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40話

「あら、皆さんお早いですね。エルビラちゃん何かいい事あったのかしら?凄く嬉しそうよ」


 晩御飯を殆ど食べ終えた頃にノーラさん達がやってきた。


「そんなことないですよ。気のせいですよ」

「ふぅ~ん。まぁいいわ。あ、お姉さん、ワインもね」


 俺の向かい側、ヘイデンさんの隣に座ったノーラさんが料理を運んできた女将さんにワインを注文していた。


「ノーラさん、明日は護衛がないとはいえ、程々にした方がいいですよ。体に毒ですから」

「なぁに言ってるのよ。私はお酒に強いんだからそんな簡単に酔うわけないじゃない」

「いやいや、ダウゼン村で酔いつぶれていたのはどこの誰でしたっけ??」

「うぅ~。あれはちょっと疲れてたからよ。だから今夜は大丈夫!」

「はいはい」


 どうせ今夜も酔って絡まれるのが目に見えているから、晩御飯を食べ終えていた俺は席を立って部屋に帰ろうとした。


「ちょっとぉ、今夜は付き合いなさいよ。明日はゆっくりでしょ?」

「買い物に行くんでそんなにゆっくりはしないですよ。それに13歳なんでまだ飲めません」

「大丈夫よ。私は13歳で飲んでたわよ?」

「ノーラ、あなたと彼を一緒にしない。子供に飲ませるのはよくない」


 俺の隣に座ったパメラさんが冷たい視線をノーラさんに向けている。成人する16歳まではアルコールの摂取は禁止されている。


「わ、分かったわよ。でもドルテナくんって13歳って感じがしないのよね。大人びているというか……オッサン?」

「ノーラさん、それはちょっと酷いですよ。よく落ち着いているとは言われますが、オッサンって」


 オッサンと言われてガックリと肩を落とす。そりゃぁ確かに中身は42歳だけど、見た目は13歳なんだけどなぁ。

 ちょっとショックを受けた俺の肩をバシバシと叩く。


「アハハハ、ごめんごめん。お詫びに私がお酌してあげるから。ね?」


「……それ、詫びになってませんから」

「私のお酌では物足りないの?それならこっちがご所望かし── (ゴツン!)」


 それならと胸を下から持ち上げて俺に迫ってきたノーラさんを、パメラさんの強力なゲンコツが撃退した。

 パメラさんの会心の一撃を食らったノーラさんは、声も出せずにもんどり打っている。かなり痛そうだ。


「ノーラ、そういうことは子供にしてはダメ。教育上よくない」


 俺も教育上よくないと思いますよ。目の保養にはなりましたけどね。

 両手で持ち上げられた胸が、掌で形を変えられている光景が脳裏から離れないんです。


 俺はノーラさんがまだ再起できていないうちに席を立つ。


「それではお先に失礼します。エルビラさん、明日はよろしくお願いしますね」

「はい、また明日。おやすみなさい」


 ノーラさんが待ってと言わんばかりに手を伸ばしていたが、気付かない振りをして食堂から出て部屋に戻った。



◆◇◆◇◆◇



 翌朝。


 目が覚めると既に日が昇っていた。


 早めに寝たのでもっと早く目覚めると思っていたが、意外と疲れていたのかもしれない。


 俺は危険察知スキルのお陰で、自分に対して危険なものは赤いシルエットになる。

 壁などで相手が見えていなくてもシルエットは浮かび上がるので、とても助かっている。


 昨日の移動も危険察知を使いながらだったので自分的には楽だったと思ったのだが、体はそうではなかったようだ。


 背伸びをして体をほぐしてから朝御飯を食べるために食堂へ向かった。


「おはようございます。朝御飯をお願いします」


 厨房に向かって声を掛けると中から女将さんが出てきた。


「おはようございます。今お持ちしますね」


 そう言った女将さんは一度厨房に戻り、直ぐに料理を持ってきてくれた。


「はいお待たせしました。お連れのお嬢様から伝言で、出掛けるときに声を掛けて欲しいそうです」

