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44話

 ワカミチ村へ入って宿でノーラさん達と分かれた後、ヘイデンさんに連れられて住宅地を歩いている。


「ヘイデンさん、こんな住宅地にその名人の方のお店があるんですか?」

「この住宅地の一番奥にご自宅があって、その裏が作業場になっているんです。お店は構えておられないんです」


 今回の旅の目的は、キヒキヒという茸を乾燥させた物を手に入れるためだ。

 本来なら、馴染みの行商人がワカミチ村からマホンまで運ぶのだが、その行商人が行方知れずになってしまいキヒキヒが手に入らなかった。


 キヒキヒにも品質の善し悪しがあり、ヘイデンさんが毎年仕入れていた物はワカミチ村でもトップクラスの名人が乾燥させた高品質な物だった。


 名人というのはどこの世界でも頑固者が多いようで、このキヒキヒの名人もご多分に漏れず頑固者だそうだ。


 その為、いつもとは違う行商人がその名人からキヒキヒを購入できるとは思えない。なので、ヘイデンさんが護衛を雇ってまで#態々__わざわざ__#ワカミチ村までやって来たのだ。


 まぁ、そのお陰で俺も旅が出来ているんだが……。


「そうなんですか……ただ、こう……なんと言いますか……」


 とても居心地が悪い。

 ここに住んでいる住民達なのだろうが、歩いている俺達をずっと見ている。


「余り気にしないで下さい。見慣れない私達を警戒しているだけで、何か危害を加えようとしている訳ではありません。この辺りには昔から家の裏手に作業場を持っている家が多いので、商品を盗まれないようにしているんですよ」


