58話
パメラの最後の勝負が外れて呆然としている2人へ賭博場の男が声を掛ける。
「お客様。親分がお呼びです。申し訳ございませんがこちらへお越しください」
比較的腰の低い対応をしている男だが、その目は相手に有無を言わせないほど威圧的だった。
その男に連れられて親分の部屋までやって来た。
親分は机に向かい、書類にサインをしていた。2人はソファーに座らされて親分の手が空くのをジッと待っていた。
「……おい!これをカウンターまで持っていけ!」
親分は2人を連れて来た男に書類を渡して指示を出し、座っているノーラとパメラに向き合った。
「……さてと、お待たせしてすみませんな。何か飲みながら話をしましょう」
そういうとアイテムボックスからベルを取り出して鳴らした。すると1人の女が部屋に入ってきた。
部屋に入ってきた女を見たノーラとパメラは固まってしまった。
その女の服は服とは呼べないほどに布面積がなかったのだ。
上半身は胸が半分ほど隠れている程度しかなく、下半身はスカートを履いてはいるが股とほぼ同じ位置までしか長さがない。
なので、お辞儀をすればお尻は全て丸見えになるだろうし、二人が座っている位置からはスカートの中がチラチラと見えている状態だ。
そんな扇情的な服を纏ったの女に飲み物を持ってくるように指示を出す。
女は部屋を出た後、直ぐに戻ってきて2人に飲み物を出して部屋から去った。
「あの者はここでの借金を返せなくなりましてな。その返済のためにここで働かせております。とはいえたいした事はさせてはおりません」
女の方をずっと見ていたのに気付いた親分が事情を話した。
「そ、その割にはなかなか……なんと言うのか、かなり……」
「あの女にはお客様の接待を行わせております。お客様が気持ちよくお話ができるようにするのがあの女の役割でしてね。その為にあのような格好をしております。まぁ今回は女性のお客様でしたので直ぐに退席させましたが……」
つまり自身の体を使いお客に尽くすと言うことのようだ。
「そんなことよりお2人の話をしましょうか。今日お貸ししたコインの契約書がこちらです。ふむ、お2人ともほぼ同じ枚数とは仲の良いことで」
男はテーブルに数枚の契約書を置き、2人に見えるようにしながら枚数の確認をしている。
とてもわざとらしいのだが、自分たちがこれからどうなってしまうのかが気になりそれに気付かない。
「さてと、ここにお2人の借りたメダルの一覧を用意しました。これで間違いありませんね?」
そう言って出してきた紙を見て2人は驚愕する。とても今日明日で返せるような額ではない金額が示されており、そこまで借りた記憶がない。
「ちょっと!こんなに借りてないわよ!水増ししないでちょうだい!」
ノーラが強い口調で言うと、それを聞いた親分は態度を一変させた。
「おいおい、言いがかりを付けるんじゃねぇ。この契約書が不正できないのは知ってんだろ?契約書にゃオマエが書いた名前と枚数がちゃぁんと書かれてるんだよ!」
そう、確かに全ての契約書にサインがされており血を垂らしたため文字が消えなくなっている。
間違いなく自分が書いたものなのだ。
それを確認しているノーラの横にいるパメラは、現実を受け入れならないのかずっと黙ったままだ。
「で、どうするよ。どうやって返すんだ?」
「そんな……こんな金額直ぐに返せるわけないじゃない……あ、明日まで待ってよ!ね?今日必ず返さなきゃいけないわけじゃないでしょ!」
貸し出しは1日あたり2割を加算すれば翌日でも返せる。ノーラ達は1割と聞いているが明日でもいいはずなのだ。
ノーラはまずここから出て何とかお金を工面しようと考えていた。
「明日までだぁ?そりゃぁ構わねぇが……」
よし、これで時間は稼げたとノーラは思ったが、親分から出た言葉にそれは無と化した。
「待てるのはこれ一枚分だけだ。後は利子がない代わりに支払期日が今日になってるからな」
「……え?」
「なんだ憶えてねぇのか?特別に利子なしで貸す代わりに今日中に返せよって言っただろうよ。ほれここ見てみな、ちゃぁんとそう書いてあるだろ?」
親分が指し示したところには確かにそのような一文があり、その下には自分のサインもある。
「ッ!わ、私は聞いてないわよ!勝手に ── 」
「ちゃんと聞かなかったのはオマエが悪いんだ。何か?この契約書を破り捨てるつもりか?」
親分が手に持ってヒラヒラさせている紙をビリビリに破いて捨ててしまいたいが、そんなことはできない。
