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33話

 燻製屋を出て程なくすると西門に着いた。


「エルビラさん、エルビラさん。西門を通るので身分証明書を出してくれませんか?」

「あっ、す、すみません。はい」


 燻製屋からずっと握っていた手を離して、エルビラさんに身分証明書を出してもらい警備兵へ渡す。


「2人だけで出るのか?」

「はい、この先にシロメツとかいう花が咲いている場所があると聞いたので見に行くんです」

「ああ、確かに今が見頃だな。とはいえ2人だと……見習いでランクF!?」


 カードに記載されているランクを見た警備兵がマジマジと俺の顔を確認する。


「うむ……ランクFか…なら大丈夫だろ。シロメツはそんなに村から離れてはいないが万が一の事もあるかもしれん、彼女をしっかりと守ってやりなよ。気を付けてな」


 警備兵から身分証明書を返してもらい西門から村の外に出る。そして宿の少女に聞いた場所を目指す。

 門を出て直ぐにエルビラさんが手を握ってきた。思わずエルビラさんの方を見た。


「ダメですか?」


 少し不安そうな表情で俺を見てくる。

 村の外に護衛なしで出るんだ、冒険者でもないエルビラさんからしたら危険な場所だ。怖くなっても仕方あるまい。俺は首を横に振り手を握り返した。


 門を出て10分位歩くとシロメツの花が見えてきた。


「うわぁ、キレイ~」

「うん、凄いね」


 辺り一帯にシロメツが咲き誇っていた。シロメツは白い向日葵みたいな花だった。高さは50㎝位で花は掌サイズと可愛らしい。

 シロメツの白い花で、辺りはまるで雪が積もったかのような風景になっている。本当に見事で、写真に収めたくなるほどだ。


「あんたら旅の人かい?」


 この畑の管理者だろうか?おじいさんに声をかけられた。


「はい、昨日ダウゼン村に着いた者です。宿でシロメツの花が咲いていてキレイだと教えてもらったので見に来たところです。この畑の方ですか?」

「ああ、儂がこの辺り一帯を管理しておる。どうかな、シロメツの花は」

「素晴らしいですね。白い花が咲き誇っていて、まるで雪が積もっているかのように見えました。ね、エルビラさん」

「はい、キレイです。私、こんな景色初めて見ました。本当にキレイ~」


 エルビラさんは目をキラキラ輝かせながらシロメツの花を見ている。ここに連れて来て正解だった。


「おほほ。奥さんにも好評のようじゃな。しっかり育てた甲斐があったわい」

「そ、そんな。奥さんだなんて……」


(エルビラさん、なに肯定してるんですか?)


 エルビラさんは村人から同じ事を言われた為か、その事を受け入れるようになってしまったようだ。


「ご主人、私達まだ13歳と14歳ですよ。それに彼女は今回の旅に同行させていただいている方のお嬢さんです」

「おやおや、それは失礼しましたな。いや、てっきり仲のよい御夫婦と思いましてな。しっかりと手も繋いでおられましたので。おほっほっ」


(あぁ、それはエルビラさんが怖がったからで……。まぁいいか)


「ところで、このシロメツはどうして栽培されているんですか?」


 これだけの量を栽培しているとなると花を売るためとは思えない。そもそも売る場合はこんなに咲き誇るまで置いておかないだろう。花が開ききる前に出荷するはずだ。


「油を取るんじゃよ。この花のこの部分を取り出して搾ると油が取れるんじゃ。それを精製してダウゼン村の特産品にしようと思ってな。まだ3年目だがシロメツもこれだけ作れるようになった。今は村内だけで販売しているが、後数年には行商人にも販売していくつもりじゃ」


(向日葵油か?確かあまり癖のない油だったっけ?)


