表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/89

55話

「こちらがデザートになります」


 ボーイさんが二人の前にデザートと紅茶を出して去って行く。


「この店にして正解でしたね」

「はい。ドルテナさんが選んだお店ならどこでも満足できます」


 賑やかな大衆食堂もいいが、たまにはこうして落ち着いた場所での食事もいいものだ。

 食後の紅茶を楽しみこの店を後にした。


「ドルテナさん、ご馳走様でした。とても美味しかったです」

「エルビラさんに喜んでもらえて良かった。明日からはまた移動の日々ですからね。楽しめるときは楽しんでおかないと」


 外は既に暗くなっている。所々に篝火があるお陰で歩けなくはない。


 とはいえ、この時間に女性が歩くのは心許ないのだろう。エルビラさんか俺の腕にしがみついている。

 そのお陰で腕には柔らかいものが押しつけられており、思わず表情がほころぶ。


 明るいところで見ると、鼻の下を伸ばしているのがバレバレなんだろうなぁ。


 腕に感じる彼女の柔らかさを堪能しながら歩いていると、前から2人組の男達が歩いて来た。

 まだ距離はあるがこのままだとぶつかるので避けるために右に移動すると、男達も同じ方向に移動してきた。


 あら?向こうも避けようとして俺と同じ方向に移動しちゃったかな。


 もう一度左に移動して直して男達とすれ違おうと思っていたとき、男達が赤いシルエットに包まれた。


「ッ!……しまったな」


 食事中に危険察知の範囲を店内に合わせたままだった。


 ハーシェル神殿の時と同じミスをしてしまったな。


「ん?どうされました?お店に忘れ物でもされましたか?」

「あ、いえ、そうではありません。ちょっと服を変えますけど驚かないでくださいね。それと……私から離れないようにね」


 普段着だった俺は直ぐに戦闘服へ着替えたが、外套を着る余裕はなかった。


 エルビラさんはいきなり俺の服装が変わったことに驚きつつも冷静に受け入れてくれた。


「ドルテナさんにはまだまだ秘密がおありなのですね」

「そのうち色々お教えしますよ。さてと……左の壁際まで移動します」


 俺の腕を掴む手に力が入るのを感じながらハンドガン【FN Five-seveN】をサプレッサー付きで取り出し、スライドを引いておく。

 このまま手に持っていても、この世界の人にはこれが武器とはわからないだろう。


 前からやってくる男達は俺達の進路を塞ぐように移動している。

 相手が俺達に害をなそうとしているのはわかるが、どんな武器を持っているかわからない。

 それでもこの服ならば防げるだろう。最悪、俺が盾になればエルビラさんは守れるはずだ。


「エルビラさん、ちょっと厄介なことになりそうです。私が対応しますから安心して下さい」


 そう言ってその場に立ち止まった。


 何もせずに通り過ぎればそれでよし。ちょっかいを掛けてきたら相手をするまでだ。

 そうこうしているうちに男達は俺達の前で立ち止まった。


 男達はいやらしい目つきで、エルビラさんを下からなめ回すようにして見ている。

 マンガで出てきそうな、イヒヒヒヒというフレーズそのままの表情で俺達と対峙している。

 更に、強烈なアルコールの臭いが漂ってきているから、こいつらはかなり飲んでいるようだ。


 俺達の前で立ち止まったということは、少しお話をしなければならないらしい。


「私達に何かご用ですか?」

「ボウズに用はねえ。俺達はそっちのお嬢ちゃんとちょっくら親しくなりたいだけだ。お前はとっとと帰んな」


 そう言うが早いか、男は手を伸ばしてエルビラさんの腕を掴もうとしてきた。

 いきなり男が手を伸ばしてきたので、ビクッと体を震わせたエルビラさんと男達の間に割り込んだ。


 ったく、エルビラさんがビビってるじゃないか。


「彼女もあんた達に用はない。とっとと失せろ」

「あぁ?!ガキが粋がってんじゃねぇよ。俺たちゃぁ冒険者だ。お前みたいな見習いがガヤガヤ言ったところで、なぁんにもなりゃしねぇんだよ」


 ニヘラニヘラとした顔とアルコール臭に顔をしかめてしまう。

 どこの世界にもこういうバカな輩はいるんだよな。ほんと嫌になるよ。


