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54話

 ワカミチに着いた俺達は、ノーラさん達護衛組とは宿で別れてお昼御飯を食べた後、早速ベニートさんの所へやって来た。


 日中なので作業中だろうということで家には寄らず裏の作業場へ行くと、予想通りベニートさんがいた。


「ベニートさん、ただいま戻りました」

「おお!ヘイデンか。ミキヒはどうだった?ゆっくりできたか?」

「ええ、とても気持ちよかったですよ」


 ヘイデンさんに続いてエルビラさんと俺も挨拶をした後にベニートさんが本題を切り出した。


「さてと、注文の品はできておるぞ」


 と言いながら作業場の横にある小部屋へ案内してくれた。

 その小部屋の一角に乾燥したキヒキヒが積まれていた。


「これで全部じゃ。いつもの年より少ないが我慢してくれよ」

「もちろんです。本当なら手に入らなくてもおかしくなかったのですから」


 商人が行方知れずになった時点で上質なキヒキヒは諦めていたのだろう。

 それでも一途の望みでここまで来て運よく手に入れられたのだ。


 さてと、ここからは俺の仕事かな。


「ヘイデンさん。これをそのまま木箱に詰めていけばいいですか?」

「はい、そうです。あ、私もやりますから……」

「大丈夫ですよ。ベニートさんとゆっくりお話ししてて下さい」


 木箱に詰める程度楽なものだ。俺一人で十分できる。


「ではお言葉に甘えさせていただきます」

「わしらは中におるから君も終わったら来なさい」

「わかりました。詰め終わったら伺います」


 俺は預かっている木箱をアイテムボックスから出してキヒキヒを詰め、皆の後を追った。


 家の中から聞こえる話し声を頼りに歩いて行くとリビングに着いた。

 ベニートさんの隣には初めて見る人がいた。たぶん奥さんだろうな。


「お邪魔します」

「お、来たな。そこにでも座れ」


 俺がエルビラさんの隣に座るとベニートさんが隣の女性を紹介してくれた。

 その女性はやはり奥さんだった。


「初めまして。冒険者見習いのドルテナです。今回の買い付けに同行させてもらっています」

「見習いさんはランクアップも大切だけど、無茶をしてはダメよ?それは大切な人を悲しませることになるから」


 そう言って奥さんは俺の手に填まっているブレスレットをチラッと見た。


「はい、気を付けます」


 ハーシェル神殿に行ってから、俺の中でエルビラさんの立ち位置が変わったような気がする。

 回りに知っている人がいても自然と手を繋ぐようになったし、側にいてくれることでとても心が落ち着いているのがわかる。

 それにこのブレスレットを見ると、とても幸せな気分になる。

 ハーシェル神殿の加護が俺の中の何かを動かしたのは間違いなさそうだ。


 ベニートさんの奥さんの話もエルビラさんの存在を感じながら聞いていたしな。


 俺にとってエルビラさんは大切な人になりつつあるのかもしれない。

 13歳、思春期の始まっている男の子が、可愛い子と一緒に旅をしたらそうなるのかもね。

 親御さん公認なら尚更だ。


「いつここを発つんじゃ?」

「明日の朝ですね。ワカミチに帰ったばかりですが、馬達も問題ないようですので早く帰って仕事に取りかかりたいと思ってます」


 そうなんだ。1日くらいゆっくりするのかと思ってた。

 この後も二人の話は続いて、ここを出た頃は夕方になっていた。


 宿について晩御飯を食べるために食堂へ行こうとしていたところへ、宿の主人が声を掛けてきた。


「ヘイデン様。お連れの女性の方から用があるので帰ってきたら寄ってほしいと伝言を賜っております」

「そうですか、わかりました。ドルテナさん、すみませんが娘と先に食堂へ行っていてください」

「ええ、いいですよ。ではエルビラさん、行きましょうか」


 俺とエルビラさんは食堂でヘイデンさんを待つことになった。

 ヘイデンさんがいつ来るかわからないから、とりあえず2人分の料理を注文し終えた頃にヘイデンさんが戻ってきた。

 もっと時間がかかるかと思ったけど違ったようだ。


「早かったですね。私達は注文したんでヘイデンさんの分を追加しますね」


 俺はヘイデンさんの分を追加するために店員を呼ぼうとすると、ヘイデンさんがそれを止めた。


「あ、私のは結構です。ちょっとノーラさんと外で話があるので。食事も外で済ませますので大丈夫です。エルビラ、ドルテナさんと食事が済んだら部屋で休みなさい。遅くなるかもしれないからそのつもりで」

