50話
神殿のお土産売り場は日本の神社と同じ様な感じだった。
やはり御守りとかが多かったが、神殿のミニチュアや神様か誰かの像なんかも売っていた。
ただどれも可愛らしい物が多く、女性をターゲットにしているのがよく分かる。
とりあえず家族と一葉のみんなの分の御守りを買っておいた。あとエルビラさんにも。
「エルビラさん、この御守りをどうぞ」
「いいんですか?ありがとうございます。では私からはこれを……」
そう言って俺に渡してくれたのはブレスレットだ。
その表面には文字の上半分だけがブレスレットに書かれている状態で、まったく読めない。
もしかしたらこれは……
チラッとエルビラさんの手首にあるブレスレットを見ると、文字の下半分があるようだ。
2つで1つになるブレスレットか。そういう意味を持たせているんだろうなぁ。
「ありがとうございます。大事にしますね」
「はい、私もドルテナさんからいただいた御守りを大切にしま……キャ!」
俺の方を向いたエルビラさんと目が合った俺は急に胸が高鳴った。
彼女を抱きたくなる衝動に駆られた俺は、無意識のうちに彼女に抱きついてしまった。
俺の腕の中に収まった彼女からいつも使っていると思う石けんのいい香りがした。
「………ッは!す、すみません!!」
我に返った俺は、慌てて彼女から離れた。
なんて事を……。これで変態確定だな。というか嫌われただろうな。
「……あ。……いえ、その……大丈夫です。……ただ人前では恥ずかしいです」
そう言って俺の横に立った彼女は、腕に自分の腕を絡ませて引き寄せた。
そのお陰で俺の腕には彼女の柔らかいものがムニュッとあたっている。感触から推測するに、もしかしたらEかもしれないぞ……。
これはいかん。本当に暴走しそうだ。
このままだと本当に彼女を抱きたくなりそうなので、大きく息を吸い込んで心を落ち着かせる。
この神殿に来てからやたらとドキドキするというかムラムラするというか、なんか変だな。
少し落ち着いたところでこの神殿にはなんの神様が奉られているのかが気になった。
そう思ってなにげに神殿をみると神殿の説明が現れた。
無意識のうちに鑑定スキルを使ったらしい。
「……ッ!」
そしてその説明内容に驚いてしまった。
「ドルテナさん、どうかされました?」
「あ、いやなんでも。……ところでエルビラさんはこの神殿にどんな神が奉られているかご存じですか?」
「はい。えっと………恋愛の神様が……」
と、顔を真っ赤にしながら応えてくれた。
「恋愛の神様ですか?……そうですか……。あ、昨日行ったお店の人に聞いたんですか?」
俺の腕を更に引き寄せて首を縦に振った。
だが俺の鑑定スキルで出ている説明文はちょっと違うようだ。
鑑定スキルではここの神様は、子孫繁栄の神となっている。
各種生物の個々の血が繋がった子供・孫・玄孫云々と沢山生まれ、そして永遠に断絶することなく続いていくことを願う神だそうだ。
なんで恋愛の神様にすり替わっているんだろう。
そしてこのハーシェル神殿には加護があると。その加護は神殿内においてのみ効果がある様だ。
そういえば広場に入ったときに感じたヌルッとしたものが加護だったのかも。
その加護というのは、種を残すことの重要性を強固に感じさせ、その為の行動に意欲的となる。またその行為に対して神が力添えをする事により、疲れ知らずとなる……。
ハーシェル神殿にいるときは生殖行動が促されるってことだろ?
この神殿ヤバいんじゃないだろうか……。バイ○グラも真っ青だな。
あ!だからか!俺が急にエルビラさんに抱きついたりしたのは。
で、エルビラさんもそんなに嫌そうにしなかったのも加護の影響か……。
しかしあれだな、ここにホテル建てたらボロ儲けだな……。
そんなやましいことを考えているとまたムラムラしてきそうなのでとりあえず広場から出よう。
お互いにプレゼント交換ならぬ御守り交換?を終えた俺達は、腕を組んだまま階段を降りていく。
この時間なると俺達以外にもミキヒへ帰る人がちらほらいる。
徒歩の人は今から出るとちょうど夕方にミキヒへ着くだろう。
俺達は馬だからもう少し早く着くけどね。
護衛もなしで歩いて帰る人がいるのは、軍による魔物狩りがしっかりと行われている証拠だな。
冒険者としては獲物が取られている感がしなくもないが……。
あと10段ほどで階段を降りきるところでエルビラさんが急に立ち止まった。
「どうしたんです?どこか具合が悪いですか?大丈夫ですか?」
立ち止まったエルビラさんが下を向いているので体調が悪いのかもしれない。
食あたりか?いや、アイテムボックスに入れていたからお昼御飯が腐っていたということはないんだが……。
「あ、あの……ドルテナさんにお願いがあるのですが……」
「はい、なんでしょうか?私に出来ることでしたら大丈夫ですよ」
下を向いたままのエルビラさんが何かを頼みたいらしい。
さっき抱きついた手前、たいていのことなら頼み事を聞こう。
「えっと……あれをやって欲しいのですが……」
そう言うと、階段下にいるカップルの方を指さした。
そのカップルを見ると、男が階段を降りきったところに立ち、まだ階段にいる女性へ手の差し伸べている。
女性はその手を握って階段を降りていった。
なんだ、そんなことか。もっと大変なことかと思って身構えてしまったが、たいしたことじゃなかった。
「構いませんよ。もっと難しいことかと思いました」
俺はエルビラさんの腕をほどいて先に階段を降りた。
そして階段の方へ振り向き、数段上にいる彼女へ手を差し伸べた。
すると顔を真っ赤にしてハニカミながら、俺の手が届く位置まで階段を降りてきた。
そして俺の顔を見て、スッと手を伸ばしてきた。
そんなエルビラさんの顔に少しドキッとしてしまった。
そんな顔したら惚れてまうやろぉ~!
うむ?!なんでこうなる?この辺りは加護がないはずだけど……。
思春期の13歳にはあの加護は強かったってことか?だからまだ影響が残っているんだろう。
暫く見つめ合っていたためドキドキしながらエルビラさんの手を掴もうとしたその時、エルビラさんの視線が俺から外れて後方にある対岸の方を見た。
笑顔から真顔になったエルビラさんの表情を見た俺は、彼女が見たものが気になり後ろを振り返った。




