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59話

「いやぁ~、今回はいい稼ぎだぜ」

「そうねぇ~。でも、まさかパメラがタイプだったとは意外だったわ。ロリコン趣味には見えなかったもん」

「あのオヤジ、態々子供服を用意してきた。それを着たままとか……最悪」


 パメラはその時の光景を思い出したのか身震いをしている。


「二度とゴメンだわ……」

「まぁねぇ。でも娼館で1日に何人も客を取るよりかはマシでしょ?」


 ノーラの言葉にパメラはため息で応えていた。


 馬車の中にはある地方で作られる高級布、所謂反物が所狭しと置かれている。もちろん硬貨が詰まった袋もきっちりと確保されている。

 目の前に置かれた今回の収穫を眺めていると、御者台のセベロが後ろを振り返り指示を出した。


「おい、そろそろ街に着く。とっとと箱にしまえ」

「へいへい。そらよっと、チャッチャッと片付けましょうかね」


 口では文句を言いながらアダンは笑顔で箱へ反物を片付けていく。


「今回の仕事でかなり稼げたわね。これだと後1回で私達は終わりかな。あんた達はどうなのよ?」

「あぁ、俺も次で終わりだな。セベロの旦那は?」

「俺も同じだ」

「あら、それなら次の仕事であんた達とはお別れね」


 街に戻るとノーラ達の到着を待っていた男達に馬車毎引き渡す。


「……今回は中々の物だな」


 男は手早く計算をするとノーラ達に金を渡していく。


「ほれ、これが今回の稼ぎだ」

「あいよ。じゃぁあたしらは行くよ」


 ノーラとパメラは受け取った金を持ってその場を後にする。そしてその足で裏賭博場へ向かう。


「やっぱり今回は結構な額になったわね。パメラが頑張ったお陰よ」

「はぁ~。ねぇノーラ、私ってそんなに子供っぽい?あのオヤジ、服だけじゃなくて下着まで子供用を用意してたの」

「うわぁ、そこまでやらされてたんだ。ちょっとキツいね」

「ノーラにはかなわないけど、普通くらいはあるはずなんだけど……」


 パメラはそう言って自分の胸に手を当てた。


「まぁ~パメラの場合は顔が幼いって言うのもあるんじゃない」

「顔……」

「もういいじゃない。あんなオヤジの事なんて早く忘れるのよ」


 パメラが何やらブツブツ言っているがそのまま歩き続けた。

 2人とも毎回受け取った稼ぎの中から少しだけ抜け取り、後は全て返済に充てている。


 今回も報酬から少しだけ手元に残して賭博場にいる男に金を渡す。

 そして契約書に返済した金額とサインを書いてもらう。


 2人は契約書に書かれている残金を見てホッとする。この額なら次の仕事で十分完済できそうな額だ。


「あと少しよ。パメラ頑張ろうね」

「うん、長かったけど次で最後。もう少しの辛抱」


 2人はこの仕事を始めたときのことを思い出していた。


 あれは凡そ1年前。裏賭博の借金を返すために今の仕事のボスを紹介された。

 そしてそのボスから告げられた仕事内容は衝撃的だった。


 2人の仕事は、2人の男とチームを組み護衛を探している行商人や一般商人の依頼を受けて一緒に旅をする。そしてその商人の商品をいただくという盗賊だった。

 話を聞いた2人は盗賊なんてできないと言ったが、契約書にはここのボスの下で働くことが明記されており、逃げることができなかった。


 この盗賊団は結構大きいらしく、盗品の売り捌き先はもちろん奴隷商にも伝手があり、行商人に若い娘がいた場合には殺さずに奴隷として売っていた。


 だがギルドを通して依頼を受けると、依頼が未達成となるため犯行が発覚する恐れがある。


 そこで役に立つのが馬車屋だ。

 ここには行商人が修理に来たり、消耗品の購入に来る。また商人が買い付けに行くために馬車を借りにも来る。


 その為、様々な情報が楽に手に入る馬車屋にも盗賊団の人間が入り込んでいる。

 金目になりそうな物を持っていそうな行商人や、高価な物を買い付けに行く商人達に護衛役の冒険者を安く紹介するのだ。


 冒険者ギルドに頼むと手数料を取られるが、知り合いを紹介すると言って手数料は無料。

 更に価格も安くするように交渉すると言って盗賊団の人間を雇うように誘導する。


 既にギルドへ依頼していた場合は、依頼を取りやめれば全額帰ってくるのでそうするように勧める事で発覚する事を防いでいた。


 この様な仕組みでこの盗賊団は大きく成長しているのだった。


 帰ってきた翌日、ノーラ達は盗賊団に呼び出された。次の仕事が決まったらしい。


「昨日の今日でもう仕事をさせるの?ちょっとは休ませてよね」

「悪いとは思ったがお前達以外に適任がいなくてな。情報通りならかなり美味しい仕事になるはずだ」


 ノーラ達に仕事を振り分けている男はすまないと言いながらも話を進める。


「どう適任なのよ?」

「女を含めた護衛を探しているんだとよ」


 先に来て話を聞いていたアダンが答えた。

 アダンが言うには、買い付けに行く商人の娘も同行する為、女冒険者を含めたPTを探していると。

 ノーラ達以外にも女冒険者はいるのだが、偶々全員出払っているようなのだ。


 そして商人の娘は14歳で将来必ず美人になること間違いなしの顔立ち。更にプロポーションも申し分ないようだ。

 つまり、奴隷商に売ればかなりの額で買い取ってもらえる可能性がある。


 買い付けに行く品物は、薬などに使う材料の中でも高価な部類の物らしい。そして品質も名人と言われている人物から直接買う予定なのだとか。


 商品と娘を売れば今回はかなりの稼ぎが期待できる仕事だろう。


(最後の仕事としては申し分ないわね。報酬で借金を完済できるだけでなく、その後の生活もこれで楽になる)


 ノーラのその思いはアダンとセベロも同じ様で、全員一致でこの仕事を受けることにした。


「それで、今回はどこに向かう予定なの?」

「それなんだがな、ワカミチらしいんだ」

「それ本気?私達のランクだと山に入るのはちょっとキツいわよ?」


 ノーラの質問にアダンが答えたが、その答えにノーラが信じられないという顔をしている。


 今までノーラ達がやらされていたのは海沿いの町や村へ行くルートだ。

 これは山中に比べて獣や魔物が出にくいだけでなく凶暴性が比較的低いのだ。

 その為、ランクEのノーラ達でもなんとかやっていけていた。

 だが今回は凶暴性が高くなる山へ向かうことになる。


「だがかなり稼げそうなんだよ」

「だからってデカい魔物がでたらどうするのよ。いくら稼げるからって死んだら元も子もないわ」

「その時は商人達を囮にして逃げればいいんだよ」


 アダンはそう言ったが、いつもより高いリスクにノーラは二の足を踏んでいる。


「確かにいつもより危険だろう。だかな、借金を返した後の金がねぇと生きていけねぇぞ?今回のヤマを終わらせたら暫くはゆっくりと過ごせるだけの金は手に入るんだ」


 1日でも早くこんなやばい仕事から抜け出したくもあるノーラは、色々と悩みはしたが結局納得した。

 

 この後、簡単な打ち合わせを済ませ出発は明後日の朝と決まった。


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