 この村で買えるようなので買っておくことにする。


「その油はどこで買えるのですか?少し買ってみたいのですが」

「おぉ、買っていただけるのですか。ありがとうございます。広場の一角にバークリーという商店がある。そこで取り扱っておるよ」


 広場なら宿までの帰り道だからちょうど寄って帰れる。おじいさんにお礼を言って村に戻り、向日葵油を売っているバークリーという商店に向かう。


「エルビラさん、シロメツの花はキレイでしたね」

「はい、とても幻想的でした。見に行ってよかったです。ドルテナさんありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ私の買い物に付き合わせてしまう形になってしまい、申し訳なかったですね。と言いつつ後1軒付き合ってもらうのですが」

「はい。大丈夫ですよ」


 おじいさんに聞いた通り、広場の一角にバークリーという商店があった。様々な物を取り扱っている雑貨屋のようだ。


「すみません。シロメツから取れた油があると聞いてきたのですが、まだありますか?」

「はい、いらっしゃい!あちらにありますよ。どのくらいご入り用ですか?」


 店主は30㎝位の瓶を指さして聞いてきた。


「あの瓶1つだけですか?」

「いえ、あそこにある3つの瓶全てがシロメツの油です」


 結構な量が置いてあった。


「シロメツの油ってあまり出ないんですか?」

「まだ作り始めてこれで2年目だから殆ど知られてないんだ。村の者がたまに使うくらいだよ」

「なるほど。じゃぁ全部買うと村の人が困りそうですね」


 村の人も使うのに全て買ったら顰蹙者かもしれない。


「いや、そんなことないさ。普段は普通の油を使うからな。シロメツの油を買う方が珍しいのさ。うちとしちゃぁ、全て買ってもらった方が在庫がなくなって助かるぜ」

「そうですか。それなら全て下さい。あ、入れ物がないので瓶毎売ってもらえますか?」

「毎度あり!全部買ってくれるなら瓶代はサービスしとくよ。3つで50,000バルだ」


 50,000バルを支払って瓶を3つ受け取ってアイテムボックスへ入れた。


「これで奥様の料理が一段とおいしくなりますぜ」


(いや、だからエルビラさんは奥様でも彼女でもないんだから。エルビラさんも否定しなくなってるし。この村では直ぐに夫婦って言うのが流行ってるのかね、まったく困った人達だ)


「はいはい、エルビラさん帰りますよ」


 ニコニコと満面の笑みで店主を見て動きそうにないエルビラさんの手を握って、いや身柄を確保して宿に帰る。

 そろそろお昼時だろう。ヘイデンさんが復活していてくれることを願う。


「エルビラさん、お父様を起こしてきてもらえますか?私は食堂で待ってますから」

「はっ!ここは?」

「え?いや、ククル亭ですよ。バークリーから歩いて来たじゃないですか。覚えてないんですか?」

「はい、なんだかずっと夢の中にいたような……」

「と、とりあえずお父様を、ヘイデンさんを起こしてきて下さいね」


(エルビラさん大丈夫かな。夢遊病の気があるんじゃないのか?)


 少しボォ~としているエルビラさんの背中を押して二階に上げた後、食堂に座って2人を待つ。


「ドルテナさん、あの、父なんですが、まだ具合が戻らないらしくて、買い出しは帰りにこの村に寄ったときにするそうです。すみません。それと、冒険者の方々も皆さん二日酔いだそうです……」

「そ、そうですか……」


(おいおい、大人共はどんだけ昨日やらかしたんだよ。限度って物があるだろうに限度って物が!ったく)


「雇い主を酔いつぶすなんて。暫く禁酒にしましょうね、あの人達」

「ええ、私もそう思います」

「さてと、とりあえず食べましょうか。お父様のは部屋に持って行ってもらいましょうかね」

「はい……お願いします」


 女将さんにヘイデンさんの食事を部屋に持って行ってもらうように頼み、俺達は食堂でお昼御飯を食べた。


「ドルテナさん、お昼からはどうしますか?」

「う~ん。私達だけで薬草を見ても何も分かりませんしね。木工細工もおすすめだと言っていたのでそこに行ってみましょうか」


 ということで、昼からの予定が無くなった俺達は木工細工を見に行くとこにした。


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