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43話

「なかなかいい筋をしているな。もう直ぐ休憩所だからな。そこまで頑張れ」

「はい!」


 俺は今、御者台に座って手綱を握っている。

 どうしてこうなっているかというと、ツルモ村を出て最初の休憩所でのことだ。




 いつも通り馬を馬車から外しているとき、セベロさんから馬車は動かしたことがあるのか聞かれた。


「馬車を…ですか?いや、さすがにないですね。馬なら乗れますけど……」

「ほぉ、誰かに習ったのか?」

「はい。宿の常連のお客様に教えていただきましたので馬には乗れます。でも馬車は経験ないです」


 いつぞや俺に、行商人にならないかと誘ってきた人が教えてくれたことがある。

 馬に乗れるようになれば気が変わると思ったんだろうな。


「そうか。……どうだ、馬車を動かしてみるか?教えてやるぞ」

「馬車ですか?それは嬉しいですけど、俺がやってもいいんでしょうか?」


 この馬車はヘイデンさんが用意した物だ。俺はそれに便乗させてもらっている身。勝手に馬車を練習台には出来ないよ。


「あぁ、それなら既にヘイデンさんに許可は取ってある」


 どうやら昨夜の晩御飯の時にそういう話になったらしい。セベロさんが横に乗って安全に教えられるのであればヘイデンさんも構わないと。


「分かりました。それではよろしくお願いします」

「そんなに緊張するな。お前は馬達と仲がいい。きっと素直に聞いてくれるから大丈夫だ」




 …………と、いうことでお昼御飯を食べる予定の休憩所までは俺が手綱を握ることになったのだ。

 セベロさんの教え方が的確で、手綱を握ってから1時間ちょっとでセベロさんの手を借りなくても馬車を操縦出来るようになった。


「さぁ、休憩所に着いたぞ。ヘイデンくん、あの辺りに停めてくれ」


 セベロさんが示した場所に馬車を停める。


「よし、上出来だ。後は馬達を頼むな」

「はい。教えていただきありがとうございました」


 セベロさんは片手をあげて答えてくれた。


 ここまで来ればもうワカミチ村までは目と鼻の先だ。1時間ちょっとで着くだろう。

 馬達の世話を終わらせてからヘイデンさんとエルビラさんが座っている所に行き、お昼御飯を食べる。


「ドルテナさん、馬達の世話をありがとうございますね」

「いえいえ、たいしたことではありません」

「それでも助かっていますから。私はノーラさん達に話がありますのでちょっと失礼しますね」


 そう言ってヘイデンさんは立ち上がり、ノーラさんの方へ歩いて行った。

 すると、エルビラさんが俺の隣に移動してきた。


「どうでしたか、馬車の操作は憶えられました?」

「えぇ。セベロさんの教え方が的確で、とても楽に憶えられましたよ」

「これで馬車があればどこへでも行けますね♪」

「そうですけど、妹のこともありますからね。見習いの間はマホンから離れる気はないんですけどね」


 エルビラさんが自分のことのように嬉しそうに言ってくれるのはありがたいが、今は何処かに行くつもりはない。

 まだ11歳のペリシアが気がかりなんだ。

 後2年したらペリシアも今の俺と同じ歳になる。そうなれば俺がマホンから多少離れても大丈夫だろう。

 せっかく異世界に来られたんだから色々な街を見てみたいと思う。

 前世でも海外には行ったことなかったし、国内だってたいして観光地なんか行けなかったからな。


「そうでしたね。以前そんな話しをしておられましたね」

「はい、今回のワカミチ村行きのお話をエルビラさんから誘われた時でした」

「そうそう、大きな溜息をされてたんで思わず声を掛けたんですよ」


 アハハハ、おもいっきり溜息をついたところを見られたんだったな。


「エルビラさんは何処か行ってみたいとかはあるんですか?」

「特に何処かというのはありませんが、マホン以外の街を見てみたいとは思っています。でも私一人では行けないんですよね」


 日本のようなかなり治安のいいところなら兎も角、魔物や山賊なんかがいるこの世界で冒険者でもない一般女性が旅をするなんて、いろんな意味で危険だ。


「えぇ、女性一人では無謀ですよ」

「なので……ドルテナさんが何処か行くときに私も連れて行って下さいね」

「え?私ですか?!いや、まぁ、構いませんが……」


 思わず聞き返した俺をエルビラさんがジト目で見てくる。


「み、見習いを卒業するのは再来年ですからかなり先ですよ?それにヘイデンさん、お父さんが許してくれるとは思えないんですが」


 護衛が俺1人な上に、一人娘が男と二人旅なんて父親としては許さないだろう。

 父親がダメだと言えば諦めるはずだ。


「再来年でも構いませんから、待ってますね。それと父も大丈夫です。ドルテナさんが見習いを卒業する頃は、私も成人しているんですから父も許してくれます」


 成人したからといって16歳の一人娘が男と旅をするのを許すとは思えないのだが……。


「……そうですか。ではその時にヘイデンさんの許可が出れば一緒に旅をしましょう」

「ええ、楽しみにしております」


 再来年という先の長い約束をしたところで出発の時間となったようだ。セベロさんが俺を呼びに来た。


「ドルテナくん、そろそろ出発だ。馬車の用意をするぞ」

「はい、今行きます!エルビラさん、出発の準備に行きますので……」

「いってらっしゃい。午後も御者をよろしくお願いしますね」


 セベロさんと共に馬を馬車に繋ぎ、皆が乗り込んだのを確認してから馬車を出した。


 馬車を走らせて1時間くらいした頃にセベロさんがボソッと呟いた。


「特に何も出なさそうだな……」

「……ん?この辺りには何か出やすいんですか?」

「そうではないのだが、昨日晩メシを食べているとき一緒になった男が、山で異様な音を聞いたと言っていたんだ」


 ノーラさん達、昨夜は宿で晩御飯を取らずに外で食べていたんだったな。そこでの話しのようだ。


「その男が言うには、昼間に山の奥からドーンとかダァーンっていう音が響いていたらしいんだ。もしかしたら変異種の可能性もあるからと慌てて帰ってきたらしい」


 昼間にドーンと……それって俺が試射していた銃声なんじゃ……。

 山彦とかで遠くまで響いていたのか?


「そ、そうですか……。今までにもそういうことはあったんでしょうかね?」

「いや、初めて聞く音だったようだな。村も一晩中警戒していたらしいが、特に変わったことはなかったそうだ」


 そりゃそーだ。その音の原因はここにいるわけだしな……。一晩中か……悪いことしたな。

 でも、あれだけデカい魔物を仕留めたんだ。あれが村に近づいていたらそれこそ大変な騒ぎになっていただろう。うん、きっとそうだ……と思っておこう。


「ここまで来ればもう大丈夫だろう。村も近いし、何かあっても村までは持つさ。ほら……」


 そう言ってセベロさんは前を見るように促した。馬車がカーブを曲がりきった先には村が見えた。


「あれがワカミチ村?ですか?」

「あぁ、今回の目的地のワカミチ村だ。……おい、ワカミチ村が見えたぞ!」


 セベロさんが車内の皆に声を掛けると、各々が馬車から顔を出して前を見た。


「ドルテナくん、もう少しだ。門に近づいたらスピードを少し落としてくれ」

「はい、分かりました」


 セベロさんの指示通りに馬車を進めて門に近づいて行く。


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