「そういうこった。だから邪魔すんな。その娘の面倒は俺達が見てやっからよぉ~。ほら、どけろよ!」


 そう言ってもう1人の男が俺の肩を掴もうとしてきた。が、その手は俺に届く前にサバイバルナイフの餌食となった。


「ガッ!!いってぇ!!……テメェ!死にてぇらしいな!」


 どうせまた手を出してくると思って、直ぐにサバイバルナイフを取り出せる用意をしていて正解だったな。


 俺の左手に握られていたサバイバルナイフは、男の右腕を浅くだが切り裂いていた。

 このサバイバルナイフの切れ味の前では、簡単な防具は余り意味をなしていないのかもしれない。

 現に男の腕にはレザーで作られた籠手があるが、サバイバルナイフはその籠手ごと腕を切り裂いていたのだ。


 男達は剣を取り出して俺達に向かって構えた。武器はアイテムボックスに入っていたようだな。

 腕を切りつけられた男も腐っても冒険者だ。しっかりと剣を構えている。


「先に手を出したのはお前だ。殺されても文句はないんだろ!」


 腕を切りつけられた男とは別の男が文句を言っているが、そもそも手を伸ばしてきたのはそっちなんだがな……。


「エルビラ、耳を塞いで」


 目の前の男達から視線をそらさずにエルビラさんに耳を塞いでもらうように指示を出す。

 ハーシェル神殿でも同じ様なやりとりをしていたお陰で、彼女には直ぐ理解してもらえた。


「ガキが!死ねやぁ!」


 彼女の手が俺の腕から離れたのを感じたのと同時に、男達が剣を振り上げて襲ってきた。


 俺は手にしているハンドガンを右手にいる男へ向けて発砲。


ー タタンッ ー


 頭を狙う時間はなかったので一番面積の大きい胴体へ当てる。

 腹に銃弾を受けた男はその場で動きを止めた。

 手に持っていたハンドガンは引き金を引けばできる状態ではあったが、至近距離で2人に当てるのは少し無理があった。


 もう1人の男が俺に向かって振り下ろした剣が迫ってきた。

 俺がその剣を受け止めようと咄嗟に左腕を出したのを見た男は、顔をニヤッとさせた。

 普通なら腕を出したところで剣の前では無意味。どうぞ切ってくださいと言っているようなものだ。

 だから男は既に俺を殺したも同然のような顔をしたのだろう。


 だが俺の着ているこの戦闘服の防御力は半端ない。

 見た目はこの世界では変わった服になるだろうが、俺の持っているショートソードでは傷ひとつ付けられなかった。


ー ガギン! ー


 男が振り下ろした剣が俺の腕を切りつけた瞬間、盾で防がれたかのような音が鳴り響いた。


 「ッ!?な、なにぃ!」


 俺もまさかこんな音が鳴るとは思わなかった。

 とても服と剣がぶつかり合った音とは到底思えない音だ。


 ただ、衝撃はそれなりにあった。それでもあの剣を受けたにしては軽いと思うからこれも戦闘服の恩恵だろう。


 服如きに剣を防がれた男は何が何だがわかっていないようで、動きを止めている。


 しかしこの状況で動きを止めるなんて愚の骨頂。


ー タンッ タンッ ー


 俺は直ぐに男の足に向かってハンドガンを構え直して、逃げられないように両足に一発ずつ当てて身動きできないようにした。


「グガァ!」


 両足を撃ち抜かれた男は立っていられなくなり、その場に倒れ込んだ。

 痛ぇ!足がぁ!とか、大声で叫んでいるから五月蠅くてしょうがない。


 最初に腹を撃たれた男も倒れてはいるがまだ生きている。しかし助かる見込みはないだろう。

 今すぐ高レベルの治療薬を使えば死にはしないが、男達の身なりから高価な治療薬を持っているとは思えない。


「死ぬのは俺じゃなくてお前らだ」


 ギャーギャー騒いでいる男へ銃口を向け引き金を引こうとしていると、銃声と男のわめき声を聞きつけて警備兵達が走って来た。


「ッチ!命拾いをしたな」


 この状況だと、もう此奴らが俺達を襲うことはないだろうから、ハンドガンをアイテムボックスに入れて両手を上げる。

 駆けつけてくる警備兵に抵抗の意思がないことを示しておく。


 ったく、折角美味しい料理を堪能して気分良く帰っていたのに……。なんて日だ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