53話
剥ぎ取りのことをすっかり忘れていた。
通常の獣などは倒してもギルドから報酬が出ることはないが魔物となると違ってくる。
危険な魔物を倒すとギルドから報酬が受け取れる。
これは常に依頼ボードに掲載されているタイプで、魔物を討伐をしたことを証明するための特定部位をギルドに提出する事で依頼達成となる。
「すみません、まだ部位を剥ぎ取ってなくて……街中で剥ぎ取りをしてもいいような所はありますか?」
「街中だとそういう場所を貸し出してくれるところもありはしますが……。今、倒された魔物はどうされているのですか?」
「あ、はい。そのまま持ってきてはいるんですが、なにぶんデカい物で……」
「そのままということは、解体もまだされてないのですね?それならギルドで討伐証明部位の剥ぎ取りも兼ねて解体を承れますのでお手続きいたしましょうか?ただし解体費用が必要となりますが」
討伐証明部位を剥ぎ取るのも面倒だからちょうどいいか。
たが、明日にはミキヒを立つんだけど、それまでにできるのか?
「解体をお願いした場合、いつ終わりますか?明日にはミキヒを立つんです。それまでに終わりますか?」
「えっとですね……はい、今日はそんなに立て込んでないので明日の朝には終わってますね」
手元にある書類をパラパラと捲って教えてくれた。
「明日ミキヒ出られるのでしたら解体した肉などを売却する時間は大丈夫ですか?もし魔物をそのままギルドへ売って頂けるのでしたら、ここで買い取りも可能ですが……」
確かに肉や毛皮なんかを商店に売りに行く時間はないだろうな。
売りに行く気があればだが。
肉はいつかバーベキューをするときのために取っておきたいし、帰って一葉に卸したいとも思っている。
毛皮なんかもマホンで売ればいいからな。
「それは大丈夫です。なので、解体をお願いできますか?」
「かしこまりました。では……ここでは狭いので裏の解体倉庫に行ってもらえますか?この書類をそこにいる者に渡して下さい。解体費用は報酬から差し引かせてもらいますがよろしいですか?」
そう言って一枚の紙を渡してきた。
解体費用はそれで構わないので頷いておいた。
「わかりました。それと、まずギルドカードをお返しします。で、こちらが2件分の報酬です。討伐報酬は解体で討伐証明部位を確認した後となりますので、明日の朝でもお立ち寄り下さい」
俺はお礼を言って報酬の入った袋とカードをアイテムボックスに入れてギルドの裏に回った。
ギルド裏の解体倉庫に行くと机に座った男がいた。
「すみません、ギルドでこちらで解体をお願いできると聞いてきました」
俺はそう言ってさっき受け取った書類を男に渡した。
「……ん、分かった。で、ブツはどこにあるんだ?」
俺の渡した書類を見た男は俺が何も持ってきていないことを訝しがっている。
「アイテムボックスに入っています。ここに出したらしいいいですか?」
「なんだと?アイテムボックスに?……そんなに小っこい魔物なのか?……まぁいい。その辺に適当に置いてくれ」
男は机より少し離れた場所を指定したので、そこへ猪の魔物を2匹とも出した。
「……っな?!」
通常のアイテムボックスでは入りきらないサイズの魔物を取り出したのを見た男は絶句していた。
「この2匹になりますんで、よろしくお願いします。それで、明日の朝には終わっていると聞いていますが……」
「……あ、あぁ。今からやるから日の出前には十分終わっている」
俺は明日の朝また来ると伝えて倉庫を出て宿へ向かった。
宿に着いた俺はそのまま食堂へ向かう。もうお腹ぺこぺこだ。
晩御飯を食べ終えるとエルビラさんの部屋に向かった。
ー コンコン ー
「ドルテナです。エルビラさんおられますか?」
ドアをノックするとエルビラさんが出てきた。
「お帰りなさい。警備兵やギルドの方は終わりましたか?」
「ええ、特に問題もなく。少し前には帰ってきたんですが先に晩御飯をいただいていました。ところで、ヘイデンさんはおられますか?」
「はい。あ、中へどうぞ」
そう言ってエルビラさんは俺を部屋へ招き入れてくれた。
「ドルテナさん、今日は大変でしたね」
「はい。魔物はいないと思っていたので……。エルビラさんを連れて行ったために危険な目に遭わせてしまい申し訳ございませんでした」
一人娘のエルビラさんをヘイデンさんはとても大切にしている。
その大切な娘さんをもしかしたら死に関わっていたかもしれない危険な目に遭わせてしまったのだ。
俺は深々と頭を下げた。
「そんな、顔をお上げ下さい。ドルテナさんには感謝しています。もしドルテナさんが一緒ではなかったら娘の命は危うかったでしょう。聞くところによると魔物は2匹もいたようですし……なによりかなり大きな個体だったとか」
うん、かなりデカかった。
「それを考えるとドルテナさんを責めるなど筋違いです。以前も娘を助けていただき、今回もまた……。本当にありがとうございます」
今度は逆にヘイデンさんに深々と頭を下げられてしまった。
◆◇◆◇◆◇
「あ゛あ゛~。たまらんわぁ」
本日2回目の温泉を堪能中。
「ドルテナさんは本当にお風呂好きですね」
湯船に浸かり手足をだらんと伸ばし満足しきっている顔をした俺を、ヘイデンさんが笑いながら見ている。
ヘイデンさんの部屋を訪れた後、一緒に風呂へ入ることになったのだ。
「はい、大好きです。このまま家に持って帰りたいくらいですよ」
