41話
「1人で出るのか?……ランクF?……。森には入るのか?」
村の外へ出るために警備兵へギルドカードを見せると毎度のことだが二度見される。
「いえ、この先の川まで行くつもりです」
「そうか……十分気を付けてな」
「はい、ありがとうございます」
警備兵にギルドカードを返してもらい、門を出る。見習いは森に入ることを禁止されているから、街道の先にある川に行くということにしておいた。
エルビラさんは宿でヘイデンさんの世話をしている。晩御飯は一緒に食べることになったのでそれまでには帰らなければならない。
暫く歩いて門から見えないところで森に入る。
辺りに危険な反応はない。奥には黄色いシルエットがいくつかある。大きさや形からして鹿のようだ。
この辺りの森は、木炭を作るためのに適度に間伐がされているので、視界が開けている。下草も刈られているので歩きやすい。
間伐材が木炭になり、残された木は建材や家具などに使用するため大きく育てられる。
奥にいる鹿の死角になるような位置を移動して近づく。
30分くらい山を登って行くと、谷を挟んで反対側の斜面に鹿を見つけた。
木々の間から日が差し込んでいる場所に鹿がいる。角が立派な牡鹿だ。
直線距離で80mくらい離れているからアサルトライフル【FN SCAR-H】を使おう。
太い木に隠れながら膝立ち姿勢で構える。
息を整えてスコープを覗き照準を頭部に合わせる。こちらに気が付いている様子はない。
鹿が下を向いて草を掻い摘まんだ瞬間に合わせて引き金を引く。
ー ダンッ ! ー
辺りに銃声が響く。
放たれた弾丸は狙い通り頭部に吸い込まれていき、脳や脳髄といった物を吹き飛ばした。
頭に弾丸を受けた牡鹿はその場に倒れ、体をヒクヒクと痙攣させている。
「よし!」
狙い通りの結果に思わずガッツポーズがでた。
鹿の元に向かうため一旦谷に降りてから牡鹿のいる斜面を登る。牡鹿にたどり着くとナイフで喉を切り、血抜きをする。
「マホンのギルドにお願いして解体だな。……いや、まてよ。ギルドに依頼したら俺が森に入ったことがバレるのか……」
自分で解体すればいいのだろうが、鹿の解体はまだやったことがないんだ。
出てくる血の量が落ち着いたところでアイテムボックスへ入れる。
「一葉に帰るまではお預けだな……いやそれでも伯父さんにはバレるか」
見習いを卒業するまではどうにもならないな。
でも俺のアイテムボックスに入れておけば鮮度は落ちないから大丈夫だろう。
「さて気を取り直して……次は……この山の向こう側かな」
シルエットだけでは距離がイマイチつかめないが、とりあえずその方向を目指して歩く。
山中を歩くこと20分程。やっとシルエットがはっきりと見えるような距離までやって来た。また牡鹿だ。
近づいていくと、木々の間から沼が見えた。どうやら鹿は沼で水を飲んでいるようだ。
幸いこの辺りは下草が伸びており、屈んで歩くと草の中に体が隠れる。
下草がなくなるぎりぎりまで沼に近づき、スコープで鹿が見えるように銃を構える。
膝立ちはせず、腹ばい状態だ。FN SCAR-Hの二脚を出して安定させる。
距離はさっきより近い、50mちょっとくらいだ。二脚を使っているので照準が合わせやすい。
狙いは頭部。
深呼吸をして息を止める。鹿の頭部と照準が重なった瞬間に引き金を引く。
ー ダンッ ! ー
先ほどと同じく頭部に命中。そのまま倒れたので上半身が水の中に浸かっている。
急いで駆け寄り、沼底に落ちきる前に足を掴み引き揚げる。
折角捕れたのに沼に沈んでは意味が無い。
喉にナイフを入れて血を抜いていく。鹿から流れ出た血が沼に広がっていく。
ここは獣たちの水場になっているのかもしれないな。
そう思い沼の方に視線を向けたとき、対岸の森の奥に赤いシルエットを見つけた。
そしてその赤いシルエットは少しずつ大きくなっている。
