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39話

「見えてきたぞ」


 御者台のアダンさんが後ろを向いて、車内にいる俺達に教えてくれた。


 ツルモ村は山間の谷沿いに家々が立ち並んでいる村だ。

 木炭を作る登り窯も斜面を利用しているらしく、数カ所から煙が上っているのが遠くからでも見える。


「木炭の生産量は多いんですか?」

「領内でも多い方だと思いますよ。このツルモ村では主にマホン向けの木炭が作られています。目的地のワカミチ村でも木炭を作っていますが、ツルモ産に比べて少し価格が高いですね。質はツルモ産とあまり変わらないのですが、マホンで販売する場合はツルモ村より輸送費用が少し高くなってしまうので、その分を価格に上乗せしているのが理由のようです。因みにワカミチ産の木炭は、その先のミキヒと言う都市で主に消費されています」


 ヘイデンさんは本当に色々と知っているなぁ。

 木炭はどちらでも質は変わらないのか。でも生産量が多いならその分ツルモ村の方が価格は少し安くなるかな?


「私みたいな一般人が行っても売ってくれますかね?」

「商店なら大丈夫でしょうが、窯元はちょっと分からないですね。鍛冶屋のように大量に買うのなら可能でしょうが、そんなに大量に買っても消費できませんよ」

「大量にかぁ。腐りはしないけどそこまではいらないなぁ……。ありがとうございます。商店を見て回る事にします」


 俺が使うのはバーベキューをする程度の量だ。鍛冶屋のように大量には必要としていない。 


「ドルテナくん、木炭なんて買って何する気なの?そもそも大量に買っても持って帰れないでしょ?」

「あぁ~。まぁそうですね」


 ノーラさんの突っ込みの通り、普通の人なら持って帰られないだろうが、俺なら可能だ。アイテムボックスの容量は無制限だからな。


「簡単な料理?みたいな物をしたいので、木炭を買って帰ろうかと思ったんです」

「木炭を使うってどんな物よ。いろんな意味で見てみたいわね」

「道具とかを揃えてないので、まだお目にかけられないんですよ」


 木炭以外にもコンロの作成や網の用意が必要だ。この世界では木炭は高級な燃料だ。そんな物を料理に使うなんて思わないよなぁ。


 そんな話をしているうちに、門が見えてきた。


「さて、皆さん。門を通る用意をお願いしますね。今夜の晩御飯は各自の都合のよい時間で取って下さい。お昼御飯が少し遅くなりましたからね」

「分かったわ。私達は私達でやらせてもらうわね」


 今夜のことを確認し終えた頃に門へ着いた。

 各自が手続きをして中に入ると、門からまっすぐに道が延びていた。その左右の山の斜面に建物が建っている。


 因みに、ギルドカードを見た警備兵が俺の顔を何度も見ていたが特に何も言われることなく入ることができた。


 この村のイメージとしては、サンフランシスコの坂のある街並みに似ている。建物は2階建てが殆どだけど。


 今通っている道は反対側の門までほぼ真っ直ぐで平坦だが、この道から逸れると大体が坂道だ。

 生活するだけで足腰が鍛えられそうだな。


 街並みを見ていると宿に着いた。今回泊まる宿は、門から近いところだ。

 宿の前に馬車を停めて、御者台からアダンさんが降りて宿の中に入って行った。そして直ぐに出てきた。


「ヘイデンさん、部屋は空いているそうです」

「アダンさん、ありがとうございます。さて、皆さんお疲れ様でした。中に入りましょう」


 俺達が馬車から降りていると、宿の裏にある馬小屋から年配の男が出てきたので馬車を預けた。

 中に入ると宿の主人がカウンターの中にいてアダンさんと話していた。

 ヘイデンさん→ノーラさん→俺の順番で受け付けをして宿代を払う。


「ありがとうございます。お客様方、お食事はあと少ししましたらご用意できますので、今暫くお待ち下さい」

「分かりました、ありがとう。さて、皆さん。馬車の中で話した通り、晩御飯は各自の都合のよい時間で取って下さい。出発は明後日の朝。日の出の後に朝御飯を食べてもらえばいいです。全員が食べ終わったら出発とします」