 なるほどね。みんなで見ることで防犯になるわけだ。確かに盗もうとしている奴なら顔を見られたくはないからな。


 日本でもそういう取り組みをしている所があったな。あいさつ運動だっけ?声を掛ければ泥棒が嫌がるからとかなんとか……。


「私もここに来るのはかなり久し振りです。さぁ、着きましたよ」


 そう言ってヘイデンさんは1軒の家の前で立ち止まった。

 その家は回りに建っている家と大して変わったところはなく、知らない人なら絶対に買いに来られないだろう。


ー コンコン コンコン ー


「こんにちは!……ベニートさん?おられますか?」

「誰じゃ!今は手が離せん!後にしろ後に!」


 ヘイデンさんがドアを叩いて名人の名前を呼ぶと家の裏手から返事があったが、あまりタイミングがよろしくなかったようだ。

 するとヘイデンさんは家の横道から裏手に向かって歩き始めた。


「あ、ヘイデンさん?いいんですか?後にしろって言ってましたが……」

「はい、大丈夫ですよ。着いてきてください」


 俺達にも来るように促して奥へ進んでいき、勝手に作業場に入っていった。俺達はさすがに作業場の入り口で立ち止まってしまった。


「誰じゃ勝手に入っ──」

「お元気そうですね。ご無沙汰しております」


 いきなり作業場に入り込んできた俺達に怒ってきたご老人にヘイデンさんが挨拶をした。


「ん?……お主はもしかして……ヘイデンか?」

「はい、お久し振りです、ベニートさん」

「やっぱりそうか!お前も元気そうだな。何年振りだ?ここに来るのは」


 ベニートさんは、先ほどとは打って変わって満面の笑みでヘイデンさんと話している。


「ちょうど10年振りになります。あの子が4つの時でしたから」


 と言ってエルビラさんの方を向いた。

 ベニートさんの視線を受けたエルビラさんが頭を下げたので俺も一緒に頭を下げた。


「おぉ、大きくなったなぁ。だんだんと母親に似てきたんではないか?」

「えぇ、妻によく似てきました。エルビラ、ご挨拶を」

「こんにちは、エルビラと申します。よろしくお願いいたします」

「大きくなったなぁ。うんうん」


 エルビラさんがヘイデンさんに促されて挨拶をしている姿を、まるで孫を見るかのような目で見ていた。

 そんなベニートさんが俺へ視線を移して怪訝そうな顔をしている。


「……エルビラちゃんの横におるのは誰じゃ?」


 今更ですか?ずっと一緒に居たんですけど……。


「彼は冒険者見習いのドルテナさんとおっしゃいまして、薬草採取の腕がとてもよい方なので親しくさせていただいております。ドルテナさん、こちらがベニートさんです」

「初めまして、冒険者見習いのドルテナと申します」

「……こやつは大丈夫なんじゃな?」


 ベニートさんがヘイデンさんに何やら確認している。俺、かなり怪しまれてる?

 確かに夏でも外套を着てるような奴だからな。怪しまれてもしょうがないのか。


「大丈夫です。以前、エルビラが街中で襲われそうになった時に彼が助けてくれました。まだ見習──」

「なぬ?!襲われただと?!」

「いえ、襲われそうになっただけですよ。かすり傷ひとつ負っていません」


 う~ん、実際には襲われてた所を俺が助けたんだが……。

 でもそれを知っているヘイデンさんが、あえて未遂の“襲われそうに”ということにしたいようだ。理由は分からないが……。


「都会は物騒だからな。気を付けねばならんぞ。それで、こやつが助けたと?見た所まだガキだが」

「えぇ、冒険者見習いの13歳ですが信用できる方と私は思っています」


 その言葉を受けて、ベニートさんがジィっと俺を上から下まで見てきた。


「……そうか。お主がそう言うならワシは構わんが……」

「あの~、もしお邪魔なようでしたら外で待ってましょうか?」


 何か含みのある言い方だから外で待っても構わないんだけど……。

 キヒキヒを見てみたいとは思うけどここでしか見られないわけではない。どこかのお店で売っているだろうし。


「大丈夫ですよ。それにドルテナさんがいないと運べないですから」


 木箱だけ置いておいて後で取りに来るとこも出来たりするが……。 


「なんじゃ?キヒキヒを追加で買いにわざわざやって来たのか?あの行商人が持って帰った量でも足らんのか?」

「それなんですが……実は───」


 ヘイデンさんは今回ワカミチ村までやって来た理由をベニートさんに話し始めた。


「……なんと……そうか……。それで、あの行商人の行方は全く分からんのか?」

「はい、ワカミチ村を出たのは他の行商人が見たそうですが、ツルモ村には行っていないようです。全ての宿で聞きましたが、どこにも宿泊していませんでした」


 俺とエルビラさんが出掛けていた間にそういうことをしていたのか。


「うむぅ。いつもの冒険者達も護衛で一緒に来ておったから盗賊なんかにはやられてはいまい。かといって魔物にやられたとしても馬車もなくなっているとは……」

「そうなんですよ。遺体も何も出ないのは気になります」

「とりあえず中に入れ。ほれ、子供達も」


 ベニートさんに促されて、俺とエルビラさんも家の中に入った。


「適当に座ってくれ。今ばぁさんが買い物に出ててな、ワシしかおらんのだ」


 そう言いながら俺達にお茶を出してくれた。


「それでなヘイデンよ。キヒキヒじゃが、この前と同じ量は用意できんぞ」

「えぇ、それは承知で来ました。で、どれ位なら売ってもらえますか?」

「そうじゃなぁ……。あの半分は何とかなるじゃろうが……」


 確かキヒキヒの最善な収穫時期は過ぎている。だから今ある物が全てのはずだ。

 名人の品となると殆どの販路が決まっているだろう。そんな中で余剰分が半分も残っていたならラッキーな方ではないのだろうか。


「やはりそのくらいですか。……仕方ありませんね」

「すまんな。これ以上はどうもならんのじゃ」

「いえいえ、こちらが無理を言っているんです。残っていただけでも十分助かります。それで、今日買うことは出来ますか?」


 ヘイデンさんが売買の話しを始めてので、アイテムボックスから預かっている木箱を取り出した。


「それがな……」


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