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56話


「君達、何があった?」


 警備兵は足元に倒れている男達を確認して聞いてきた。


 俺が男達に絡まれた一連の話していると、腹を撃たれた男のアイテムボックスに入っていた物がポンッと現れた。

 どうやら男の命が尽きたようだ。


「うむ、此奴らも剣を抜いているのは間違いないな。……すまないが詰め所まで来てもらうぞ。……そんな顔をするな。お前達を尋問したりはせん。手続きがあるだけだ」


 詰め所まで行かなければならない理由がないと思っていた俺は、あからさまに嫌な顔をしていた。

 それを見た警備兵が勘違いをしている俺へ理由を説明してくれた。


「それなら彼女は宿に帰っても問題ないですよね?」

「いや、その娘にも来てもらう。当事者のサインが必要なんでな」


 面倒だなぁと思ったがエルビラさんは構わないらしい。


「あの、私なら構いません。それにドルテナさんの側にいた方が安全ですし……」

「そうですか。エルビラさんがそう言うのなら」

「よし、ならついて来てくれ」


 警備兵は足を撃ち抜かれている男に肩を貸しながら俺達の前を歩いて行く。

 死んだ方の男は足を持たれてズルズルと引きずられている。男の持ち物も警備兵が持っている。


 警備兵が言った通り、詰め所では手続きのみ行われた。

 どうやらあの男達は以前にも似たようなトラブルを起こしていたり、#集__タカ__#りや#強請__ユスリ__#の前科がもあったようだ。

 目撃情報も俺達の行動の裏付けとなり、結果正当性が認められたようだ。


 死んだ男の持ち物は俺に所有権があるようなので、お金は受け取りそれ以外のものは買い取ってもらった。

 もう一人の男の方は短期の実刑を食らうらしい。明日にはこの街を出るからどうでもいい話だ。


「ここにサインを……。よし、これで終わりだ。手間を取らせたな。宿まで気を付けて帰れよ」

「はい。では私達はこれで」


 手続きが全て終わり、俺達は詰め所を出た。


「すみませんでした。私が外で御飯を食べようなんて言わなければこんな面倒に巻き込まなくてすんだのに」

「そんなことありません。美味しい料理と楽しい時間をドルテナさんからいただきました。それに私を守ってもくれました。ありがとうございます」


 俺の腕を自分に引き寄せながらエルビラさんは俺にお礼を言ってくれる。

 この娘は本当にいい娘だよ。

 んでもって、この腕に当たっている柔らかいものの感触も素晴らしい。やみつきになりそうだ……。


「あの人達と対峙している時のドルテナさんは、いつもの感じと違っていてドキッとしました」

「あ、もしかして怖がらせてしまいましたか?どうしてもああいう輩相手だとあんな風になってしまうので」

「怖くはなかったですよ。大人の人にあそこまではっきりと物事が言える人は凄いと思います。それに、私のことを名前だけで呼ばれたときは……」


 エルビラさんはなにやら顔を真っ赤にして俯いている。


 ん~?名前だけとは何のことだ?


「私、なんか変な呼び方をしましたか?」

「憶えてらっしゃらないのですか?私のことをエルビラって“さん”を付けずに呼んでくださいました」


 ……マヂか。いつ言ったんだろうか。憶えてないわ……。


「そ、そうですか。すみません、無意識とはいえ失礼しました」

「いえ、謝らないで下さい。……あの、もしドルテナさんが嫌でなければ、これから私のことはエルビラと呼び捨てにしてほしいです。ダメですか?」


 うお!でた!エルビラさんの必殺上目づかい!これやられると嫌って言えないよぉ。


「ッ!わ、わかりました。エルビラさんがいいのであれば、これからそうします。あ、でもそれなら私のことも呼び捨てでお願いします。年下の私に“さん”付けはいらないですから」


 年上のエルビラさんを呼び捨てにしておいて、年下の俺がさん付けで呼ばれるのには違和感があるからな。


「え?!私もですか?!……でも、いきなりは……恥ずかしいというか……」

「あ~、なら“くん”ではどうですか?」

「はい……それなら大丈夫……かな。うん、わかりました。ドルテナくん……で、よろしくお願いします♪」


 エルビラさん、あ、いや、エルビラが今日一番の笑顔を返してくれた。

 宿に帰るまでずっと腕を組んだままだったので、俺はムニュムニュを沢山堪能できた。


 さて、予定よりかなり遅くなってしまったのでヘイデンさんに謝りに行こう。


「ドルテナさ……くんは一緒に来られなくても大丈夫ですよ?私が父に話しておきますから」

「いえ、そういう訳にはいきませんよ。私からも謝らないといけないと思いますから」


 そう言って部屋に入ると誰もいなかった。

 どうやらまだヘイデンさんは帰っていなかったようだ。


「いないですね……」

「……ですね」

「もう!明日出発なのに飲み過ぎても知らないんだから!」


 エルビラがお冠だ。とはいえ、ヘイデンさんをこのまま待つわけにはいかない。

 明日にでも話をすると言うことにして、エルビラにはちゃんと戸締まりをして部屋で休んでもらう。


「今日はご馳走様でした。また明日からよろしくお願いしますね」

「はい、こちらこそ。ではおやすみなさい」


 エルビラが部屋の鍵を掛けたのを確認してから自分の部屋に戻る。

 一応、エルビラの部屋まで危険察知を広げておいてからベッドに入った。



◆◇◆◇◆◇



 翌日。


 朝御飯を皆と一緒に食べているのだが、いつもと雰囲気が違う。

 俺の横にはエルビラが座り食事をしている。

 お互いの呼び方が変わったからなのか、俺に寄り添うような感じで座っている。

 以前から横に座っていたが、なんとなく精神的な距離も近いような気がする。


 俺達以外では向かいに座っているヘイデンさんとノーラさんだ。

 エルビラと同じようにヘイデンさんにノーラさんが寄り添っているのだ。それも結構ベタベタな感じで……。

 キャバ嬢がパパと朝御飯を食べている光景にしか見えない。

 ヘイデンさん、嬉しそうだなぁ。


 いったいこの2人に何が起こったのだろう。


 いつもならパメラさんがツッコミを入れるか止めさすかするはずなのに、今朝は全く反応していない。

 アダンさんとセベロさんも、ノーラさんの行動はさも当たり前のことといった感じになっている。


 後、一番気にるのはノーラ達の ──


「……ナくん?……ドルテナくん?」

「……え?あ、すみません。どうしました?」


 考え事に集中して回りの音が聞こえていなかった。


「大丈夫?あのね、お父さんとノーラさんが急に仲良くなってるんですけど、心当たりありますか?」


「ん~、ちょっとないですねぇ。お父さんは昨日いつ帰って来られたんですか?」

「それが、明け方近くだったんです。でも寝不足になっている様子はなくて……」

「……そ、そうですか……」


 ノーラさんと出て行って朝帰り。そして朝御飯で2人はあの状態。

 もう、そういうこと以外にはありえんだろうなぁ。


 こんな状態での出発に少々不安を覚えながら朝御飯を食べ終えた俺は、出発の準備に取りかかる。


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