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30話

「パメラさん、休憩場所に着きましたよ。起きませんか?」


 俺の右肩にもたれ掛かっているパメラさんに声をかけて起こす。


「ん、あっ!す、すみません。いつの間にか寝てしまって。……ノーラ、起こしてくれてもいいじゃない!」

「それは無理よ。あれだけ気持ちよさそうな寝顔を見たら起こせないわよ。ね?ドルテナくん」

「私は大丈夫ですよ。お疲れだったんでしょ?気にしてないですから」


 まぁ実際、もたれ掛かられて悪い気はしなかったしね。う~と唸りながらノーラさんを睨んでいるパメラさんはこれでよし。次はエルビラさんを起こそう。


「エルビラさん、休憩場所ですよ。起きませんか?」

「ん~。……えっ?キャッ!ご、ごめんなさい」


 エルビラさん、口から涎が……。それに気付いたのか俺から顔を背けて口元を拭っている。


「休憩場所に着きましたから、少し外で体を#解__ほぐ__#しましょうか」


 そう言って先に外へ出る。

 そしてエルビラさんが降りやすいように手を添えてあげると、先に降りていたノーラさんがニヤニヤとした顔をこちらに向けていた。


 先ずはセベロさんと2人で馬を馬車から外し、少し離れた場所に連れて行く。

 その後に近くの川で水を汲み馬にあげる。その後に飼い葉をあげてブラッシング。


 この街道は、だいたい川に沿って続いているお陰で、休憩場所近くには必ず川まで小道がある。馬の水もこうやって汲めるので、旅人には重宝されている。


 ここから2時間程で最初の村、ダウゼン村に着く。

 今回の旅では野営の予定はない。夜は全て村に泊まれる。そういう意味では今回の旅は初心者向きかもしれない。森の肉食獣と魔物以外は。


 周囲の安全確認をしていたアダンさんも帰ってきて休憩をしている。俺も危険察知で安全を確認して腰を下ろした。


 全員が集まったところでヘイデンさんがこの後の予定について話した。


「さて、皆さん。この休憩場所が最後です。予定通り、ダウゼン村には私達や馬の休息を兼ねて1日滞在します。村では各自自由に過ごして下さい」

「分かったわ。それと、本当にダウゼン村では護衛は必要ないのね?」

「はい、ダウゼン村は治安のよい所ですので大丈夫です。出発は明後日となります。日の出の頃に宿を出ましょう」


 今回の宿は全員同じ所に泊まる予定だ。この時期は行商があまりいないので、宿が満室で泊まれないと言うことは起きない。この人数なら同じ宿に泊まれるとのこと。


「ドルテナくんはどうするの?私と一緒に行動する?いろいろと教えてあげるわよ♪痛っ!」

「姉貴は直ぐそういう事を言う。ドルテナくんはダウゼン村で何か予定があるのかい?」


 ノーラさんの暴走を弟のアダンさんが拳骨をかまして止める。

 ノーラさんは目に涙を浮かべながらアダンさんを睨んでいるが、アダンさんには通じていないようだ。


「えっと、ヘイデンさんと一緒にお店を見て回りたいと思います。薬師の方がどういう素材を使うのか見たいので。いいですか?ヘイデンさん」

「はい、私は構いませんよ」

「うん、分かった。な、姉貴、そういう事だ」


 さすがは弟さんだ。ノーラさんの扱い方がうまい。


「それではそろそろ出発しましょうか」


 ヘイデンさんが休憩の終わりを告げたので、俺はセベロさんと一緒に馬を馬車につなぐ。確実につながったことを確認して馬車へ乗り込んだ。


「セベロさん、乗り込みしたよ」

「それでは出すぞ」


 ダウゼン村まで約2時間。横のパメラさんを見ると、昼寝でスッキリしたのかしっかりと後方を警戒している。


「な、何か?ちゃんと警戒してますから大丈夫です」


 思ってたことが顔に出てたかな。

 この後は特に何も起こらず、馬車はダウゼン村の手前までやって来た。