どうやら俺を、つまり獲物を見つけて走って来ているようだ。
この辺りに生息している普通の獣なら人から逃げる。
なのに俺に向かって来ていると言うことは魔物で間違いないだろう。
幸い、俺と魔物との間には沼がある。
いくら魔物でも水の上は走れない。だから必ず沼で一旦止まるはずだ。
そこへ銃弾を浴びさせれば魔物でも仕留められるだろう。
直ぐに鹿をアイテムボックスへ入れて、FN SCAR-Hを構える。先ほどと同じように二脚を使って撃つために腹ばいになる。
対岸までの距離はさっきより少し遠いくらい、60mくらいだ。
フルオートにして赤いシルエットに照準を合わせる。
少しずつ大きくなるシルエットに緊張しながら、魔物が沼に現れるのを待つ。
シルエットがかなり大きくなっても魔物はまだ現れない。
そして大きくなったそのシルエットは熊の様だ。熊の走っている姿に似ている。
「これってヤバいかも……シルエットがこれだけデカくなってもまだ現れないってことば、とてつもなくデカい奴だぞ……20発以内で倒れてくれよ」
一直線に近づいてくる魔物のシルエットは、普通の熊より一回り以上デカい。
深呼吸を何度もして、早くなる鼓動を抑える。
ー グワォォ!! ー
沼に現れたのは体長5m近くありそうな魔物の熊だ。仁王立ちになり両手を挙げて俺を威嚇している。
熊の目は真っ赤になっており、爪は通常の熊とは比べものにならないくらい異様に長い。どちらも魔物の特徴だ。
威嚇してくれたのは俺にとってラッキーだった。
大きく口を開けてくれるなんて、なんてサービスのいい熊なんだ。
賺さず頭部に狙いを付けて引き金を引く。
ー ダダダダダダ─── !! ー
狙った頭部に銃弾を浴びても熊の魔物は仁王立ちのままだったが、耐えきれなくなったのか、そのまま後ろに倒れた。
しかし直ぐに起き上がり森へ逃げようとした。
「……ッ! マヂか?!」
慌てて胴体に照準を合わせて引き金を引こうとしたその時、
ー ドスーン ー
こちらにお尻を向けていた熊がその巨大を横たわらせた。
そして熊に対して危険察知が反応しなくなり、魔物が死んだことを告げていた。
「死んだ……のか?頭には確実に当たってたぞ。なのに動くとかあり得ないだろう」
起き上がった俺は沼をぐるりと回り、熊へと近づく。
一応、FN SCAR-Hを熊に向けておく。
頭部に銃弾を受けても立ち上がる奴だ。何が起きるか分かったもんじゃない。
念のため、近くにあった石を熊に投げつけるが反応はない。
熊の真横に立ち、足で蹴るがこれも反応がない。本当に息絶えているようだ。
頭部を見ると顔半分がなくなっている。どうやら威嚇のために開けていた口から銃弾を食らったようだ。
「おいおい、こんな状態で動いたのかよ。化け物だな」
お化けカボチャ並みの頭部を動かして血抜きのために喉を切る。
「デカすぎてナイフが内部まで届かなぇよ」
余りにも首回りが太くサバイバルナイフでは埒があかない。
「そうだ、ショートソードを差し込もう。ナイフで切り込みを入れて、ここから剣を……」
ナイフで切られた所からショートソードを入れて、体重を掛けて奥まで差し込んでいく。
するとドバッと血が出てきた。
「ふぅ~。これで血抜きできそうだな。しかし皮厚いなぁ。開けた口から銃弾が入らなかったら仕留められなかったかもしれないな。まだ使ってない高火力武器もそろそろ練習する必要がありそうだな」
アイテムボックスにはまだ手を付けていない武器がいくつもある。
折角山奥まで来たんだ。人気の無いここで練習していこう。
「さてと、熊の方はそろそろ血が抜けたかな。……よしよし。時間的にもまだ余裕がある。今から練習しても、エルビラさんとの晩御飯に十分間に合うな」
熊の魔物をアイテムボックスに入れ、どの武器を練習するか考える。




