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48話

 ミキヒの冒険者ギルドの中は、お昼過ぎということもあり閑散としていた。


 併設されているバーには数人の冒険者が食事を取っていたが、受け付けなどのカウンターには誰も並んでいなかった。


「マホンとそんなに変わらないんですね」

「ですねぇ。違う街のギルドとはいえ、やることはどこも同じですからね。必然的に似てくるのこもしれません」


 俺もエルビラさんもマホンとは違う感じのギルドを少し期待していた分、肩透かしを食らったような感じになってしまった。


 さて、本来の目的を済ませてしまおう。

 エルビラさんを連れてカウンターに行き、スタッフに声を掛ける。

 もちろんスタッフは容姿の良い女性だ。


「こんにちは。マホンから来たのですが明後日までここに滞在するので手続きに来ました」

「ありがとうございます。明後日までご滞在と……ではお2人ともギルドカードをお願いします」

「あ、いえ、手続きは私だけです。彼女は付き添いです」


 隣にいたエルビラさんも冒険者と思われたようだ。

 アイテムボックスからギルドカードを出してスタッフに渡す。


「お預かりします。……お名前がドルテナさんで、冒険者見習いと。それからランクはFと……えふ?」


 ランクを見た所で俺の顔をマジマジと見てきた。


「えっと……年齢が13歳となってますがお間違いありませんか?」

「はい、間違っていません。私は13歳です」


 中身は40歳代ですが……。


「そ、そうですか……。暫くお待ち下さい」


 そう言うとスタッフは奥にいる男性スタッフと話をしている。

 もしかしたらカードを偽装したと疑われているのか?

 まぁ確かに13歳の冒険者見習いがランクFとか、普通はありえんわなぁ。


 直ぐにスタッフは帰ってきてカードを返してくれた。


「お待たせしてすみません。1年目の冒険者見習いの方でランクFになられる方があまりおられないので確認に手間取りました。これで手続きは終わりです。滞在中、何かお困りでしたら何なりと仰って下さいね」

