36話
休憩所には先客がいた。
もしかしたら門が日の出より早く開いていたのは、この人達を出発させるためか?
馬車が止まるとヘイデンさんが先客に声をかけた。
「お邪魔させていただきます」
「あぁ、構わないさ。あんたらはツルモ村に向かうのか?」
「ええ、ツルモ村を経由してワカミチ村に行く予定です」
ヘイデンさんと先客の犬族のリーダーらしき人が話している。危険察知にも反応はないから安心だ。
「そうか、ならこの先は用心して進んだ方がいい。もしかしたら門兵から聞いているかもしれんが、昨日、この先で熊の魔物が出ている。体長は2m位だからそこまでデカくはなかったがな」
「もしかして、昨日魔物に遭遇した方々ですか?」
「ああ、そうだ。昨日はタイミングが悪くてな。狩の帰りで矢は尽きていたし、馬車には獣が積んであって重くてな。馬車が魔物に狙われてなぁ。馬車を守りながら戦っていたから仕留めきれなくてな。かなり手負いにはなっているが死んではおるまい」
かなり悔しそうに語っている。
そんなリーダーっぽい人のPTを見ると、イカツイ男冒険者(リーダー含む)が4名、女の冒険者が1名、男の御者が1名のPTだ。御者以外全員がマッチョだよ。凄ぇな。
リーダーは犬族だけど、左耳の上が欠損している為ちょっと怖い人に見える。
PTの中で一番小柄な御者の人は猫族のようだ。見た感じ、非戦闘員っ感じだから御者専門かもね。後の人達は人族だ。
「あ、あの!魔物でも逃げるんですか?ギルドの講習会では攻撃的だから見境なく襲ってくると教えられたのですが」
「冒険者見習いか?そうだ、魔物でもかなりの傷を負うと逃げるぞ。だから最後は一気に攻めないと仕留め損なうんだ」
「なるほど、それではこの先は気を引き締めて行かないといけませんね。情報ありがとうございます」
犬族のリーダーっぽい人が情報提供をしてくれたお礼を言って、少し離れたところに馬車を停める。
そして、馬を馬車から放して馬留に手綱を結びつけておく。
その後に、桶を出して水をあげて飼い葉を出しておき、後はブラッシングすれば終わりだ。
ここまでを少し早足で来た馬達だが、見た感じそんなに疲れているようには感じなかった。
なかなかにいい馬のようだ。
ブラッシングが終わったので俺も皆の所に行って座る。
「ヘイデンさん、さっきの方が言っていた熊の魔物ですけど、馬車でも逃げ切れないんですか?」
「そうですねぇ。馬車に荷物を積んでいなくて矢で牽制しながらだと可能でしょうね。先ほどの話しのように、馬車に荷を積んでいて矢がない状態では難しいかと」
そうすると、馬車に6人乗っている俺達は逃げ切れないということだ。
もし#出会__でくわ__#したら馬車から冒険者さんが降りて応戦ってことになるのか。まぁその為の護衛の冒険者さんだからな、頑張ってもらおう。
いやまて、俺も戦うのか?ノーラさん達はヘイデンさんとエルビラさんの護衛だもんな。俺は含まないって出発の時に確認してたしな。
う~ん、この人達の前で銃は使いたくない。けど、剣なんて全く練習してないから使えないし……。どうすっかなぁ~。
水筒の水を飲みながら悩んでいると、さっきの犬族のリーダーっぽい人がやって来た。
「なぁ、さっきの魔物なんだが、俺達もここを出たらツルモ村に向かいながら昨日の奴を探す予定なんだ。もしよかったら一緒に向かわないか?見た所、子供が二人もいちゃぁ魔物は厳しいだろ?あんた方は護衛が増える。俺達は魔物を狩れる。どうだ?」
「なるほど……。ちょっと他の方とも話し合ってからでもいいですか?」
「ああ、俺達もまだ休んでいるから大丈夫だ」
そう言って犬族の人は仲間の所に戻って行った。
「と、言うことですが……。ノーラさん達はどうします?魔物を仕留めて稼ぎたいのであれば別行動の方がいいでしょうし、それより安全を取るのであればあちらの方の提案を受け入れるか……」
ノーラさんは他の人達の顔を見てから答えた。
「いえ、今回はヘイデンさんとエルビラちゃんの護衛が仕事です。魔物も捨てがたいですが、お2人の身の安全を最優先にさせていただきます」
