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51話

 エルビラさんが見た方向に目をやると、既に対岸まで渡りきっていたさっきのカップルがいた。

 しかし彼らはなぜか立ち止まっていた。

 彼らの先をよく見ると四肢動物が立ちふさがっているようだ。


「ん?野良犬?」


 見た目は大型犬のように見える。が、違ったようだ。


 俺達の視線に気付いた護衛達が警戒態勢を取った。1人の護衛だけが残り、後の3人が立ち止まっているカップルの方へ走って行った。


 残った護衛は近くにいた人達に注意を促してきた。


「皆さん、念のため神殿までお戻り下さい!……君達も危険だから一旦神殿まで戻りなさい」

「あれは犬ですか?」

「いや、肉食の狼だ。彼奴らが狼に負けることはないが一応な」


 しまったな。綺麗な景色を見るために危険察知範囲を狭めていたから分からなかった。

 直ぐに範囲を狼まで広げてエルビラさんの方へ向き直った。


「分かりました。エルビラさん、一旦上まで戻りま──」


 俺がエルビラさんに向かって話しかけている最中、まだカップルの方を見ていたエルビラさんが急に手で口元を覆って驚きの顔をした。


 俺も慌てて振り向くと、逃げようとしたのか女性の方が何かに躓き地面へ倒れていた。


 倒れた女性の元へ男性が駆け寄るよりも早く狼達が飛びかかった。

 護衛達もまだ間に合わず女性は助からないと思ったその時、狼達は女性を飛び越えて男性の脇を通り過ぎ、護衛達の方へ向かって行った。


 難を逃れた女性は男性の手を借りて立ち上がった。大した怪我もしてなさそうだ。


 狼達は、島へと繋がる道で護衛達と対峙している。が、その狼達の様子が変だ。

 護衛達と対峙しているにもかかわらず狼達の注意は後方、カップルの方へ向いている。


 その為、護衛達に対して隙ができてしまい、あっという間に倒されてしまった。

 護衛として雇われている冒険者だから元々狼程度は問題なかったのだろう。

 護衛達はカップルの方へ向かって歩き出した。直ぐに合流できそうだ。


 回りは皆これで一安心と行った雰囲気になっていたが、俺の心はなぜか落ち着かない。

 さっきの狼達の動きが気になる。どこかで昔見たような気がしてならないのだ。


 そんな俺の表情を見たエルビラさんが不安そうに声を掛けてきた。


「ドルテナさん?どうかなさいましたか?」

「いや、ちょっと……。狼達の動きが気になりまして。昔どこかで見たよ……」


 ……そうだ、思い出した。


 冒険者見習いとして活動し始めた頃、ターゲットにしていたウサギが林の方を気にしていた。あの時はそのお陰でウサギを狩ることができたのだ。

 そしてその後に遭遇したのが……ッ!!


 俺は慌てて危険察知の範囲を最大限までに広げ、カップルの方へ視線を向けた。


 ……ビンゴ。


 ったく。こういう時の感は当たらなくてもいいんだがな。


 俺はホッとしている周りの人達に大声で注意を出した。


「まだ警戒を解くな!森の中に何かいるぞ!」


 対岸近くまで移動している護衛の冒険者達までは声が届かない。


「おい、坊主。なに周りの人をビビらしてるんだ。何もいないじゃないか」


 近くにいた護衛の冒険者が見習いの俺に文句を言っているが構っている暇はない。


 直ぐにアサルトライフル【FN SCAR-H】を取り出して狼たちが現れたと思う方向へ構える。


 その直後、狼達がいた場所よりもう少しミキヒ寄りの所へ黒っぽい物体が森からのっそりと姿を現した。

 全長2mちょっとの猪だ。

 普通の猪より少しだけ大きいから魔物成り立てかもしれたい。


 魔物の猪が現れたことで、安心感漂っていた周囲の雰囲気が凍り付いた。


「魔物の成り立てか。安心しろあれなら彼奴らだけで何とかなるさ」


 護衛のその言葉を聞いた人達から緊張感が抜けていく。


 が、そんなことで俺があんなにデカい声を出さない。世の中そんなに甘くないって。


「違う。あいつじゃない。あれよりもまだデカ──」


 デカい奴がいると言い終わる前にそいつが森から現れた。


 最初に現れた猪よりもまだデカく、全長4mは確実にありそうな奴だ。

 2m位の猪がそいつに寄り添う。

 どうやら番のようだ。魔物でも番になるのか?