「分かったわ。さてと、部屋に行きましょう」


 #各々__おのおの__#割り振られた部屋に向かって行く。

 俺は宿の主人に聞きたいことがあるので部屋に向かわずに主人へ声を掛けた。


「ご主人、ここは木炭の生産が盛んだと聞きました。素人の私でも釜の見学をさせてもらえる所をご存じではないですか?」

「釜の見学ですか。う~ん」

「やっぱり難しいですか?」

「そうですね。釜毎に色々と特徴がありましてね。それが木炭の品質に繋がるのですが、それは各窯元の技術なんです。それを見せてくれるところとなると、なかなか……」


 まぁそうだよなぁ。釜を見るって事はその技術も見ることになる。師匠から弟子に教えるようなことを余所者の素人に見せたりしないよな。


「ですよね。登り窯を見てみたかったんだけど諦めるか。そしたら、木炭を売っている商店でお薦めの所はありますか?」

「それならリネハンの店ですね。殆どの窯元の木炭を販売してます。それぞれの特徴に詳しいですよ。私には全て同じに見えるんですけどね。場所はですね── 」


 品揃えのいい店の場所を教えてもらっていると、カウンターの奥から女性が顔を出した。


「いらっしゃいませ。あなた、お食事の用意できたわよ」

「うん、分かった。……お客様すみませんね。それで、その二つ目の角を曲がるとお店がありますので行ってみて下さい。それとお食事のご用意が出来ましたのでどうぞ。お連れ様には私がお声を掛けてきますので」

「そうですか、ではよろしくお願いします」


 さっきの女性は女将さんだったようだ。

 主人にお礼を言った俺は、部屋に行く前に晩御飯を食べることにした。


 席に着くと女将さんが料理を運んできた。

 スープと野菜の炒め物とパンだ。


 暫くするとヘイデンさんとエルビラさんがやって来た。


「ドルテナさんが一番でしたか」

「はい。ご主人と少し話をしていたら食事の用意が出来ましてね。部屋に行かずにそのままこちらに来たんですよ」


 ヘイデンさんと話しているとエルビラさんが俺の隣に座った。必然的にヘイデンさんはエルビラさんの隣に腰を下ろした。


「ドルテナさん、明日はどうされるのですか?」


 昨日の晩御飯の時より座る位置が若干俺に近いエルビラさんが聞いてきた。


「明日は木炭を買いに行こうと思います。宿の主人にお薦めのお店を教えてもらいましたので、そちらに行ってみる予定です。その後に村の外に行って体を少し動かしてきます」

「そうなんですね。私もご一緒させていただくのはご迷惑ですか?」


 なぜか上目遣いで俺を見ている。部屋着に着替えているエルビラさんの胸元が開いていて目のやり場に困る。

 こういうのはノーラさんだけでいいのに。


「買い物は構わないですが、木炭を買うだけなので楽しくはないですよ?それと、護衛なしで村の外に出るのは危険ですからやめたほうがいいと思いますが……」


 買い物に着いてくるのは構わないが、村の外は危険だ。

 それに、エルビラさんには村の外と言ったが実際には森に入る予定だ。森の中でも守り切れなくは無いが、俺が自由に動けなくなりそうだからあまり連れて行きたくはないかな。


「エルビラ、ドルテナさんの仰る通りです。村の外は直ぐ近くに森があり、山には肉食獣だけではなく魔物もいる可能性があって危険です。護衛なしで行くような所ではありませんよ」

「ごめんなさい、つい……」


 エルビラさんはお父さんに怒られてシュンとなってしまった。


「村の外は無理ですが、買い物は一緒に行きますか?木炭を買うだけですけどね」

「いいんですか?」


 下を向いていたエルビラさんがパッと顔を上げた。


「えぇ。村内なら安全でしょうし。……ヘイデンさん。買い物が終わりましたら宿まで連れて帰ります。それで構いませんか?」

「こちらこそよろしいのですか?」

「はい、木炭を買うだけなので大丈夫です」

「それではよろしくお願いします。エルビラ、帰ったら部屋で待ってなさい。私も用事が終わり次第帰ります」


 明日、一緒に行くことが決まったのでエルビラさんが笑顔で晩御飯を食べ始めた。


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