49話
「あ゛あ゛~。たまらんわぁ~」
温泉宿の醍醐味、朝風呂を堪能している。
朝から風呂に入るのは珍しいのか、俺以外誰もいない。
「貸し切り風呂状態だな。誰もいないから足を気兼ねなく伸ばせるのはいいなぁ」
今日はエルビラさんとハーシェル神殿に行くのだが、お昼頃に着けばいいので今朝はゆっくりだ。
それに、昨日頼んでいた物がまだ届いていないから早く行こうとしても出発できないんだけどね。
「そういえば、昨日ヘイデンさんが言っていたハーシェル神殿の神様ってなんなんだろうなぁ。まぁ変なことでは無いとは思うけど……」
かなり立派な神殿らしいから呪いのとかそういう系ではない……と思う。
「まぁ、それは行けば分かるか。しかし温泉はいいわぁ。いつか浴槽を作ってどこでも風呂に入られるようにしたいけど、こういう温泉の湯がもらえたら最高だろうなぁ」
草原の中に浴槽を置いて露天風呂にして浸かっている俺を想像しながら朝風呂を楽しんだ。
朝風呂を堪能して部屋に戻る途中、カウンターで呼び止められた。
俺が風呂に入っている間に頼んでいた物が届いたようだ。
馬も既に届いているようで、厩舎で預かってくれているらしい。
「そうですか、ありがとうございます。今日これからハーシェル神殿まで行くんで、馬の飼い葉をお願いします」
馬の昼ご飯を持って行ってあげないと可愛そうだ。
飼い葉代を支払い部屋に帰った。
後はエルビラさんが自分の用意が調ったら俺を呼びに来ることになっている。
とはいえ、部屋の中でする事なんて何も無いので部屋の窓から外を眺めて時間を潰していた。
人間観察は日本にいるときから割と好きで、関西に住んでいた頃はよくファストフード店で外を眺めていたものだ。
日本と違い、この世界には亜人もいるので外を歩いている人達を眺めるのはとても楽しい。
人間観察を楽しんでいるとエルビラさんが俺を呼びに来た。
「おはようございます。ドルテナさんそろそろ出掛けませんか?」
「えぇ、行きましょうか。馬も昨日頼んでいた物も届いていますので大丈夫ですよ」
二人で厩舎に行き馬に乗ってハーシェル神殿へ向けて出発する。
厩舎に入ると頼んでいた物が隅の方に置かれていた。
スタッフに声を掛けて飼い葉をもらい、届いた物を受け取る。
「これが昨日ドルテナさんが頼んでいた物ですか?」
エルビラさんの為に用意したのは馬に簡単に乗るための台だ。それも手すり付き。
「これがあれば楽に乗り降りできますからね。物は試しです。さっそく乗ってみましょう」
俺はそう言って馬の横に台を移動させた。
台に上って手すりを持ち、そのままササッと馬へ跨がった。
「ね、簡単に乗れるでしょ?さっ、次はエルビラさんの番ですよ」
俺はエルビラさんに手を差し伸べた。
エルビラさんも手すり掴んで簡単に乗ることが出来た。
「ドルテナさん、この台があるととても簡単に乗れますね」
「これなら降りるときも簡単ですからね」
エルビラさんも乗ったので台をアイテムボックスへ入れる。
台を残したまま出発したら降りるときに苦労するからね。
台を回収した俺達はハーシェル神殿のある島へと出発した。
俺達以外にもハーシェル神殿へ向かう人達はわりといた。
なぜが恋人同士が多いようだ。
ハーシェル神殿までは凡そ2時間で着いた。
道中、俺の前に座っているエルビラさんはとてもご機嫌だった。
ハーシェル神殿のある島はこの時期だけ陸続きになる。夏場で湖の水位が下がることにより、浅瀬になっている部分が水から出る為だ。
島は小高い丘のようになっており、その丘の上にハーシェル神殿が見える。
島へ上陸すると目の前に階段があり、それを上がったところがハーシェル神殿のようだ。
階段の脇には馬留が整備されている。
ハーシェル神殿に繋がる階段は横幅が10m近くあり、階段の下には左右それぞれに護衛と思われる人が2名ずつ立っていた。
階段脇の馬留で馬から下りる。ここでもあの台が役に立った。
ここには馬留を管理している人がいるらしく、馬を留めるのに代金を支払った。
ただこの代金には馬の世話やエサ代が含まれているらしい。