「分かりました。ではあちらの方に話をしてきますね」
ヘイデンさんが立ち上がり、向こうのPTへ向かって行った。
直ぐに戻ってきて、一緒に行くことで決まったと皆に報告した。俺達の休憩が終わり次第出発となった。
これで俺が戦う可能性はかなり低くなった。剣なんて使ったことないし、銃は使いたくないし。これで一安心だ。
まぁ、この世界で冒険者やるのに、剣を使ったことがない冒険者なんて俺くらいだろうな。
そんなことを思っていると、馬達も食べ終わった様なので出発することになった。
馬を馬車に繋ぎ、向こうのPTに合流する。
「それでは魔物に出会うまでよろしく頼む。ワシはこのPTのリーダーでバート。こいつがハビエル、その横がダリル。ワシの横がレイナ、その横がトーマス。御者台にいるのがベルムドだ」
「皆さん、よろしくお願いいたします。私はヘイデンと申します。私の娘のエルビラです。その横は─── 。」
向こうの自己紹介に続いて、ヘイデンさんが俺達を紹介してくれた。お互いの自己紹介が済んだところで出発する。
バートさん達の馬車が先導する形で進む事になった。幸いこの街道は、馬車がすれ違うことが出来るだけの道幅はある。
もし、後ろから魔物が出てもバートさん達の馬車を追い越し先へ進むことが可能だ。
この辺りの森は下草がかなり多いから視界が悪い。周りからの視線を遮ってくれるから、熊にとっては移動しやすいんだろうな。
前世でも、限界集落などで人里の周りの草を刈れる若い人がいなくなり、森と人里との区切りが曖昧になっているため、熊が民家までやって来ていた。
そういえば、俺の店の近くの川でも目撃されてたな。その川の中が背の高い草だらけになっていて、山から下りてきた熊が、自分の体を隠してくれる川の中の草むらを伝って街中まで来たらしい。
目撃された直ぐ横には高校があったから大騒ぎになってたなぁ。まぁそれでも川の中の草を刈ることはなかったが……。今更だが、なんで刈らなかったんだろう?
目撃された熊は体長1m位の子熊だったから、近くに親熊がいる可能生があると警察や猟友会の人が警戒していたっけな。
「この辺りにいた熊の魔物って1匹だけなんだろうか……」
ふと呟いた俺の言葉に、全員がギョッと俺を見る。いや~、そんなに見つめられたら照れるんですけど。
「ド、ドルテナくん、縁起でも無いことを言わないでよね」
「え?そうですか?でも、もう一匹いたらノーラさん達の獲物に出来るんですよね?」
「う、そ、それはそうなんだけど……。ほら、それだと護衛が出来なくなるじゃない。だから出ない方がいいのよ」
「はぁ、そうですか」
魔物が出るとその分ツルモ村に到着するのが遅れるから、それはそれで困るんだよね。
熊の魔物かぁ。サブマシンガン【P90】で通用するかな?ドデカい図体の表面を覆う毛が弾を防ぎそうでやだな。
そうなるとアサルトライフル【FN SCAR-H】でやるべきなんだろうか。
グレネードだと毛皮が破損して売却価値が下がりそうだしなぁ。
そんなことを考えながら馬車から周りを見渡す。
近くには危険察知が反応する獣や魔物はいない。魔物の熊も遠くへ逃げたんじゃないだろうか。
バートさん達は強そうだから、熊の魔物もかなりの傷を負っているんじゃないかと思う。なら熊にとってこの辺りは危険と判断する事も考えられるな。
御者台の方を見るとバートさん達の馬車が見える。どうしてバートさん達は俺達と共に行動しようと思ったんだろうか。
熊の魔物が危険を感じて逃げ出すほどの力を持っているのだから、俺達の力を当てにするとは思えない。
親切心?多少はあるだろうが、自分たちの目的を二の次にしてまで俺達を守る意味は無い。どこぞの貴族や大棚なんかならお礼がもらえるだろうが、俺達はどうみても一般庶民だからお礼目当てとも思えない。
車内は静かなものだ。全員の顔が緊張している。緊張感がないのは俺だけか。
まぁFN SCAR-Hでダメでも、もっと強力な火器がアイテムボックスには入っているから何とかなるだろう。
使ったことないけど……。
俺を除く全員が緊張している馬車は、次の休憩所へ向けて歩みを進めている。