 奴の見た目は前世で見たアニメに出てくる猪の王を思い出させる。


 ……なんて思い出に浸っている余裕はない。


 魔物の出現はカップルの元へたどり着いていた護衛達も気が付いたようだ。

 カップルを神殿に向けて走らせ、自分たちは殿をつとめるようにしてこちらに帰って来ている。


 幸い、魔物はまだ護衛達を認識していないようだ。

 このまま気付かれずに戻って来られてたら……と思っていると


「ぜ、全員神殿に逃げ込め!!(ピィーーー!!)」


 俺の近くにいた護衛が周りにいた人達へ逃げるように指示を出した後、胸元から笛を取り出して思いっきり鳴らした。


 馬留や階段にいた人達が我先にと神殿を目指して階段を登っていく。


 しかし警告のために鳴らしたその笛が魔物の呼び水となってしまった。

 こちらが魔物に気付いたように、彼奴らも笛の音でこちらに気が付いたようだ。


 あのままならやり過ごすことができたかもしれないのに。

 ったく、余計なことをしてくれたもんだよ!


 笛の音で俺達に気付いた猪の魔物は対岸をこちらに向かって走り出した。


 カップルと護衛の冒険者達は既に島へと繋がる道まで来ている。

 島まであと少しだが、このままでは神殿に着く前の階段辺りで追い着かれるだろう。


 こっちに残っていた護衛の冒険者が急げと急かしているが、一般人の走る速度なんてたかがしれている。


 奴等はまだ対岸を走っているから、俺に対して横っ面を向けている。

 距離的にも何とかなりそうだ。


「エルビラさん!耳を塞いで!……早く!」


 俺の真後ろまで来ていたエルビラさんに振り向いて指示を出す。

 サイレンサーを付けているとはいえ、至近距離で銃声をイヤーマフなしで聞くと耳がヤバい。


 彼女が両手で耳を塞ぐのを確認してから片膝になり、FN SCAR-Hを魔物に向ける。


 先ずは狙いやすいデカい方をやる。


 狙いを付けて迷うことなく引き金を引く。


ー ダダダダダダ─── ー


 フルオートで放たれた7.62mm弾が4m級の魔物を襲う。


 数発は外したようだが、猪の魔物はその巨大で地面を滑りながら倒れた。


 残るは2m程の猪のみ。


 奴は既に島へと繋がる道までやって来ている。

 少しだけ右に移動して猪が狙いやすい位置に移動する。

 その間にFN SCAR-Hをアイテムボックスへ入れることで撃ち尽くした弾を補充し、直ぐに取り出した。


 片膝のまま構え直した俺は、カップルと護衛達が射線上にいないことを確認してから引き金を引いた。


ー ダダダダダダ─── ー


 真っ正面から直線的に俺に向かってくる魔物へ狙いを付けるのは簡単だ。


 数発残して引き金から指を外した。


 頭部から数発弾を食らった2m程の猪も、走って来た勢いのまま地面に倒れた。

 危険察知の反応が倒れた猪から消えた。


 そうしているうちにカップルと護衛達が俺達の所まで帰ってきた。


「今の攻撃は君が?」

「はい、皆さん無事で何より」

「そうか、すまん、君のお陰で助かった。礼を言う。謝礼は」

「いえ、それはあいつの息の根が止まってからです。彼女をお願いできますか?」


 話しかけてきた護衛の冒険者がまだ話をしようとしていたが、俺はそれを遮りエルビラさんを預けて歩き出す。


「あ、ちょっ!待ちたまえ」


 俺を止めようとしたが無視をして魔物に近づく。俺の後ろからは護衛の1人が付いてくる。

 

 先ずは2m級。


 近くで見ても危険察知は反応なし。確実に死んでいるな。

 直ぐにアイテムボックスへ入れる。


「………ツ?!」


 なんのためらいもなく2m程の猪をアイテムボックスにしまった俺に、後ろからついて来ている神殿の護衛が何か言ってきているがスルー。

 対岸で倒れている4m級の魔物へ急ぐ。


 こいつが問題なのだ。

 あれだけ弾を食らったのに未だに危険察知の反応が出ている。つまり死んでないのだ。


 FN SCAR-Hをアイテムボックスに出し入れして弾を補充する。そして構えたままで近づくと微かに息をしているのが分かる。


「おい、こいつまだ生きてるぞ!」

「えぇ、知ってますよ。だから急いでここまで来たんですから」


 そう言って奴の頭部へ狙いを定め引き金を引き、数発をぶち込んだ。


ー ダダダダ ー


 魔物から危険察知の反応が薄れていき、やがて完全になくなった。

 やっと死んだようだ。やっぱりここまでデカい魔物は硬いな。


「さてと、こいつも死にましたので私達も神殿へ戻りましょう」


 この魔物もアイテムボックスに入れてエルビラさんが待っている神殿へ戻った。


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