「あ、エルビラさんはもう朝御飯を食べ終わったんですね。分かりました、ありがとうございます」


 エルビラさんは部屋で俺を待っているようだ。

 待たせるのも悪いので、ちゃっちゃと食べてからエルビラさんの部屋に向かう。


「(コンコン)ドルテナです。おはようございます」


 部屋の戸を叩くと直ぐにエルビラさんが出てきた。


「おはようございます。朝御飯は食べられましたか?」

「はい、済ませてきました。女将さんからエルビラさんが部屋で待っていると聞いたので……。お待たせしてすみません」


 エルビラさんは既に身支度を済ませており、いつでも出掛けられる様だ。


「いえいえ、早くてもお店が開かないと仕方ありませんからね。気にしないで下さい。行きますか?」

「えぇ、そろそろお店も開いている頃でしょう。ヘイデンさんに挨拶をしておきたいのですが、まだ寝てられるのでしょうか?」


 朝の挨拶もだが、エルビラさんと出掛けるのだから一言声を掛けた方がいいだろう。


「それがですね……昨夜、また飲み過ぎたらしく、二日酔いで唸っていまして……」

「え?またですか?!」

「はい……。私は早くに部屋へ帰ったのですが、父はノーラさんに付き合っていたようで、遅くまで飲んでいたようです」


 なぜ、同じ轍を踏むかなぁ。こりゃぁ1日中動かないな。


「父は寝ていれば大丈夫ですので、お買い物に行きましょう」


 二日酔いの父親を放置することにしたエルビラさんに手を捕まれて宿から出た。


 昨日、宿の主人に教えてもらった店に着くと、青年が店の前で品出しをしていた。


「すみません、ここはリネハンさんのお店ですか?」

「えぇ、そうですが。……どういうご用件です?」


 俺達2人を不思議そうに見ている。


 この世界で木炭を使うのは、鍛冶屋か金に余裕のある貴族や大棚くらいしかいない。

 一般人が木炭を使うことはほぼない。炊事用の燃料や暖を取るために使うのは薪で十分。価格の高い木炭を使うなんてあり得ない。

 

 俺達2人は見た目からして鍛冶屋の使いでもない。貴族や大棚の使いともまた違う。

 そんな2人が店にやって来たら、いったい何の用かわからないだろうな。


「宿の主人にこの店なら個人でも売ってくれるし、様々な窯元の木炭を販売しているからお薦めだと聞きまして。木炭を売ってもらえませんか?」

「これはこれは、失礼いたしました。私、主のリネハンと申します。ご存じかと思いますが、木炭はお安くありません。何かの燃料として購入されるのでしたらあまりお薦めしませんが?」


 何も知らない若者とでも思ったのだろう。それに身なりからして裕福にも見えないだろうしね。


「はい、マホンで木炭の価格は見たことがありますので」

「わかりました。それでは中へお入り下さい。……さて、どのような物をお探しで?」


 案内された店内には、壁際に様々な木炭が並べられていて、その光景は前世のテレビで見たお米マイスターの店内によく似ていた。

 並べられた木炭の棚の上には窯元の名前が書かれており、更にその特徴も書かれている。とても分かりやすいので素人には喜ばれると思う。


「木炭の熱で食材を焼いたりしたいので、煙や匂いのない物を探しています。後、できるだけ長い時間使える方がいいです」

「それでしたら……この辺りの物がお薦めですね」


 俺の希望を聞いた店主は、棚の一角を示した。

 

「これは着火がしやすいタイプです。あちらにあるのは着火に時間がかかりますが、先ほどの物より燃焼時間が長いです。どれも煙や匂いのない物ですので、ご希望に添えると思いますよ」


 着火がしやすい方がいいな。最初に見せてもらった木炭は値段もマホンで買うよりお得だからこれにしよう。

 4箱あれば暫くは大丈夫だろう。

 前世のトロ箱くらいのサイズの木箱に入れられて積まれているので木箱ごと購入した。


「ありがとうございました」


 店主に見送られて店を出た。


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