宿で買った飼い葉が無駄になってしまった……。
馬を預けて俺達は階段を上がっていく。もちろんエルビラさんと手を繋いだまま。
「ん?なんだ?」
「どうしました?」
「あ、いや……なんかこう……気のせいかな。すみません、なんでもないです」
階段を上りきった先はちょっとした広場になっていた。そこへ足を踏み入れた瞬間、何かヌルッとしたものが肌を撫でた。
でも横にいるエルビラさんは感じなかったようだ。
特に身体には異常はないから問題なさそうだ。
さてと、目の前の広場の先に神殿があり、右手には神殿関係の品が売られていた。
その風景は日本の神社を思い出させてくれる。
「懐かしいな……」
「え?何か仰いましたか?」
「あ、いや、何でもないですよ」
思わず呟いてしまった。
俺達は正面に見えている神殿へと進んだ。
すると横から巫女さんみたいな人が箱を持って近づいてきた。
その箱の中を見るとお金がたくさん入っていたので、どうやらお布施を入れて欲しいようだ。
銀貨をアイテムボックスから出して箱の中へ入れると、巫女さんは一礼して下がって行った。
二人で神殿で祈りを捧げる。
俺は教会などでもこの世界に生まれ変わることが出来たお礼を伝えるようにしているので、今回も同じようにお礼を伝えた。
祈りが終わってエルビラさんを見るとまだ目を瞑って祈りを捧げていた。
その横顔がとても綺麗で思わず見とれてしまった。
彼女の顔はとても整っており、とても可愛い。前世だとアイドルとかしていてもおかしくないだろう。
スタイルも良く、14歳にしてはとても成長している胸に思わず自然がいってしまう。
最近感じていたことだが、段々と肉体年齢に近い感覚で物事を捉えるようになっている気がしている。
そのせいか、エルビラさんと近くで目が合うとドキドキしてしまうことがある。
特に今日はその傾向が強い。13歳のくせに欲求不満なのか俺は……。
「……さて、裏手の……?ドルテナさん?どうかされ……どこ見てらっしゃるのですか……」
ジ~ッとエルビラさんの胸辺りを見ていたため、彼女にバレてしまった。
「あ、いやこれは……」
「……もう、これだから男の人は。私以外にそんなことしてはダメですよ」
溜息交じりに言われてしまった。
……ん?私以外にはって事は彼女にはいいって事か?
ならば多少のボディータッチならいいのか?既にD以上はあると思われるあれをこう……。
いや、そんなことしたら単なる変態。エルビラさんに嫌われてしまう。
……っていうか、なんでそんなにムラムラしてんだろう。
「さあ、この裏に行けば湖が見えるらしいので行きましょう」
そう言ってエルビラさんは俺の手を握って裏手に向かって歩く。
さっきあんな事を考えてしまったせいか、エルビラさんがする動作一つ一つが気になってしまう。
……この感覚はちょっとヤバいな。ロリコンじゃないはずなんだが……
でも肉体年齢を考えたらエルビラさんもありなのか?
前世ではスタイルもいい上にアイドル級に可愛い子と知り合う機会なんて、普通はないもんなぁ。
そんなことを考えているうちに神殿の裏に出た。
神殿の裏手には広いスペースがあり、石で出来たベンチなどが置かれていた。
そこから湖を見るとミキヒの街が一望できた。
湖の向こうに見えるミキヒの街並みはとても綺麗で、観光に来ていると実感できた。
前世なら街全体がライトアップされて、綺麗な夜景が楽しめたことだろう。
このハーシェル神殿はとてもゆっくりと出来る場所だ。
景色も綺麗だし、湖の回りは軍による魔物狩りで安全だし、神殿入り口には護衛もいる。
俺の危険察知も、今はこの島だけを範囲にしている。
そうしなければ黄色や赤色などが景色に映り込んでしまい、折角のこの景色が台無しになってしまう。
俺達も空いているベンチに座り、お昼御飯にする。
夏の日差しは少し暑いけど、湖を通ってきた風が涼しく心地よい。
前世でもこういう観光地みたいな場所へは行ったことがなかったので結構楽しい。
ゆっくりとお昼御飯を食べてお喋りを楽しんだ。