もし破ろうものならばその瞬間に契約書にかけられた魔法の力で自分の命は尽きてしまう。
ノーラは悔しくて親分を睨みつける。
「そういう訳だ。俺は優しい男だ、こいつは明日まで待ってやろう。だが、他のはそうはいかねえ。ちゃぁんとここで払ってもらうぞ」
バン!とテーブルを叩いてノーラ達を威圧してくる。
「……こんな額、直ぐに払えるなら借りるわけないじゃない!」
「おぉおぉ、開き直りか?まぁどうでもいいが……払う気がねぇなら、契約書通りお前らの身柄は俺が預かるぜ?」
「そ、それは!」
「しょうがねぇよな。払えねぇときはそうするって契約書に書いてある。それはオマエも知ってるだろ?」
払えない場合は自分の身を差しだして対価とする、と書かれているのがこういう契約書では一般的だ。
だから先ほど飲み物を持ってきた女もあのようなことをさせられているのだ。
「奴隷商に売っても全額には少々足らんな。かといって娼館で朝から晩まで働いたってお前達じゃ5年以上だろうな……」
この時になってようやく自分たちの身に起こることを理解し始めた。
「いや娼館で働かせたら時間がかかるから奴隷商に決まりだな。どこに売るかなぁ」
そう言って奴隷商に売るための書類を取り出した親分の腕にノーラがすがりつく。
「ねぇ!待ってよお願い!奴隷はイヤ!ほら私達冒険者だから、ここで護衛として働くわ!護衛は必要でしょ?パメラと2人で!」
「冒険者って、オマエらやっとランクEになったばかりだろうよ。そんなヘボヘボ冒険者を護衛に雇う奴なんかいねぇよ」
「そんな……せ、せめて娼館にしてよ!奴隷は絶対にイヤなの!」
「一生懸命するから、娼館で頑張って働くから、お願いします」
ノーラとパメラはなんとか奴隷にならないように必死に訴えた。
二人が言っている娼館、つまり売春宿はまともな客以外はお断りとなっている。
娼婦に暴力を振るったり変な性癖を持っている者、つきまとい等をする奴は入店できなくなっている。
ただ、男達の好奇の目にさらされることになる。
それでも店側が女達を守っている為、身の危険はない。但し店に上前をはねられるが……。
奴隷の場合、主の命令には逆らえない。逆らおうとすると首にある奴隷紋が締まっていく。
それも死ぬ一歩手前の状態で締まり続けるため相当苦しいらしい。
若い女奴隷は、ほぼ間違いなく性奴隷目的に買われることが多い。
この場合、娼館ではできない行為をする為に女奴隷を買う者も多く、そういった男に買われた女達の末路は悲惨だ。
もし#屍姦__しかん__#目的の男に買われたならば、生きることはできない。
ただ、若い女奴隷は奴隷の中でも高額となるため、そんな大金をドブに捨てるようなことをするする奴は滅多にいない。
いないが、貴族などの金持ちにはごく稀にそのような性癖を持っている奴もいることは事実だ。
人として生きられるのはどちらかと言えば娼館の方なので、ノーラも奴隷にはなりたくないのだ。
「娼館だぁ?んなもん途中で死んじまったら回収できねぇだろうが。奴隷の方が確実なんだ!諦めな」
「死なないから!絶対に返すから!お願いします!お願いします!」
ノーラとパメラは親分の足に口づけでもするかのように頭を下げて懇願している。
そんな2人に親分はある提案をする。
「そんなに奴隷は嫌か?でもなぁ、娼館だと俺が待てん。だからといって護衛で雇うつもりもない。……そこでだ、お前達に仕事を紹介してやろう。その仕事がうまくいけば1年足らずで全額返せるはずだ。どうする?」
親分から提案された話しはとても魅力的だった。
だがノーラ達の返さなければならない金額の仕事となると真面な事ではないだろうが、今の2人にはそれに気がつけるほどの余裕はなかった。
娼館で好きでもない男に跨がる必要もなく奴隷にもならなくてすむという点だけを見て首を縦に振り、契約書をきちんと読まないうちにサインをしてしまうのだった。
契約書の返済期間等を一部変更した後、賭博場の男と共にとある場所へ連れて行かれた。
今日からここにいる人物の元で仕事をする事になっている。
「こいつらがそうなのか?今度は女か……。この前入ってきた奴等と組ませてみるか。わかった、後は任せろ」
部屋の奥にある大きめのソファーに座っている男が、ノーラ達を連れて来た男と話をしている。
話が終わったのか、賭博場から一緒にやって来た男は帰っていった。
「さてと、お前達にやってもらう仕事は……」
と男が話し出した。
そしてその内容に2人は踏み入れてはいけないところに来たことを知るのだった。