「ダウゼン村が見えたぞ。もう幌を上げても大丈夫だ」


 御者台のセベロさんが教えてくれたので、俺達は幌を上げて前方を見た。


 ダウゼン村は盆地だった。

 俺達はダウゼン村を見下ろす山の上にいるらしく、村全体がよく分かる。

 村の周りは木で作られた壁によって囲まれている。高さもそれなりにありそうだ。


 門は俺達が向かっている東門、次の村に行くための西門の2カ所。

 村の中には小さな川が流れている。ヘイデンさんから聞いた話だと、人口は5,000人前後。薬草や山菜の採取、狩猟と材木、所謂林業が主要産業らしい。


 ダウゼン村を右手に見ながら山を下っていく。村が見てえから約30分くらいで東門についた。

 山の日暮れは早く、体感的にはまだ夕方になっていないはずだが、太陽が山に隠れようとしていた。


「ギリギリでしたね。まだ門が閉まってなくてよかった。それでは皆さん、各自で入村の手続きをして下さい」


 御者のセベロさん以外は全員馬車から降りてそれぞれ身分証を提示する。

 門には2人の警備兵がいたので、右側にヘイデンさん、エルビラさん、俺の順で身分証明書を出した。

 俺のギルドカードを見た警備兵が一瞬固まったが特に何か言われることもなかった。

 左側はノーラさん、パメラさん、アダンさんの順で身分証明書を出していた。

 最後は馬車とセベロさんだ。警備兵がセベロさんの身分証明書の確認と、馬車の中を検査した。


「よし、問題なし。ようこそ、ダウゼンへ」


 警備兵に見送られてダウゼン村の中へと馬車を進める。


「セベロさん、このまま進んで広場に出て下さい。広場に出たら右に曲がって下さい。その先の道の右手にある“ククル亭”という宿に泊まります」


 さっきの警備兵に、馬車も停められてこの人数が泊まれる宿を聞いていたようだ。

 セベロさんがその指示に従って馬車を進めていくと直ぐに広場に出た。ここは様々な物が並べられて市のようだった。

 広場を右に曲がって抜ける。その先に目的の宿が見えてきた。


 ククル亭は2階建てだ。横には馬車を置けるスペースがあり、その奥には厩舎が見える。

 馬車を宿の前に停めると、厩舎から少年が出てきた。


「お泊まりですか?」

「ええ、そのつもりですよ」

「ありがとうございます!暫くお待ちください!女将さぁん。お客様です~!」


 ヘイデンさんが少年の問いに答えると、少年は宿へ女将を呼びに行った。すると直ぐに女将さんらしき女性が出てきた。


「はい、お待たせしました。ありがとうございます。馬車はこちらでお預かりしますので、お荷物をお持ちになって中へお入り下さい」


 俺達は馬車を少年に任せてククル亭の中に入る。

 1階に食堂があり、2階が客室になっているようだ。


 ヘイデンさんとエルビラさんで1部屋、ノーラさんとパメラさんで1部屋、セベロさんとアダンさんで1部屋、俺は1人で1部屋。

 1人部屋、前世でいうシングルはククル亭にはないので、2人部屋ツインを1人で使うことになる為割高だ。2泊4食で46,200バルだった。

 その金額を聞いたアダンさんが同じ部屋にするかと言ってくれたが問題ないので断った。


「もぉアダンったら、少しは察しなさいよ。ねぇ、エルビラちゃん♪」

「え?なんで私なんですか?……あ?!そ、そんなこと、は、しないですよ!」

「あらぁ、そうなの?じゃぁ、お姉さんがドルテナくんと一緒に泊まってあげるわ♪」

「じゃぁって何ですかじゃぁって。それは駄目ですよ。ダメです!」

「あら、やっぱりエルビラちゃんが一緒に泊まるのね~」

「何でそうなるんですか!私は───」


 不毛な言い合いを放置して、カウンターで受け取った鍵に書いてある番号の部屋にそそくさと向かった。


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