「ありがとうございます。では早速なんですが、明日ハーシェル神殿まで行きたいのですが、馬を貸してもらえるところを教えてもらえますか?」

「それでしたら──」


 ギルドから直ぐの所に1軒あるようで、そこはギルド御用達となっているから冒険者カードを見せると安くなるそうだ。

 お礼を言って冒険者ギルドを出る。


「明日借りる馬を手配してから宿へ戻ろうと思いますが、エルビラさんは一人で馬には乗れないんでしたよね?」

「はい、一人ではちょっと……。あの、わざわざ馬を借りなくても馬車の馬を使えばよろしいのでは?」

「でもあの馬と馬車はヘイデンさんが借りられている物。それを使うのもどうかと思って」


 俺がヘイデンさんから借りるとなると又貸しになる。俺は昔から又貸しとかは嫌いなんだ。するのもされるのも。


「父が借りている物を娘が使うんですから問題ないと思いますけど……」


 それも一理あるが、使わない理由がまだあるんだ。


「それに、明後日にはワカミチへ帰るので馬達も休ませてあげたいんですよ」

「それもそうですね。すみません口出ししてしまって」

「いえいえ、そんなことを気にしてないですよ。私もエルビラさんに説明せずに話を進めてしまいましたからね」


 そういうことで明日使えるように馬を一頭借りる事に決まった。

 エルビラさんは一人で乗れないので、二人で乗ることにした。


 馬の手配は直ぐにすんだ。ギルドカードを見せるだけで見習いでも問題なく借りられた。

 明日、宿まで届けることも出来ると言うことなのでお願いしておいた。もちろん有料だけどね。


「さてと、これで明日の移動手段はO.K.と。後は……あれだな」

「まだ何かあるのですか?」

「ええ、ちょっと用意したい物があるので、木工工房に行きたいと思いますがいいですか?」

「もちろんいいですよ」


 そう言ってエルビラさんは俺の手を握ってきた。

 なんかこのスタイルが当たり前になってきたな。まぁいいか。


 工房はさっきの馬を借りたところで場所を教えて貰った。


「何を買われるのですか?」

「馬の乗り降りを楽に出来るように台を作って貰うんです」


 馬の乗り降りは慣れないと難しい。なので台を使って乗り降りしやすいようにしたいのだ。


 教えて貰った木工工房で制作をお願いすると、明日には出来ていると言われたので追加の代金を払い宿まで届けてもらうことにした。

 これでエルビラさんも乗り降りが楽に出来るだろう。


 この後は店を色々と見ながら宿へ帰った。


 途中、布生地を取り扱っている店で敷物代わりの大きめの布を購入しておいた。

 地ベタにエルビラさんを座らすのもどうかと思ったからだ。


 さて、今夜の宿は温泉付きだ。念願の温泉!。

 公衆浴場は凄く狭かった。いや、この世界では標準的な広さなのかもしれないが俺にとっては不満だらけの場所だった。

 だからここの温泉に期待している。


 だがその前に、明日エルビラさんとハーシェル神殿まで行く話をヘイデンさんにしておかないといけない。


「では父を呼んできますね」

「はい、お願いします」


 部屋の前で待っているとエルビラさんが一人で出てきた。


「父なんですが、どうやらお風呂に入りに行っているようなんです。部屋に買い付けが置いてありました」

「なら私もお風呂に入りに行きたいのでちょうどいいですよ。エルビラさんはどうしますか?」

「私も行きたいので待っていてもらえますか?」


 ということで、二人でお風呂場まで行くことになった。


 お風呂の入り口の前にやって来た俺達は、いや俺だけが立ち止まっていた。


「?……ドルテナさん?入らないんですか?……ドルテナさん?」

「……あ、すみません。えっと……入りましょうか」

「はい。あ、私時間がかかると思うので、先に帰ってて下さいね」


 入り口の前に立ち止まったままだった俺は、エルビラさんに促されて男湯の方に中に入った。


「まさか入り口に暖簾があるとは思わなかったな。それもちゃんと男と暖簾に書いてあるとは……日本を思い出してしまった……」


 そう。お風呂の入り口に暖簾がかかっており日本で見た物にそっくりだったのだ。

 それを見て思わず足を止めてしまったんだ。


「さてと、温泉を楽しませてもらうとするかな」


 脱衣所で着ている物を全てアイテムボックスへ入れて、タオルを1枚取り出し肩に掛ける。


「ここの風呂はどうなっているのかな」


 浴室へと繋がる扉を開けると、公衆浴場よりも広い洗い場に大きな石造りの浴槽が目に入ってきた。


「おぉ~。いいねぇいいねぇ~。これだよこれ!これを求めてたんだよぉ」


 温泉はもちろん掛け流しだ。


「おや?ドルテナさんもお風呂ですか?」


 浴槽の一番奥に浸かっていたヘイデンさんが声を掛けてきた。


「えぇ。ヘイデンさんに聞きたいことがあって来ました。エルビラさんがヘイデンさんはお風呂だというのとを教えてくれましたので、話しついでにお風呂も堪能しようかと」


 ヘイデンさんと話しながら体を洗い、お湯が並々と張られている浴槽へ浸かる。

 タオルは頭の上に乗せるのが俺の癖だ。


「あ゛あ゛~」


 俺の心の声が思わず出てしまった。


「……ドルテナさんは時々年齢とは違った行動をされるので、ついつい娘より年上に感じてしまいます」

「あははは……。昔からよく言われます」


 しょうがないよ。だって中身は40過ぎの……。


「所で私にお話とは?」

「明日なんですが、エルビラさんとハーシェル神殿に行こうという話になりましてね。それでヘイデンさんの許可をもらいたいと思いまして。もちろん行き帰りは私がしっかりと護衛します」


 暫く考えていたヘイデンさんだったが、いいですよと許可をくれた。


「道中、娘をよろしくお願いします」

「はい、それはもちろん。必ず掠り傷ひとつ付けずに帰ってきますよ」

「ありがとうございます。……ちょっとお伺いますが、ドルテナさんはハーシェル神殿にどのような神が奉られているかご存じですか?」


 どんな神が?……いや、誰にも聞いてないな。


「残念ながら……。街の方には景色のいい所でこの時期しか歩いて渡れないとしか聞いてないですね。どんな神が奉られているのですか?」

「そうですね……きっと明日エルビラがハーシェル神殿で教えてくれると思います。それまでのお楽しみと言うことで」


 うむ。ヘイデンさんを見る限り変な神ではなさそうだな。明日、エルビラさんに教えてもらおう。


 ここの湯は透明だが少しヌルッとしているように感じる。このヌルッとしているので肌にいいって言われているのかな?


 ここには露天風呂はないけど、この世界の何処かにはきっとあるだろう。


 この世界は夜になると殆ど灯りがない。空気も澄んでいる。なので夜空の星がとてつもなくキレイだ。

 前世でも地元から車で30分程の所に天文台があったので行ったことがあるが、その比ではないくらいキレイだ。


 いつか露天風呂に浸かりながら満天の星空を満喫できたらいいなぁ。


 そんなことを思いながらこの世界で初めての温泉を堪能した。


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