47話
「お昼御飯は何処で買って行くのですか?」
俺達は宿を出て、湖に出る方の門へ向かっている。
俺の左手を握って楽しそうに歩いているエルビラさんが聞いてきた。
「あそこのお店のサンドイッチがお薦めだと宿の方に聞きましたので、それを買っていこうと思っておます」
そう言って右手に見えてきたお店を指さして教えた。
「あそこですか?ほら、行きましょう」
エルビラさんに引っ張られながらお店へと入っていった。
教えてもらったお店はパン以外の食品も扱っていた。パンはどこからか仕入れてきてこの店でサンドイッチにしているのかも。
「エルビラさんの好きな物を選んでくださいね。ついでに私のもお願いします」
「はい。待っててくださいね」
湖畔まで行って食べるのがパンだけでは味気ない、果物もいくつか買って持って行こう。
そう思って果物を選んでいると、サンドイッチを選び終わったエルビラさんが戻ってきた。
「果物ですか?」
「えぇ。折角湖まで行くのでこういうのもいいかなって。好きな果物がありますか?」
「ドルテナさんが選んだものならどれでも」
「そ、そーですか……。ではこれくらいでいいかな。……すみません!……ご主人。これをください」
サンドイッチと果物の代金を支払い店を後にする。
そこから少し歩くと湖へ行ける門に着いた。
この門から湖までも距離があるから少しお昼が遅くなりそうだ。
「君達、どこへ行くんだ?」
俺達が身分証を出そうとする前に門兵が尋ねてきた。
素直に湖畔でお昼御飯を食べることを告げると……
「残念だが今日は諦めなさい。今、湖の回りは軍が魔物狩りをしているから近づかない方がいい。明日にしなさい」
どうやら2日に1度の魔物狩りの日だったようだ。
門兵曰く、気性の荒い奴らもいるようで、若い二人が湖畔でお昼御飯を食べていたら絡まれる可能性もある。だから近づかない方がいいそうだ。
そんな#輩__やから__#は一発ぶちかましたら黙るだろうが、軍隊相手にドンパチやったらこっちの首が物理的に飛ぶ事になるな。
しょうがない、明日に延期した方がよさそうだな。
「……分かりました。日を改めます。エルビラさん帰りましょう。またあ…す……」
明日にしましょうと伝えるためにエルビラさんへ顔を向けると、そこには肩をガックリと落とし背後には“ガーン”と文字が浮かんでいそうな雰囲気を漂わせているエルビラさんがいた。
「エルビラさん、そんなにガッカリしなくても……。明日がありますから。ね?」
「……はい……」
ここにいてもしょうがない。湖がだめならどこかお店でお昼御飯を食べられる場所を探そうかな。
街のことは地元の人に聞くのが一番だ。ちょうど目の前にいる門兵に聞いてみよう。
「すみません、この辺りでお昼御飯を食べるとしたらどこがお薦めですか?」
「この辺りかぁ~。ちょっと遠いがいいか?」
「えぇ、お願いします。彼女がこうなってますんで、このままって訳にもいきませんし……」
「あははは、そりゃそうだ。その店はな、この道を──」
門兵に教えてもらったお店は街の中心部の広場に面したお店のようだ。所謂若者向けのお店らしい。
店の雰囲気だけでなく、味の方もお薦めとのことだ。
教えてくれた門兵にお礼を言って、#項垂__うなだ__#れたままのエルビラさんの手を引きながらその店を目指す。
「エルビラさん。今日はお店で御飯になりますが、明日は湖に行けるんです。だから元気を出して下さい」
「……わかりました。明日も一緒にお昼御飯を食べられるんですからよかったと思うようにします」
俺と繋いでいる手の力が少し戻ったので元気は出てきたようだ。
教えてもらったお店も直ぐに見つかった。昼時から少しずれたため店内は空いており、ゆっくりと食べられそうだ。
