45話
「それがな……今裏にある奴が最後のキヒキヒなんじゃが、後#3日4日__みっかよっか__#はかかりそうなんじゃ。今年は晴れる日が多くて乾燥させるにはちょうど良い日が続いておる。それでもあと少し時間はかかるじゃろう」
「分かりました。ではそれまでワカミチ村に滞在することにします」
「そりゃぁ構わんが、こんな田舎で3日4日も滞在してもする事が無いぞ?それだったらミキヒに行ってみてはどうじゃ」
ミキヒはワカミチ村から更に先に進んだところにある街だ。
ワカミチ村より大きな街だから時間を潰すにはちょうどいいだろうな。
「ミキヒですか。今もここから馬車がでているんですか?」
「あぁ、朝晩の2便だが出ておるぞ」
「ならそれもいいかも知れませんね。さて、長居してはお仕事の邪魔にもなりましょうからそろそろお#暇__いとま__#させてもらいますね。4日後にまた寄らせてもらいます」
ヘイデンさんが立ち上がりベニートさんと握手をする。
「その時にはばぁさんもおるじゃろう」
俺とエルビラさんもベニートさんと握手をして家を出た。
「ヘイデンさん、ミキヒに向かうんですか?」
さっきの話しの流れだとキヒキヒが仕上がるまでの間、ミキヒまで足を伸ばすような感じだったが。
「せっかくなのでそうしようかと思っています。良ければドルテナさんもご一緒にいかがですか?」
「はい、是非とも」
折角の機会だから断る理由はない。それなりに大きな街だと聞いているが……。
「ミキヒはどういう所なんですか?」
「人口は2万人位ですね。一番の特徴は自然風呂があることでしょうか」
自然風呂?露天風呂か?!それは俺に覗けといっているんだろうか……。スコープで遠くからても見ることが可能なんだが……いや、やめておこう。
本来の使用方法以外で使った場合、この能力を与えてくれた(であろう)神様のお怒りを買う可能性もあるしな。
しかし気にはなる……。
「その自然風呂とはどういうものですか?」
「地中から湯が沸いてくる場所が数カ所あり、その自然の湯を利用した風呂があります。この自然の湯ですが、白く濁っていて少しぬめりがあります。この湯に浸かると肌つやが良くなったり、体の痛みが治まるといわれています。但し、濁っているので風呂の湯以外には使えないようですが」
温泉か?!温泉なのか?!これは絶対にミキヒに行かなければならないな。
「温、あ、いや、自然風呂は誰でも入れるんですか?貴族だけとかそういったことは?」
折角の温泉が独占されるなんて事になってたら俺は耐えられん!
「貴族専用の所もありますが、我々一般人にも利用出来るところはありますよ。宿によっては自然風呂がある所もありますから」
おぉ!まんま温泉街じゃないか!
「行きましょう!絶対に行くべきです!さぁ!さぁ!!」
「……そ、そうですね。とりあえず今夜は泊まって明日の朝出発しましょう。それに、ノーラさん達にもどうするの確認しないといけませんので」
手を強く握りしめて主張する俺に若干引き気味のヘイデンさんが、旅の護衛のノーラさん達の事を思い出させてくれた。
この世界で初めての温泉に浸かれるかもしれない喜びに、他のことが頭から抜けてしまった。
「……すみません、つい……」
「(クスッ)ドルテナさんがそこまで行きたいという自然風呂に私も興味が湧きましたよ。お肌にいいのは嬉しいですよ」
エルビラさんに笑われてしまったが、彼女もミキヒに行くことに賛成のようだ。
俺達3人がミキヒに行くことを決めた頃に宿へ着いた。
「お帰りなさいませ。お食事のご用意が出来ておりますのでいつでも食堂へお越し下さい」
「ありがとうございます。ドルテナさん、お先に食堂へどうぞ。私は明日からのことを話してから食堂へ行きますので。エルビラもドルテナさんと一緒に先に食堂へ行きなさい」
「分かりました。ではお言葉に甘えてお先に……」
ヘイデンさんがミキヒ行きのことを宿の主人に話してくれるようだ。
「ではエルビラさん、食堂へ行きましょうか」
「はい」
席に着いて直ぐにヘイデンさんも食堂へ入ってきた。
「ノーラさん達はまだ宿に帰ってきていないようですので、帰ってきたら私からミキヒ行きのことを聞いておきますね」
「ノーラさん達が行かない場合は駅馬車ですか?」
「はい、私達の馬車はここに預けて行きます。駅馬車には護衛も付いていますから安全です」
俺達が晩御飯を食べ終わるまでにノーラさん達は帰ってこなかった。
明日の朝の時間をヘイデンさんに確認して部屋へ入った。
「温泉かぁ。考えてみればこの世界もひとつの惑星なんだから火山活動があってもおかしくはないよな。となると温泉が湧いていてる事の方が普通なのかもな」
明日、温泉に入られることを楽しみに眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
翌日。
ー コンコン ー
「おはようございます、エルビラです」
寝ていた俺は、ドアをノックする音で目が覚めた。
「……はい……おはようございます……」
目をこすりながら体を起こして返事をする。まだ頭は寝ている感じだ。
「よかったら一緒に朝御飯を食べに行きませんか?」
「……いいですよ……ちょっと準備するので待っててもらえますか?」
「分かりました。部屋で待ってますね」
そう言ってエルビラさんは部屋に戻った。
部屋着から戦闘服に着替えて、防犯用にドアに立て掛けていたショートソードをアイテムボックスに入れる。
部屋の中に何もないことを確認してエルビラさんを呼びに行った。
ー コンコン ー
「エルビラさん、ドルテナです。お待たせしました」
声を掛けると直ぐにドアが開いてエルビラさんが出てきた。
「急がせてしまいましたか?大丈夫でした?」
「大丈夫ですよ。そろそろ起きようと思ってましたから」
折角女の子が起こしに来てくれたのだ。決して爆睡していましたとは言えない。
「そうそう、ノーラさん達も一緒にミキヒへ行くことになりましたよ」
「そうなんですね」
ノーラさん達は遅い時間に帰ってきたらしい。
俺が寝るまでには帰ってきた気配がなかったからな。
食堂へ降りると既にヘイデンさんとノーラさん達が朝御飯を食べていた。
朝の挨拶をしてヘイデンさんの隣に座る。エルビラさんは定位置となった俺の横だ。
「ノーラさん達もミキヒに行かれるんですね」
「そうよ。ワカミチ村にずっといるより、ミキヒに行った方が楽しいもの。自然風呂はお肌にいいのよ。行かない理由がないわよ。それに、私は肩こりが酷いから自然風呂に浸かってコリを解したいわ」
そう言いながら自分の隣に座っているパメラさんの胸辺りを見る。
「……無駄に、大きな物を付けているからよ……」
「無駄とは何よ無駄とは!これは私の努力のた── 」
ノーラさんはパメラさんの言葉に反論するため、自慢の胸を下から両手で持ち上げ強調していたが、そこにパメラさんが短剣を向けた。
「ッ!な、何よぉ……」
「そんなに、肩がこるなら、あたしが、減らしてあげましょうか?……」
そう言いながら短剣を少しずつ胸に近づけていく。
「ちょっ!わ、分かったわよ!ちょっと言い過ぎました!ごめんなさい!……そんなにムキにならなくてもいいじゃない……」
一応の謝罪を受け入れたのか、パメラさんが短剣をしまった。
「……朝からそういう話しをするノーラがいけない」
全くその通りだ。パメラさんに激しく同意します。
清々しい朝の一時が台無しだよ。