「わかりました。お父さんもあまり飲み過ぎないようにしてくださいね」

「ああ、わかっているよ。ドルテナさん、すみませんがエルビラをよろしくお願いします」


 そう言ってヘイデンさんは宿を出て行った。

 結局エルビラさんと2人っきりでの晩御飯となるそうだ。

 折角ならどこか別の場所で食事ができたら楽しいのかもね。


 いや、それなら今からでも大丈夫か。


「エルビラさん。晩御飯は2人っきりなので、もしよければどこか別の場所で食べませんか?」

「え?でももう料理を注文しちゃいましたよ?」

「それならなんとでもなります。でも、エルビラさんが乗り気でなければここで──」

「そんなことは!……ないです……」


 いきなり、エルビラさんが大きな声を出したのでちょっとびっくりした。

 おもわず大きな声が出たようで、エルビラさんは下を向いてしまった。


「本当にいいのですか?その、私とお食事に行くのは……」


 俯きながら喋っていた彼女が、両手を胸の前で握ったまま上目遣いで俺を見てきた。

 その仕草に俺の心臓がバクバクと激しく鳴っている。


 ヤベェ。超可愛いんだけど。頬を朱色に染めている顔に引きずり込まれそうだ。

 胸の前で握られている両手に手を添えてエルビラさんと見つめ合っていた。


「おやおや、若いっていいわねぇ~」


 女将さんがいつの間にか料理を運んできてテーブルの横に立っていた。

 俺達は慌てて手を離して距離を取った。


「あ、いやこれは……」

「いいじゃない。若いからそういうこともできるのよ。大人になるとなかなかそうはいかないからね。はい、料理お待たせ」


 女将さんはテーブルに料理を置いてくれた。


「ありがとうございます。あの、女将さん。申し訳ないんですがこの料理を皿ごと売ってもらえませんか?2人で食事になったので、外で食べようという事になりまして……」

「あらあら、そうなのかい?だったら気にすることはないよ。これは私達が賄いとして食べるから大丈夫だよ」


 女将さんはそう言ってくれたが、作ってもらった料理を無駄にすることに抵抗があった俺は、なんとか女将さんを説得して、皿ごと売ってもらうことができた。


 街中を歩いているとちょっと落ち着いた雰囲気のお店を見つけた。

 俺達の年齢からしたらかなり背伸びをしているかもしれないが、あまり大衆過ぎるお店だと絡まれる危険性もある。

 特にこの時間帯はお酒が入っている輩が多いから、もめ事となったら大事になる。

 俺の武器は殺傷能力が高過ぎて手加減ができないと思う。


 このお店はドレスコードの必要はないのだがコース料理専門店のようだった。


「あ、あの。ドルテナさんはこういうお店にはよく来られるのですか?」


 エルビラさんはなぜか小声で俺に聞いてくる。


「いえ、ひさ……あ、いや。コース料理のお店は初めてですよ」

「そうなんですか?なんだか注文の仕方も慣れていましたし、こういうお店なのに全然緊張してないのでいつも行っているのかと……」


 確かに前世ではそれなりにいろんなお店に行っていた。

 たが、コース料理のあるお店でも十分リーズナブルな価格で食べることができたのが前世だ。


 この世界ではコース料理のあるお店というのは、ある一定レベル以上のお店にしかない。

 ただ、ドレスコードがないとはいえ若干俺達は店内で浮いていたりする。


 とはいえ、中身が40過ぎのオッサンな俺は別段緊張何かするわけもなく、寧ろ静かに食事ができることを期待していたりする。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「だって、さっきのメニュー表にお値段が書いてなかったんですよ。凄く高かったらどうするんですか?」


 このお店のメニュー表は男の方にだけ価額が書いてあり、女性には価額を見せないようになっていた。

 価格も俺達のような年代が恐れと出せる額ではないが、懐具合には十分余裕のある俺には特に問題ない。


「大丈夫です。レディーはそういうことを気にせず、この雰囲気と美味しい料理を楽しんでください」

「……はい。折角ドルテナさんと2人っきりでお食事なんですから、楽しまないと……」


 向かい側に座っているエルビラさんに見とれていると料理が運ばれてきた。


 次々と出される料理に舌鼓を鳴らし堪能した。


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