「アハハ、ドルテナさんのアイテムボックスならできそうですね」
確かに可能だが、こんなデカい浴槽は準備できないだろうな。
「こうしてお風呂に浸かると1日の疲れが体から抜けているのがたまらんのですよ」
「あははは。まぁ、今日は色々とありましたからね。ゆっくり休んでください」
色々とあったねぇ。
お昼御飯はゆっくり食べることができたし、いい景色も見ることができた。
途中エルビラさんに抱きついたり腕を組んでムニュッがあったり……。
ヤバい。あの感触を思い出すとムラムラがまたやって来そうだ。
帰り道の魔物は……まぁ結果オーライってことで。
「あ、そうだ。あの、ヘイデンさんにお願いがあるのですが……」
「はい、なんでしょうか?」
「俺が魔物を倒したことを人には教えないでもらいたいのです。あまり目立ちたくないので」
「わかりました。部屋に帰ったらエルビラにも伝えておきますね」
「ありがとうございます。助かります」
冒険者見習いが魔物を2匹も倒したとなると既に色々と話題になっているだろう。
明日、ミキヒを出るまでに俺だとバレなければそれでいいんだ。
後は噂が勝手に話しを大きくしてくれるだろう。そうなればなるほど俺とは分からなくなるはずだ。
「おや、そのブレスレットは……」
「これですか?神殿でエルビラさんに御守りを差し上げたらそのお礼でいただきまして」
俺の手首に填まっているブレスレットに気が付いたようだ。
何気にこのブレスレットが気に入っていて、風呂にもつけたまで入っていた。
エルビラさんもこれと同じ奴をつけていたから父親としては気になるんだろうか。
「ほうほう。それをつけて頂いているということは、娘が神殿へお連れした効果があったようですな」
一瞬マズかったかなと思ったが、ヘイデンさんは機嫌を損ねることはなく寧ろ笑顔で喜んでいる。
娘は渡さん!とか言ってくるかと思ったんだけどそうではないらしい。
いや、その前に付き合っているわけでもないんだけどね。
「あの、ヘイデンさんはあの神殿の神様についてご存じのようでしたが、娘さんが男性とそういう意味を持つ場所へ行くことに反対とかなさらないんですか?」
恋愛の神様、つまり縁結び的な場所へ一人娘が男と行くということを容認できるのだろうか?
成人しているのならば兎も角、まだ未成年の娘となると父親としては行かせないと考えると思うんだが……。
「全くございません……とはいきませんが、相手が冒険者見習い成り立てで直ぐにランクFになり、娘を二度も助け、大型の魔物を倒せる実力の持ち主。更に薬草の採取の才能もお有りの方となれば話しは変わってきます。娘の幸せを考えれば最良のお相手と私は思っております。後はお相手のお気持ちを娘が射止めることができるようサポートするまでですよ」
そ、そういうものなのか……。ヘイデンさん公認のアプローチですか。
なんだか急にブレスレットの重みが変わったような気がして、おもわず凝視した。
「父親の私が言うのも何ですが、妻は美人でした。娘も妻の顔そっくりになってきています。スタイルもよく似ていますから、きっとプロモーションも素晴らしくなるでしょう。ですから、ドルテナさんにとっても娘は最良物件だと思いますよ」
……ヘイデンさんの娘アプローチが凄いな。あれ?ヘイデンさんってこんな感じの人だっけ?なんだかキャラが変わってるような気もするけど。
確かにエルビラさんは可愛い。アイドル級に可愛い。性格も優しいし人のことを思いやれる人だ。そしてプロモーションも文句なし。胸も最低でもD……そう考えるとかなりの優良物件だよな。
「さてと、私は先に上がらせてもらいますね。ドルテナさんはゆっくりとしてください」
「わかりました。お休みなさい」
ヘイデンさんが部屋に帰った後、エルビラさんの事が頭から離れなくなっていた。
◆◇◆◇◆◇
翌日。
「おはようございます。昨日討伐証明部位の剥ぎ取りと解体をお願いしていたんですが……」
今朝、借りていた馬を返してからギルドにやって来た。
昨日お願いしていた魔物の解体と討伐証明部位の剥ぎ取りが終わっているはずだ。
朝のギルドは相変わらず混んでいるが、この時間に報酬受け取りカウンターに並ぶ人はいないので、待たずにすんだ。
声を掛けたスタッフにカードを渡す。
「それではギルドカードをお預かりします。え~と、はい解体と討伐証明部位の剥ぎ取りは完了しております。解体等の手数料を差し引いた報酬がこちらです」
そう言ってトレイに乗せたお金とカードをカウンターに置いたのでアイテムボックスへ入れた。
「それと、この用紙を持って裏の倉庫に行けば、ご依頼の物を受け取れます」
俺はお礼を言って用紙を受け取り、裏の倉庫に向かった。
倉庫には昨日とは別の人がいたが、先ほどの用紙を見せると直ぐに解体された魔物を運んできてくれた。
片っ端からアイテムボックスに入れていく。
通常ではあり得ないアイテムボックスの容量に、居合わせたスタッフが固まっているがスルーしておく。
全てをアイテムボックスに入れた俺は、そそくさと倉庫を後にして通りに出てきた。
ヘイデンさん達がここを通る時に俺を拾ってくれることになっている。
これで温泉ともおさらばだ。
次来るときは、大きな浴槽を用意して来よう。これだけ湯量があれば売ってくれるだろう。
そんなことを思いながらヘイデンさんが来るのを待っていた。




