ。でもあんなに飲んだのはいつ振りかしら。今回の仕事が終わったら美味しいものをたくさん食べたり飲んだりできる生活に戻れるのよ。
そしてアダンから、酔っ払って見習いのドルテナを勧誘しようとしていたこと。その話の流れで正体をバラしかけた事を聞かされた。
そんなことあり得ない!って言ったけど、パメラにも同じ事を言われて冷や汗が出たわ。私ショタじゃないんだけどな……。
その日の夕方、やっと二日酔いから解放されたノーラ達は、宿から離れた飲食店で明日からの打ち合わせをしていた。
とはいえ、大した内容でもなかった。ようは明日からは飲み過ぎないようにして早めに情報を得ようという程度だった。
後は、エルビラを売ることで得られる今回の報酬で何をするのか、この仕事から足を洗ってどうするのかという事を話していた。
そんな話し合いとも言えない話し合いをしていたが、外を見ると既に日は落ちており、慌てて宿に帰った。
しかしヘイデンは既に部屋で休んでいた為、ノーラ達はこの日も何もできなかったのだ。
◆◇◆◇◆◇
略奪の旅3日目。
ダウゼン村を出るときにちょっと厄介なことになりそうだった。
近くに大きい熊の魔物が出たと出発時に聞かされたのだ。ランクEのノーラ達4人には普通の熊なら兎も角、魔物のそれも大きめのサイズとなると本当にキツい。
最悪、ヘイデン達を囮にして逃げなければならないとノーラ達は考えていた。
しかし運はノーラ達に味方した。
休憩所で偶々居合わせた別のPTが熊の魔物を狙っており、出会った場合処理してくれることになった。
不安通り熊の魔物と遭遇したが、そのPTが受け持ってくれたので事なきを得た。
ツルモ村の夜、ノーラ達はダウゼンで得られなかった情報を聞き出そうとしていた。
前日、お酒は飲み過ぎないと決めていたはずなのに気が付いたらかなりの量を飲んでおり、とても情報を得られる状況ではなかった。
◆◇◆◇◆◇
略奪の旅4日目。
前日の宴会の結果、ノーラ達はまた二日酔いになって1日を棒に振るのだった。
学習能力のないノーラ達……。
私達のせいじゃないわ。タダなのがいけないのよタダが。だからといってお金を払う気はないけどね。
ただ、毎回ノーラが言い寄るのになかなか自分になびかないヘイデンに少し不安になっていた。
なかなか食いつかないわね。でも前回の時みたいにロリコンオヤジではなさそう。常に視線が胸に来ているし、酔ったふりで手を握ると嫌がらなかったしね。
だからロリ系のパメラではなく私の方がタイプなのは間違いないのよ。
ノーラ達が今欲している情報は2つ。
先ずは買い付けに行った物を入れる箱が見当たらないこと。
現地で急に入れ物を用意するのはなかなか難しい。だから木箱等を持って来ているはずなのに馬車の中にはないのだ。
もう一つは、同行者の冒険者見習いのドルテナこと。
あの坊やのアイテムボックス容量がおかしいのよ。大量の飼い葉や水の入った桶が丸々アイテムボックスに入っていたの。どう考えても最大容量を軽く超えているのよね。
休憩所で馬の世話をしているドルテナの行動を注視していたお陰で気が付くことができたのだ。
坊やのアイテムボックスはとてつもなく大容量なんじゃないかしら。もし予想通りの容量ならば奴隷にして仲間に加える方法を考えた方がいいかもしれないわね。いえ、売った方が大金を手に入れられるわね。
ヘイデンの商品と娘に加えて、大容量のアイテムボックスを有する冒険者見習いを売った際に得られる利益を考え、にやける顔を抑えるのが大変だった。
これが所謂、捕らぬ狸の皮算用ってやつなのだ。