オープンテラスがあったのでそこに座り、2人ともランチセットを注文した。
運ばれてきた料理をこの後どうするかを話しながらいただいた。
「ここからだと冒険者ギルドが近いのでこの後に行きたいんですが、エルビラさんはどうします?あれなら一緒に行きませんか?」
「私が一緒でもいいのですか?」
「はい、特に問題は無いと思いますよ」
ギルドに関係の無い人は立ち入り禁止、なんて規則はなかったはずだ。
「ではぜひ。マホンのギルドとはまた違った感じなんでしょうかね?」
「どうなんでしょうね?私も楽しみなんです」
どこのギルドでも冒険者見習いは保護の対象だ。絡まれることはないだろう。
そういう話をしているうちに出された料理を食べ終わり、店員が紅茶を運んできた。
「でも今日は残念でした。折角ドルテナさんと湖畔でお昼御飯を食べられると思ったのに……」
「もし食べられたとしても、軍がいるところでゆっくりとお昼御飯をとはいかないでしょうね」
少し寂しげなエルビラさんに紅茶を運んできた女性店員が声を掛けた。
「お客さん、湖畔がダメだったということは軍が出ていたからなの?」
「はい、一緒にお昼御飯をと思っていたのですが……」
「あぁ、軍が湖の周りに来ている時は湖畔には近づかない方がいいわね。そうねぇ、明日行くとしたらハーシェル神殿がお薦めよ」
「「ハーシェル神殿?」」
初めて聞く名前に思わず俺まで聞き返してしまった。
「湖の対岸側に島があって、そこに神殿があるの。夏で湖の水位が下がるこの時期だけ歩いて渡れるのよ。それにね、ハーシェル神殿は縁結びの神殿って言われているの!恋人同士で行くと愛が深まり、まだ恋人がいない人が行くとすてき人に出会えるようになるそうよ」
「本当ですか?!」
エルビラさんの食い付きがパネェっす。
「ええ、本当よ。あのね、……(ゴニョゴニョ)……」
女性店員がエルビラさんの耳元で何かを吹き込んでいる。
俺はその内容が聞こえないが、エルビラさんの表情がめまぐるしく変わる様子を見て何やら嫌な予感がしてきた。
さて、いったい何を吹き込んでくれたのやら……。
「わかりました。私、頑張ります!」
「私も応援してるわ」
そう言って2人は熱い抱擁を交わした。そして女性店員はエルビラさんへサムアップをしながら立ち去ろうとしている。
って、何をしとるんだこいつらは……。
そのまま立ち去ろうとした女性店員を俺は慌てて呼び止めた。
「あ!ちょっ!すみません!そのハーシェル神殿って遠いんですか?」
「馬なら2時間程度で着くはずよ。冒険者ギルドの近くで馬は借りられるわ」
お礼を言うと、女性店員は仕事に戻っていった。
そうすると、明日のお昼御飯はそのハーシェル神殿って所で食べるのもいいな。
エルビラさんが行きたいと言えばだが、今のエルビラさんの顔を見る限り「行かない」という選択肢はなさそうだな。
それと恋人同士で云々は……どうにかなるだろう。
「明日のお昼御飯は折角なのでハーシェル神殿って所で食べますか?馬で行けばあっちでゆっくりしても夕方には帰って来られると思います。お父さんに話して許可が出ればの話しですけどね」
今日の予定とは違い、湖の反対側まで行くことになる。
いくら軍が魔物狩りをしているから安全だとはいえ、一言も言わずにエルビラさんを遠くに連れて行くのはマズいだろう。
「そうですよね。でも大丈夫と思いますよ。父もドルテナさんと一緒なら許可してくれると思います」
ヘイデンさんが必ず許すとなぜか確信しているようだ。
さて、明日の予定が決まったところで食後の紅茶も飲み終えた。
代金を支払い店を後にする。向かうは冒険者ギルドだ。




