46話
「セベロさん、いいですよ」
ワカミチ村の門での手続きが終わり、全員が馬車に乗り込んだのを確認したヘイデンさんがセベロさんに伝えた。
それを聞いたセベロさんは馬車をミキヒに向けて走らせ始めた。
俺達の馬車の前には駅馬車が走っている。向こうにも護衛が付いているので2台で移動すればその分戦力も多くなるため安全度も上がる。
そのせいか、ワカミチ村までの道中に比べ車内は賑やかだ。
今日はヘイデンさんの隣に座っているノーラさんと俺の隣にいるパメラさんは、自然風呂の事で盛り上がっている。
その話にヘイデンさんが巻き込まれて少し困り顔だ。
「皆さん楽しそうですね♪」
「そういうエルビラさんも楽しそうですよ」
「だってキヒキヒも何とかなりそうですし、今日は自然風呂にも入れるんですよ。観光目的の旅が出来るなんて思ってませんでしたから」
そうだな。旅の目的は達成したも同然だ。後はミキヒで自然風呂を楽しんでいればいいだけだ。
ミキヒまでの道も駅馬車の護衛もいるから安全だしな。
実際に危険察知に引っかかる者はいない。
ワカミチ村とミキヒの距離も大して離れていないようだ。休憩なしでの移動とはなるが、お昼には着くらしい。
ミキヒに着いた駅馬車は、少し休憩をして折り返してワカミチ村へ帰る便になる。
ミキヒからも同じように朝出て夕方に帰る便があるそうだ。
「ミキヒって自然風呂以外には何か特徴がありますか?」
ミキヒには2泊の予定だ。温泉も楽しみだが、ずっと温泉に浸かりっぱなしもなぁ。
「そうですね……自然風呂の熱を利用した食べ物が色々ありますし、近くに湖もあって釣りも出来ますよ」
温泉卵とか温泉饅頭みたいな物があったりするんだろうか?
そうなると、まんま日本の温泉街だな。
湖もあって釣りも出来る……?
「ヘイデンさん、湖で釣りが出来るってことは、待ちの中に湖があるんですか?」
森や山には魔物がいてもおかしくない。だからそんな街の外でゆっくり釣りなんて出来ないはずだ。
それでも釣りが出来るということは待ちの中に湖があるとしか考えられない。
「いえいえ、街の外ですよ。あの辺りは国境警備の軍が2日に1度のペースで魔物狩りをしています。なので湖周辺は比較的安全ですので、湖で釣りをしても大丈夫です」
ミキヒの先には国境の街があり、そこには国境警備の軍が常駐している。
その軍が訓練を兼ねて魔物狩りをするんだそうな。
「なら湖畔でお昼御飯なんかを食べても大丈夫そうですね」
「ええ、大丈夫ですよ。軍が訓練をしているので山賊の類もいませんよ」
昼はピクニック、夜は温泉が楽しめるのか。
これで俺が成人していたら、この世界の温泉街にもきっとあるであろう歓楽街も楽しめるんだろうが……ナイスバディのバニーちゃんと──
「痛っ!」
なぜか急に横に座っていたエルビラさんに思いっ切り二の腕を#抓__つね__#られた。
「エ、エルビラさん?#抓__つね__#られると痛いんですけど……」
「何か変なこと考えていたのが悪いんです!」
歓楽街のバニーちゃんの事を考えていていたのが顔に出てたのか?思わず顔に手を当てて確認してしまった。
しかし、女の勘はほんと怖い……ん?何で痛かったんだ?
俺は今、戦闘服を着ているんだぞ。防御力はかなり高いはずだ。だから#抓__つね__#られる程度では痛みなんて無いはずなんだが……。恐るべしエルビラさん。
「別に変なことは考えてな……」
「…………………」
言い訳をしようとした俺を、戦闘服の上からダメージを与える事が可能なエルビラさんがジト目で俺を見ている。
そのジト目に耐えられなくなった俺は話をそらすことにした。
「あ~、そうそう、湖の回りは比較的安全らしいので、湖畔でお昼御飯を食べに行きませんか?」
「……はぁ~、分かりました。きちんとエスコートして下さいね?」
「エスコート?ですか?……頑張ります……」
エスコートって……湖畔でお昼御飯食べるだけなんだが。
とりあえずこれで機嫌を直してもらえたようだから良しとしよう。
馬車は順調に進み、ミキヒの近くまでやって来た。
「お~い、見えてきたぞ」
御者台のアダンさんの声で前方を確認すると、大きな壁に守られた街が見えた。
ここからは見えないが街の向こう側には湖が広がっているはずだ。
「大きな街ですね」
「人口は2万人位ですが、この先にある国境の街にいる軍の支援施設なども沢山ありますから、人口に比べて街の広さは結構ありますね」
軍の施設が多いなら警備もしっかりしているだろうな。
この規模の街ならギルドがあるかもな……。
「ノーラさん、ミキヒにも冒険者ギルドがあるんですか?」
「あるわよ。門から少し入ったところの左にあったはずよ」
ならばギルドに行ってミキヒに来ていることを報告しないといけない。
エルビラさんと湖に行く前に寄らせてもらおう。
門での手続きも問題なく終わり、俺達はミキヒへ入る。
「ヘイデンさん、宿はどの辺りで取る予定です?」
「ここから反対側の門の近くになります。あの辺りに自然風呂のある宿が多いんですよ」
となるとギルドからは距離があるか……。
この後、エルビラさんと湖畔でお昼御飯を食べることにしているから、ギルドに行くのはそれからにしよう。
「ドルテナくん。ギルドはこの道の正面のあの建物よ」
ノーラさんが俺の後ろ側を指さしてギルドの建物を教えてくれた。
「ありがとうございます。午後から顔を出しておこうと思います」
街を進んで行くと、白い湯気が立ち上っている建物がちらほらと見えてきた。
通りには食堂や露店が並んでおり、美味しそうな匂いを漂わせている。
「お昼時にこの香りはヤバいわね」
俺の正面に座っているノーラさんが馬車から身を乗り出しそうな勢いで、通り過ぎる露店を恨めしそうに眺めている。
電車に座って外を眺めている子供のようだ。
そして結果的にその格好は俺に向けてお尻を突き出している事になるため、俺は目のやり場に困っている。
スカートではなくズボンなのがザンネ……いや、なんでもない。
そんな姿をパメラさんが許すはずがなく……
「ノーラ、お行儀が悪い」
と、やはり注意した。
「だってしょうがないじゃない。お腹が空いているときにこの美味しそうな匂いを無視なんて出来る訳がないでしょ?」
そう言って露店から漂う香りを美味しそうに鼻から息を吸い込んでいた。
「う~ん♪いい匂い。ねぇパメラ、お昼は何にする?」
「……まったく……。宿に着いてからゆっくり探したらいいでしょ」
そう言っている間に宿泊予定の宿に着いたようだ。
「着きましたよ。皆さん降りましょうか」
ヘイデンさんに従い馬車から降りていく。
御者台の2人も降りたのを確認してヘイデンさんを先頭に宿へ入り部屋を取る。
「それではお客様方、館内のご説明をさせていただきます。まずお食事は── 」
食堂や風呂の場所等の説明を受けた後、部屋へ案内してもらった。
造りはこの世界の物だが、日本の旅館と同じ様なシステムのようだ。
「さてと、エルビラさんに声を掛けて湖まで行こうかな」
折角案内してもらった部屋だが直ぐに出てエルビラさんを迎えに行く。
湖畔でお昼御飯をする約束をしているからな。




